家族写真を撮ろうと言い出したのは、の父親の斎だった。





「せっかく子どもも生まれたんだし、」




 と言う一言に押され、というよりは斎が勝手に綱手に話して自分たちの休みとイタチの両親の外出許可まで取ってきて、写真館へと行くことになったのは、稜智が生まれて半年ほどたち、も退院した秋口のことだった。




「よし、みんな綺麗な服着てきたね。」




 斎は全員の姿を見て、大きく頷く。

 当の斎は薄い蒼の五つの花弁を持つ花の描かれた、蒼一族の家紋を描いた羽織を着ていた。それに対して妻である蒼雪は銀色の髪を一つに束ねて結い上げ、背中に流している。装いも炎一族の家紋である羽の家紋だった。





「大丈夫?イタチ。」




 は思わず子どもを抱いているイタチを見上げて、問うてしまった。両親が来ると知らされていなかったイタチは渋い顔をしている。その隣に立っているサスケも似たような顔で、はふたりはやっぱり兄弟だなぁと納得する。そういう不機嫌な顔はそっくりである。

 木の葉に反逆した両親を、イタチとサスケはまだ許すことが出来ていない。

 がちょくちょくミコトとフガクに会いに行くことは二人とも否定しないが、絶対に率先して会いに行くことはないし、話すこともない。それは今でも変わっていなかった。

 だから本当は、斎の計らいさえなければ、家族写真も家族だけで撮りたかったのだろう。





「え、俺も入っていいってばよ?」






 戸惑いがちでナルトが言う。


 最近東の対屋にの生まれたばかりの息子をかわいがりに毎日やってきていたナルトは、サスケの部屋に泊まることが多くなった。元々後見人がの父である斎だったこともあり、今や居候状態で、それをまた屋敷の主であるの母・蒼雪も、斎も楽しんでいる。 

 の両親が納得しているのだから、同居させてもらっている身のサスケやイタチは文句の言いようがない。





「良いんじゃないか?おまえ、稜智可愛がってるしな。」




 サスケも投げやりに言ってそっぽを向いた。




「そりゃそうだってばよ!稜智可愛いし。」




 ナルトはもだえるように言って、イタチの腕の中の稜智の頬を指でつつく。

 せっかく正装して火影の後継者っぽい赤い羽織を着ているというのに、その表情がだらしなくては仕方がないというものだ。





「このふにふにな感じ。かわいいじゃ〜ん。」





 べた惚れである。泣かれても喚かれても叫ばれても可愛いらしい。泣きわめいている稜智の隣でにやにやしているナルトは正直ひくが、彼が稜智を可愛がっていることは否定できない。




ちゃん、体は大丈夫なの?」




 にミコトが心配そうに尋ねる。

 は先月退院したばかりだ。妊娠してから体調を崩し、今も熱が出たり、日によっては床から起き上がれない時もあるため、心配は当然のことだった。しかも今日は正装で着物姿。帯辺りがいつもよりしまっているせいか、の顔色はあまり良くは無い。




「大丈夫。今日は調子が良いし、写真だけだから。」




 は明るく答えて、イタチの腕の中にいる息子をのぞき込む。今日は赤子とは言えおめかしされ、白くて長い家紋色の産着に身を包んでいる。緊張しているのかぱっちり目を開けて起きているが、泣き出す感じはなかった。




「座った方が良いんじゃ無いか?」




 椅子に座っていたフガクは慌てて席を立ち、に席を勧める。




「え、でも、年上の人が座るんじゃ。」

「年上が座るというのは、年上が体が弱っていることが前提だから、座りなさい。」





 要するにフガクは元気で、の方の体調が悪いのだから座れと言っているらしい。義父に言われて、は一つ頷き、大人しく座ることにした。





「兄貴も前に行けよ。」





 サスケがイタチにの隣の席に座るように言う。






「俺が前に座るのか?」

「良いじゃん。と稜智を抱いてるイタチの兄ちゃんが真ん中で。」





 ナルトもサスケの意見に賛同してイタチの背中をぽん、と叩く。

 の両親である斎と蒼雪を見ると、彼らもイタチを見ると前の席に座るように目で示した。そう言われてしまえばイタチも前に行かざる得ない。の隣に座り、今日は珍しく大人しく目を開いたまま自分を見上げている息子を抱き直す。





「皆で写真を撮るなんて何年ぶりでしょうね。貴方にしては珍しく良い案ですわ。」





 蒼雪が緩く穏やかに笑って、しかし爽やかにとげを含ませて言う。




「そうだね。僕って賢い。」




 とげなど全く介さず、むしろ一緒に全部滑らかに飲み込んでいきそうな程に堪えたそぶりもなく、斎は爽やかに笑って、の後ろに立つ。サスケとナルトはイタチの後ろで少しかがみ、その後ろにフガクとミコトが立つ。





「サスケ、髪の毛立ってるってばよ。」

「うるせぇ。生まれつきだ。」

「生まれつきだったの?」

、そういうことは後でな。」






 イタチは困った顔をしての手を握り、息子を眺めて笑う。写真を撮るカメラマンが全員に声をかけたのは、次の瞬間だった。








「君と出会えて良かった」

( あなたがいて、 わたしがいる そしてみんながいる )