蒼一族の血継限界は、容姿も含めて劣性遺伝らしく、生まれた娘には全くと言って良いほど遺伝しなかったようだった。





「誰が見ても兄さんとそっくり」





 イズナは端的に自分の姪御をそう評して、憐れむような目で隣にいるマダラを見る。





「何か物言いたそうだな。イズナ。」

「別に何もないよ。兄さん。性格まで兄さんに似るとは限らないから。」





 誰が見ても生まれた娘はに全く似ていない。黒い髪に黒い瞳、目鼻立ちもどちらかというとマダラに似ているようで、うちは一族の遺伝的な強さを感じさせる結果となった。




「まぁ、わたしたちが遺伝的に弱いのは知ってたけど。ここまでとは、思わなかった。」




 はふたりにお茶を用意しながら、思わずそう呟いた。

 蒼一族は近親婚を推奨している。いろいろな一族があれど、正直兄妹婚まで認めているのは蒼一族だけだと言っても良い。本来ならタブー視されていることだ。しかしその理由こそが、蒼一族の容姿や血継限界を含め、すべてが劣性遺伝だと言うことのようだ。

 娘のアカルは誰が見てもマダラそっくりで、の面影は皆無と言って間違いない。





「似ている似ていないと言うが、まだ赤ん坊だぞ。」

「えー、でも絶対このふてぶてしい顔は兄さんそのものだよ。」

「おまえが俺をどう見てるか大いに疑問を持つ発言だな。」

「でもそっくりさんだよ。」






 疑問系でない所が、相変わらずののよく当たる勘だ。

 マダラとの和解の後、はいつもの根拠のない9割当たる勘を完全に取り戻し、話の咬み合わない不思議ちゃんに戻った。蒼一族でしか育たなかった彼女は相変わらずその“勘”を説明することがほとんどなく、それがうちは一族の者にもかなり“変”に映るようだったが、マダラが他の者に説明したため、摩擦少ない。

 たまにその“勘”に反発する者もいたが、それが当たるところを見ればすぐに黙るようになった。

 どちらにしても、千手一族が扉間の妻として蒼一族の娘での妹・愁を娶っている。彼らも愁の予言を使って動いており、にも協力してもらわなければ、うちは一族としても困る部分は沢山あったため、反発はしても自身に矛先を向けることはなかった。




「はい。お茶。」

「あぁ。」






 からマダラはお茶を受け取り、それをすする。イズナは相変わらずアカルを抱いているので、は彼の座っているその隣にお茶を置いた。

 千手一族とうちは一族が手を組んでから、どうやらいくつかの大名が手っ取り早く、緩やかな一族の連合体を一括で雇いたいと思っているらしい。確かに大名がバックアップをすれば金銭的には恵まれるし、他の一族との戦いを有利に進められるだろう。その話し合いも徐々にだが進んでいる。

 戦いは続いているが、遠目の力を持つ蒼一族のおかげで、戦局は極めてたやすく、前より有利に進めることが出来ている。






「もう秋ね。」






 がうちは一族に来て、もうそろそろ2年になる。早いものだ。

 2年前の秋にはマダラとイズナによって、蒼一族から攫われた。その時はまさかこうしてうちは一族に根を下ろすことになろうとは想像もしなかった。蒼一族は結界の中で生き、死ぬのが当然であり、外の世界は夢の中だけのものだったからだ。





「本当だね。を捕まえた時は、幻術効かないし、なんてもの捕まえちゃったんだって、戦々恐々としたけどね」




 イズナは明るく苦笑した。

 蒼一族の人間には幻術は効かない。そのため無理矢理言うことをきかせられないと分かった途端の落胆と戸惑いは大きかったと思う。うちは一族は幻術が得意だし、写輪眼によってバリエーションも豊富、自信もあったことだろう。ちなみに今までに幻術を破られたことはあるが、すべての幻術がそもそもかからなかったのは蒼一族のみだったらしい。

 ちなみにすべての幻術を破ったのは、山の中に住む、これまた全く他の一族と関わらない炎一族のみだったそうだ。彼らは幻術のみでなく、ただ単にチャクラを焼く特別な炎を血継限界として持っているかららしい。

