まぁるくて明るい月は銀色に輝いていて、どこでも同じように見える。
日が沈み、月が空に浮かんでからも、長い間月は闇に佇み続ける。夜明けは途方もなく遠く、漆黒の闇を太陽の代わりに月が照らす。
「ぅっ、はっ、」
肩で浅い息を繰り返して、何とか酸素を頭に取り込もうとする。自分で体を支えるのが辛くて、もたれかかるように自分の体を委ね、彼の肩に頭を預けると、目の前にいる彼が、くつくつと喉で笑った。
「もう少し、だな、」
耳元で囁かれて、腰がぞくりとうずくような感覚には戸惑う。
マダラの大きな手がゆっくりと背中を撫でて、尻のラインを通って自分と彼が繋がっている部分に手を這わせる。それだけで、の体はびくりとはねて、悪寒ではない何かが背中を通るのを感じた。ぎゅっと彼の物を締め付けて、それから体が僅かに緩む。
マダラはの反応を楽しんでから、腰を持ってぐっと自分を押し込む。
「あぁっ!、うぅ、」
苦しさに背中が弓なりに反る。
マダラの膝に自分が乗るような体勢のため、いつもより深く彼が入ってくる。奥を無理矢理抉られるような刺激に、慣れていないは苦しさに必死に息を落ち着けようと小さく喘いだ。
の苦しさを察してか、マダラは無理矢理動こうとはしなかった。
「マっ、ダラ、さん、」
「大丈夫か?」
彼の手が、ゆっくりと背中に流れるの紺色の長い髪を撫でる。
「…っ、」
はうまく言葉を発することが出来ず、浅い息を繰り返した。
体調があまり良くないのか、僅かな痛みを発する自分の腹に戸惑う。月の物が来る前の数日に、イった後に腹が痛むというのが、どうもの体のシステムらしかった。その後もイけるが、それでも痛みはあるので、かなり辛い。
何度も呼吸を整えようと勤め、深呼吸をして、はマダラの肩に頬を押しつけた。涙で濡れた頬の感触が、少し不快だ。
子供を産んでから3ヶ月頃から、閨をともにするようにと侍女頭の老婆・カズナに追い立てられた。初めての子供が、女だったのがいけなかったらしい。もちろんマダラや彼の弟のイズナは喜んでくれたが、男児を産んでこそだと、口々に言われた。
初めての時、散々乱暴にされたし、はあまり行為自体を理解しておらず行為そのものが好きではなかった。今でも戸惑いが大きく、気持ち良い時もあるが、苦しいと思う方が多い。なのに基本的に月の物がなく、彼がいる時はほぼ毎晩寝所に引っ立てられることになった。
本当は、嫌な時も、疲れていてしたくない時もある。
でも一度拒んだ時、別にマダラは何も言わなかったが、それをどこからか耳にしたカズナにこっぴどく叱られてしまったのだ。
――――――――――――男児も産めず、妻の勤めも果たせぬなど、
カズナの冷たい目が男も産めず、妻の役目も果たさぬ他家の娘などいらないと、言っていた。その侮蔑と嫉妬、羨望、そして排他的な心が見えた時、はマダラに何も言うことが出来なくなっていた。
彼がに乱暴を強いているのではない。
彼はにとても気を遣ってくれるし、体調が悪いと言えば仕方が無いと引き下がってくれた。帰って来ないことも多いが、忙しい中でもうちは一族になれていないがきちんと過ごせているかを気遣い、の子供だからと娘のアカルもとても可愛がってくれている。
彼は理想的な夫だ。冷たいと言われることもあるが、に対してそんな態度を見せたこともない。とても優しい。
だから、も些細な事は、我慢しなければならない。
「…動くぞ、」
マダラがの体が馴染んできたと判断したのだろう、軽く上へと突く。軽く押し上げられるような動きは腹の痛みを助長させたが、反射的に上がりそうになる悲鳴を口の中に閉じ込めた。代わりに涙が勝手に溢れて、視界を塞いでいく。
苦しい、痛い、でもイきそうになる。
