多くの一族が集まる会議の場に来たマダラは辺りを見渡す。目当ての人間を探すためだったが、隣のは緊張するようにおろおろと辺りを見回していた。




「どうした?」

「こ、こんなに人が集まる場所は初めてで、」





 一応この間の休戦協定を主導したのはうちはと千手一族だが、の実家である蒼一族を初め、奈良、山中など希少な血継限界や秘術を扱う一族の長も奥方同伴で来ていた。要するに政治色の薄い、社交の場と言うことだ。





「あそこを見ろ、あれは白眼という目を持つ、日向一族だ。」

「日向?」

「あぁ、写輪眼とは違うが、あれも瞳術の血継限界だ。」





 マダラは顎で少し向こうにいる黒髪の男を示す。まだ若い男だったが結構な使い手で、今回の休戦協定に参加した一族だ。優秀な血継限界を持つ忍も集まるこの場で、それぞれの一族が同盟を組んだり、まとまったりして徐々に大きくなりつつあった。

 戦国の時代は、終わりつつある。




「あ、愁。」





 は反応が悪かったが、違う影を見つけて、顔を上げる。あちらもに気づいたらしく、隣にいる夫そっちのけで走り寄ってきた。




「姉様っ!」





 愁は隣にいるマダラを見て一瞬嫌そうな顔をしたが、遠慮無くに抱きつく。

 の二つ年下の妹、愁である。柔らかく波打った紺色の髪は長いよりずっと短いが、前見た時は髪を段々に切り揃えていなかったのに、今では顔の横と肩口で一房ずつ切り取り、後ろで束ねている。成人した証だ。

 14歳になった彼女は千手一族との取り決め通り今年、柱間の弟・扉間の妻となった。




「…愁、あまりそういう振る舞いをするのは、」





 扉間が嬉しそうに姉に抱きつく妻を止める。一応姉とは言え、はうちは一族の頭領であるマダラの妻だ。真面目な彼からしてみれば身分をわきまえろと言う意味だったのだろうが、愁はに抱きついたまま、ぎっと振り返って彼を睨み付ける。





「姉との再会を喜んで何か悪いの?」

「…いや、悪くないが。」





 扉間は勢いをなくして、目をそらして口を噤む。





「…ご、ごめんなさい、」





 の方が困ったような顔をして、存分に自分の抱きついてくる愁を撫でながらも、扉間に謝った。

 は三人姉弟の長女だ。次女が目の前にいる二歳下の愁、そして一番下に4歳年下で蒼一族の今の当主である長男の萩がいる。弟を産んだと同時に生母が亡くなり、父も当主として忙しかったためか、姉を慕う弟妹の感情は、どちらかというと母を慕うものとよく似ているのだろう。

 おかげで、正式にを娶った今でも母親を取られた子供のように、愁はマダラが大嫌いだった。




「なぁんで姉様が謝るわけ?別にわたし、悪いことしてないわ。」





 結婚すればなかなか実家に帰ることは出産の時以外出来ないし、ましてや他の一族となれば、出産ですら帰れず、そのままよそに骨を埋めることもしばしばだ。それを考えれば愁の主張も分かるが、男社会である現在の状況には全く合致していない。





「そ、そうだけど、ね…?」





 ぷぅっと頬を膨らます愁は本当に子供そのものだが、が頷くのを躊躇う理由が、マダラには百も承知だった。

 愁は3姉弟の中で唯一、非常に気が強い。素直に物を言うと言うだけではなく、とげとげしいし、驚くほど気も強く、猪突盲信、大胆だ。この年下の幼い妻に賢いことで有名な扉間がたじたじだという噂は、既にうちは一族にまで聞こえていた。





