子どもを産んでから一ヶ月ほどたった頃、もうそろそろマダラの相手をしろと老婆のカズナから言われた。
がマダラに抱かれたのは、うちは一族の儀礼上仕方なかった三日間だけだ。その時は何も知らずに暴れていやがったため、マダラも押さえつけるしかなく、も行為そのものを教えられたことがなかったため、心から暴力を振るわれたと勘違いしていた。
後に子どもを妊娠すると共に愛情を伝え合うものだとカナという女性に教えてもらったが、たった三日間で妊娠してしまったため、その後もマダラと夜を共にすることはあっても、抱かれることはなかった。
子どもが生まれてからもしばらくは駄目だと医師が言っていたので、そういうものなのだと思っていたが、ある老婆が諫めにやってきた。
『もうそろそろ頭領のお相手もなされんと。それに、嫡男を産んでこそ。』
生まれた赤子は女の子だったのだ。
やはり蒼一族の血は薄いのか、髪も瞳も真っ黒の赤子の性別は女で、マダラやイズナは喜んでくれたが、一族の者はやはり男児を望む気持ちが強かったようだ。おかげで一ヶ月で夜は子どもと引き離され、マダラの寝所に放り出されることになった。
昼間は子どもにつき合わされっぱなしなので夜だけでも眠れるのはありがたいことなのだろうが、それでも心許なくて、逃げたくて仕方がなかった。
「…そんなあからさまに怯えられると心外だな。」
マダラは寝所に入ってきてを見下ろし、ため息をつく。手には飲むつもりだったのか、酒がある。ごくごくたまにだが、彼は酒を口にすることがあった。
「だって、」
確かにも酷く暴れたのは悪かったと思うが、初めてで手の自由を奪われ、縛り付けられて犯されたこちらの気持ちも、少しは理解して欲しい。本当に心から怖かったし、暴力だとしか思えないほど傷ついたのだ。
「アカルはどうした。」
マダラは一つしか引かれていない布団の端に座るを呆れた目で見て尋ねてから、酒を飲む。
アカルという娘の名前は、マダラがつけた。阿加流比売神という姫神の名から取ったらしい。神の名を取るなど大層な名前で恐縮だが、マダラは別に気にしていないだろう。彼は不遜で、神など信じていそうになかった。
「…カナが、夜の間は面倒を見てくれるって。」
「なるほどな。ばばあの差し金か。」
マダラは言って、布団の上に腰を落とす。
どうやらマダラも分かっているらしい。相談役ともなっているその老婆をないがしろにする訳にもいかないは、少し俯いた。跡取りが必要なのはどこの一族でも同じだし、知っているが、出産後すぐであったため正直少し傷ついたのは事実だ。
「来い。」
マダラはそんなの逡巡も知ってか知らずか、を呼ぶ。は彼を見上げておずおずと彼の元へと歩み寄った。
どうしても前のことを意識してしまうため、手が震える。
「おまえも飲め、」
「あんまり、お酒は。」
正月などめでたい時に口にすることは蒼一族でもある。だが、あまり味がは好きではなかった。しかも透明と言うことは、辛口のものだろう。
しかも見た途端に嫌な感じがした。
「たまにはつきあえ、」
マダラは言って、遠慮なく自分の持っていた杯をに渡す。突きつけられれば、飲むしかない。はそれに口をつけたが、やはり辛口のもので、小さく息を吐く。
「熱い…喉があつい。しかも辛い。」
喉が熱くなるほどに辛い酒だった。飲んだことのないほどに辛口だ。一気に飲み干そうとしたが、喉に詰まりそうだ。
「子どもだな。」
「大人だよ。成人の儀は終わった。」
この時代、明確な大人への通過儀礼は成人の儀のみだ。とはいえ女の方が成人の儀を執り行うのは早く、また身分が高いほどに早く嫁がせるために早い。もマダラが捕らえた時には既に成人の儀を終えていた。一族の中では大人として扱われたことだろう。
しかし、大人と主張されても全くぴんと来ない。
「はい。もういらない。」
は喉の奥から体に通り抜けていく熱が酷くて手が震えたが、ひとまず杯を彼に返す。頭が熱くて、体がふわふわする。
体が支えられない気がして、両手を布団の上につく。
「眉間に、皺が寄ってるぞ。」
マダラはの額を指で軽く叩き、笑う。
「おいしくなかった。」
「当たり前だ。おまえのには薬が入ってるからな。」
「え?」
嫌な予感は、酒の味の話ではなかったらしい。
「あまり女は精力剤が効かないからな。酒と一緒に入れた方が効く。しかもおまえ、酒にあまり強くないな。」
「…熱い、ふわふわ、する。」
「それで良い。怖いのも痛いのも、もう嫌だろう。」
酒の方もかなりアルコール濃度の高いもので、マダラですら日頃はあまり飲まない。ましてや酒に耐性がないならなおさらだ。可哀想だが怯えて体を硬くすれば痛みが増すだけだ。ましてや前暴力と思ったくらいのトラウマがあるなら、なおさら。力が入らないくらいの方が良い。
「来い、」
の腕を引いて、マダラはを抱きしめる。
薄い寝間着の襦袢では、温もりは布越しとは言えすぐに伝わる。はそれを感じて恥ずかしくなり、身を捩ったが、逃がさないとでも言うように強く抱きしめられた。
「嫌、か。」
「い、いやじゃない、けど。」
頭がふわふわしていて、震える程の恐怖は感じない。が答えると、マダラはの腰紐に手をかけてそれを解いた。
は恥ずかしさのあまり俯いたが、大きな手が首筋を撫でて、頬へと触れてくる。
「良いな?」
「…うん。」
本当はもう少し待って欲しいというのが、本音だ。でもそれは許されないことだと、は知っていた。
薬なのか、酒の力なのか、あまりうまく体の力が入らない。それと同じで頭もふわふわしていて、はぎゅっとマダラの言葉に応えるように手を彼の背中に回した。
そのまま、ゆっくりと体を布団の上に横たえられる。
「…くすぐったい、」
マダラが緊張をほぐすように、の肌に触れる。その手が少し熱くて、でも触れる指がくすぐったくて、脇腹を触られた時には思わず笑ってしまった。
「余裕だな。」
マダラは笑って、戯れるようにの額に口づける。
「…そ、そういうわけじゃないけど、なんか、現実感が、」
いまいち体の力が入らないため、拒絶や断固とした行動に出ようと言う感覚がなくなる。それに、マダラの手に肌を撫でられるのは、決して悪い気分ではなかった。マダラの手が胸に触れると、乳首から僅かに白い液体が出る。
「張ってるな。それに胸が大きくなった」
もともとあまり大きくはないし、今も全くだが、それでも初めて抱いた頃よりは大きくなっている。成長したのか、それとも妊娠すれば大きくなるのか、どちらなのだろうかと、マダラはどうでも良いことを考えた。
マダラは彼女の肌に落ちたそれに舌でなめ、吸い付く。
「甘いな。」
意外だったと、口調が完全にそう言っていた。
ぼんやりとした意識の中でもやはり恥じらいが消えず、はだらけられた襦袢を引き寄せようとする。だがマダラの手がそれを止めた。
「駄目だろ。それは。」
「だって、」
ふわふわするから曖昧な感覚の中でもやっぱり羞恥心だけは忘れられなかった。
不器用な人間の精一杯