イくのはいつも怖いけれど、麻薬なのではないかと思うほど独特な、甘美な感覚だ。怖いけれど味わいたい。すべてを持っていかれ、すべてを解放するようで、何とも言えない。でも今はその感覚と苦しさ、痛みがごちゃ混ぜになる。
「ぁ、あぁ、う、あ、」
耳を塞ぎたくなる酷い水音や、自分の嗚咽さえもどうにも出来ない。体の感覚がままならず、は強くマダラにしがみつき、爪を立てる。
もうやめて、痛いと悲鳴を上げたくなる心を、必死で理性が繋ぎ止める。
彼に必要とされなくなってしまったら、はもううちは一族で生きていく術がない。彼しか頼る人がない。だからできる限り彼の望むとおりにしなければならない。
はやく、おわって、
「…はっ、っ、」
彼が僅かに息を乱して掠れた声を上げる。と同時に騎乗位では動きづらかったのか、勢いのまま褥の上に押し倒され、はマダラを仰ぐ。だが激しい動きについていけず、空気を吸えず、苦しさは増して、意識が遠のくような気がした。
僅かに顔をそらすと、長い彼の漆黒の髪がふってきて、闇の帳のようにの視界を塞ぐ。導かれるように見上げた彼の表情は僅かに眉を寄せて、いつもでは感じられないくらい艶やかだ。
「何っ、考えて、る、」
途切れがちな声に尋ねられて、濡れた手にそっと目元をなぞられる。苦しさのあまり出た涙が、彼の汗で濡れた手をまた濡らしていく。
「ま、だら、さっ、の、と、」
息がうまく出来ないので、必死で喉を震わせながら答えると、彼はその漆黒の瞳を少し大きくした。
嘘ではない。彼のことを考えていた。彼の傍にいたいから、苦しくても痛くても、必死で彼に応じている。妻としてきちんとつとめが果たせなければ、追い出されてしまう。それは彼の傍にいられなくなると言うことだ。
だから、今、こうして胸が詰まるほど苦しくても、痛くても我慢して、耐えているのだ。
「そう、かっ、」
マダラはその答えにおおむね満足だったのか、少し激しく動いての中を突くのをやめ、戯れるように首筋や胸元に口付けを落とした。あまりの激しさに空気を吸えず、意識の危うかったは何とか我を取り戻し、酸素を取り入れる。
だが、マダラが陰核に触れた途端に、体を跳ね上げた。
「ひっ、ぃ、まだ、さん、あぁっ、」
敏感な部分を指で軽く押しつぶされ、いじられる。擦るように何度も指で愛撫されれば、下半身がこわばり、体全体に感覚が伝わった。
快楽を覚えて痛みが遠のいていく。
あまりにも幼く、男になれていない体は、快楽に弱い。動かれず苦しさが緩和されたこともあり、陰核だけに感覚が集中する。
「ふっ、ぅ、ひゃっ、あ」
陰核を擦られると同時に収縮する中が、動かれていないのに、マダラが自分の体にあると知らしめ、体を勝手に煽っていく。必死で快楽に煽られていく頭を留めようとするのに、意志と反して簡単に上っていってしまう。
イった後、二回目だし、相当痛むだろう。月のものが来る前はいつも痛む。それでも、走り出した感覚は止まらない。
「良いっ、子だ、」
マダラが楽しそうに笑って、陰核を無理矢理押しつぶすと同時に、自分のものを中に押し込む。その強い衝撃に、堪えようとしていたの体は、あっという間に落ちた。
「あぁあ、あ、だめっ、だ、イ、っ!」
もう声を上げたって遅いのに、怖くて悲鳴のような高い声で泣く。マダラも誰も聞くことが出来ない掠れた低い声を上げたが、すぐにぐっとの体を強く抱き込んだ。
じんわりと体の奥に独特の感触が広がる。
そっとマダラがの頭を撫でつける。優しい感触に余韻に浸ろうとしていたは、腹部に感じる鋭い痛みに眉を寄せた。
「どうした?」
マダラは間近でが顔色を変えたのが分かったのだろう、すぐに心配そうに尋ねる。
「ん、だ、大丈夫、」
はそう言って無理矢理マダラの胸に自分の顔を押しつけて誤魔化した。
愛を積み重ねて灰になる