「おまえも苦労するな。」





 マダラはちらりと扉間に一瞥をくれて言う。





「…」





 口達者でしっかりしている扉間は口を噤むしかないらしい。大きな体の扉間が小さくなっている姿は、長らくの敵ながらマダラですら憐れみたくなるほどだった。





「みなさんとはうまくやっているの?」

「うん。特に柱間様の奥様のミトさまはすっごく良い人でね。全然怒ったりしないよ。娘が出来たみたいだって可愛がってくださるよ。」

「か、寛大な方なのね。」





 は笑いながらも、酷く驚いたようで声がうわずっていた。

 マダラが聞くに、きつい性格の愁は、たまに姉弟の中でも浮いていて、血継限界が劣性遺伝であるために同族婚を推奨している蒼一族の中でも誰も嫁に取りたがらないだろうと言われていたそうだ。もしも蒼一族が昔のように結界の中で住んでいたなら、愁が結婚できるのは弟の萩ぐらいだろうと思っていたと、が言っていた。

 まぁ少なくとも扉間の兄の柱間は、愁の生意気な口調など、気にもとめないだろうが。





「赤さまはいないの?」






 愁は少し不満そうにに尋ねる。

 マダラを嫌っている愁だが、それでも姉は大好きらしく、の出産に対して大量の贈り物を千手一族からの贈り物の他に贈ってきていた。





「流石に、ここは遠いだろう。」




 扉間は冷静に愁に返す。だが愁にとっては納得出来る理由ではなかったらしく、唇に人差し指を当てて唇を尖らせる。





「ざーんねん。せっかく見れると思ったのに。見に行っちゃ駄目?」

「え、…」





 は答えに困ってマダラを見る。

 愁はマダラを嫌っているが、もちろんマダラは愁が好きではない。それをは知っているため、気軽に頷けないのだろう。ましてや今となっては愁は千手一族の一員だ。もともとうちは一族と千手一族の争いは根が深く、簡単ではない。

 だが、マダラは大きなため息をつくに留めた。





「別に構わん。好きにしろ。」





 どちらにしても休戦協定を結んでいる限り、表だって拒否するのは得策ではないし、攻撃も出来ない。そんなことはするだけ無駄だ。ならば、別に断る理由はない。

 それに、最近は至極沈んでいるように見える。気分で転換になるなら、それに越したことはないとマダラは思う。




「やったー!!姉様の赤さまは姉様似?」

「いや、まったく。」

「えー即答。面白くない。こんな強面なんて。」

「愁!」





 マダラ本人の前でのいき過ぎた発言に、扉間が愁を止める。だが当の愁は別段マダラを恐れる心持ちはないらしい。




「恐れ知らずの小娘だな。」





 マダラも愁に関しては怒りを通り越して感心すら覚える。

 前から無鉄砲な奴だとは思っていたが、ここまでマダラに対して言える女も珍しい。というか、初めてだ。女も男も、大抵の人間は皆マダラを恐れている。うちは一族ですらもだ。こんな口をきけるのは、彼女が蒼一族出身で、マダラの戦いぶりを知らないからだろう。




「うん、マダラさんに似たならきっと美人さんになるよ。」





 は別に気にした風もなく、笑いながら軽く小首を傾げる。





「うち、みんな童顔でしょう?だからきっと美人さんの方が良いよ。」

「姉様と萩はそうだけど、わたしは別に違うわよ。」

「でも割合的に多いでしょう。」





 と萩は父親にらしく、紺色の大きな瞳とさらさらの紺色の髪が特徴で、顔立ちも小作りの癖に目だけが大きいから、童顔だ。印象的にも年齢の割に随分と幼く見える。だが、母親似だという愁は鼻筋が通っていて普通だった。






「ふぅん。あんまりあいつに似てるのは気分が悪いけど、姉様の子供だからきっと可愛いわ。」

「愁!言い過ぎだ!」

「うるさいわね、神経質なんだから。」





 扉間が止めるが、愁は平気で腕を組んで悪態をつく。




「本当に、に似ず、本当に口の悪い妹だな。」






 マダラも呆れたようにの隣に立って、腕を組んで愁を睥睨する。





「ご、ごめんね、甘やかして育てすぎたのかも。」





 は困惑した顔をしながら、マダラと扉間の二人に謝っていた。

じゃじゃ馬姫