 戦いの際に間違えて彼らのテリトリーに入り込み、危うく殺されるところだったと、マダラはに話したことがあった。

 多くの一族と戦ってきたうちは一族にとっても、この二つの一族は天敵と言えた。




「わたしもびっくりしたよ。突然赤い目と黒い髪の人がいるんだもん。」




 も蒼一族の結界の中に、赤い目と黒い瞳のマダラとイズナがいた時は、驚いたものだった。

 なぜなら蒼一族は皆紺色の髪に瞳で、結界の中から出たことのなかったは違うか認めの色の人を見たことがなかったのだ。





「黒髪は別段珍しくないぞ。むしろ紺色の方が珍しい。」





 マダラはの発言を理解はしていたが、その常識はあまりにおかしいので一応訂正する。

 蒼一族で育った彼女は当たり前のように黒髪が珍しいと言うが、世界的に見て黒髪は全く珍しくない。優性遺伝で有名だし、一族という枠組みでも黒髪の一族は山のようにいる。むしろ蒼一族の髪の色が紺色だという方が、世界的に見て希少だ。

 世界広しといえど、紺色の髪をした人間を蒼一族以外にマダラは見たこともないし、戦ったこともない。





「そうなのかな?」

「世界でたった30人の希少な髪色だよ。希少って言うよりも絶滅危惧種だよね。」




 蒼一族のことを、うちは一族は4,50人程度の集団だと思っていたが、実質には30人弱ぐらいの人数しかいないそうだ。しかも劣性遺伝であるため、これから他家と混ざり合えば消えていくだろう。絶滅危惧種に数えられる動植物でももう少しいるはずだ。





「それにしても、萩はよく見えるんだな。この間も襲撃を一族まで当てて見せたぞ。」





 マダラは義弟でもある萩のことを思い出して、息を吐く。

 蒼一族は千手、うちは一族を含む同盟に力を貸すかわりに、自分たちの保護を求めた。力の価値が高ければ高いほど、狙われる可能性も高い。これから蒼一族の名は他の一族にも知れ渡り、危険は増すだろう。情報が重要な時代だ。遠目の力を持ち、予言まで出来、9割当たる勘を持つ蒼一族は、良い能力を持った鴨だ。

 そういう点で、萩が姉二人を千手とうちはの当主一族に嫁がせるという選択をしたのは、正しいのかも知れない。同盟の意味だけではなく、少なくとも自分の一族に娶った限りは、希少な能力故に全力で守るだろう。

 姉二人の安全の確保を、血が絶えることよりも最優先したのだ。




「昔から、変な子だったから。わたしたちみたいに何となくじゃなくて、二種類ぐらいに絞れるみたいだよ。」




 はそう言う。未来が選択というものによって沢山あるというのはマダラもから聞いた。それでふとマダラは思い出す。

 萩はを捕らえたマダラに会合を望み、初めて会った時の帰り際、こう言った。




『どっちかわかんないから言っておくけど、もしも彼女が死ぬならその前に伝えて欲しい』





 の言葉が正しいのならば、彼はもしかすると二種類の未来が見えていたのかも知れない。

 が死ぬ未来、そして今こうして生きている未来の二つを。

 それを理解してマダラはぞっとする。萩は年上のマダラから見ると無邪気で若干軽率な餓鬼で、いつもへらへらと笑っているし、つかみ所がなく全く分からない子どもだ。しかしあれはあれで分かっていてやっているのかも知れない。

 少なくとも彼は未来が“見えているから”こそ覚悟した上で、マダラに言葉を託したのだろう。




『でも、今は良いんだよ。ぼくらが生きるのは今だから。見えすぎないのは良いことだ。』





 あの言葉はおそらく、彼の彼なりの答えだったんだろう。







「うちで勘が当たる確率は萩が9.5割、わたしが9割、愁が7割って所かな。平均的には、一族で7−8割ぐらい?」





 そんなマダラの逡巡など知らないは笑って人差し指を振って見せる。





「7割当たったら、良いギャンブルが出来るな。」





 萩は異常だが、と愁でも十分使えるレベルだ。

 それが蒼一族の常識なのだから、変な一族である。まぁそんなので固まって生活していれば、自分の勘を全く疑わず、根拠すらも話さず、重要なことを全く説明しない人間ができあがるわけだ。というか、説明しなくても理解できると思っているのかも知れない。その持ち前の勘で。






「そっかー。道理でと神経衰弱しても勝てないわけだよね。」

「それは違う。それは勘じゃなくて、記憶力が良いだけだ。」

「え?そうなの?」

「少し分析しろ。」







 イズナはどうやら分かっていなかったらしい。確かに勘を当てるのも得意だが、出た札を全部覚えていないと説明できないところがいくつもあったので、マダラは気づいていた。







苦悩する能力