年をまたぐ頃には、うちはの屋敷は酷く忙しくなった。
「んーこんなもので良いんじゃ無いかしら。」
購入する物品のリストを見ながら、は軽く小首を傾げて言う。
年末で来年の物品購入から、武器の補充、会計などもすべての元に集められており、はそれに目を通し、時には決断する必要があった。
嫁いできた限りそう言った裏方のことを担うのは頭領の妻であるの仕事だ。昨年の暮れにマダラに嫁いでいたが、互いの関係は悪く、まだの実家である蒼一族とも和解をすませておらず、妊娠中だったため、昨年まではマダラとイズナがやっていたらしい。
とはいえ、今年からはの仕事であり、侍女のカナとカワチ、イズナなどに助けて貰いながら、何とかこなしている。
「昨年より出費がすごい少なくなったね。」
昨年の表と比べて、総合的なうちは一族の出費は大幅に減っている。子供の出産があったにもかかわらずだ。アカルが産まれたことによって色々入り用で買い入れたはずだったが、あまり出費が増えたと言うことはなく、主に減っていた。
「それは様があまり物をお買いにならないからですわ。」
侍女のカナが苦笑しながら言う。
「え、武器、足りてない?」
「そんなことはありません。むしろ増えたくらいです。」
よくマダラたち男衆と戦いにも出向くもう一人の侍女、カワチが首を横に振った。
「今まで奥向きでかかるお金が多すぎたんです。」
があまり侍女を必要としない上、子供がまだ少ないことから、マダラは炎一族にを攫われた件から大幅に侍女を減らした。
マダラはが必要としては困る上、うちは一族になれるためにも手助けになるだろうと侍女を残していたが、その侍女が蒼一族出身のを侮るようになっていた。結果的に侍女頭・カズナの更迭とともに、カナ以外の侍女はすべて解雇され、カワチも改めて雇い入れられた。
は子供にも乳母をつける気が無いため、なおさら侍女の数は減った。それで別段今のところは不自由を感じていないので、良い人がいれば雇い入れる感じになるだろう。
今まで奥向きのことにマダラが口を出すことは全くなく、侍女頭の独裁のような物だったから、彼女が首になってから、出費は単純になくなった。元々蒼一族は自給自足生活を旨としてきたため、は何か行事ごとが無い限りはマダラが心配するほど着物の1つも新調しない。
しかも裁縫が得意のため、新調させれば縫い師に頼むよりも驚くほど良い仕立てをして見せた。
おかげで今まで奥向きにかかったお金はほとんど武器や備蓄にまわされるようになり、子供関係の物も布さえ買ってしまえばが綺麗に縫うので、二人目の子供が生まれても余裕そうだった。
「口止めされておりませんから言ってしまいますが、マダラ様が新年の贈り物に悩んでおられましたわ。あまり値が張ると、様が喜ばないのではないかと。」
カナがおっとりと言う。
マダラ曰く、新年に夫婦が贈り物をしあうというのは普通のことらしい。この時代誕生日が分からないことも多いから、数え年になるからだろう。年を重ねると言うことになるわけだ。
元々は極めて物欲がなく、比較的節約家で、着物に関しても布地を与えれば誰よりもうまく仕立てる。よく女性は高い贈り物をされると喜ぶと言うが、マダラはの性格をよく承知しているため、困り果てていた。
マダラは真剣な顔で侍女のカナに相談してきたのだが、正直カナもお手上げだった。
「え、そうなの?マダラさんからもらえると何でも嬉しいけど、確かにあんまり高い物はなぁ…」
は少し目じりを下げて思わず唸ってしまった。
「着物の小物くらいかなぁ。必要なのは。」
攫われたため嫁入り道具を持って来ていないは、帯締めや帯留めなど、自分では中々作りにくい物に関しては手持ちがほとんどない。髪飾りなどはマダラの母の物などが使わずに放置されていたため良かったが、小物に関してはどこかに行ってしまっていた。
「そうですか、マダラ様にお伝えしておきます。ところで、様はもうお決めになられましたの?」
「秘密にしてくれる?」
「もちろんですわ。」
「うーん。実用的な物が良いかなぁと思ったんだけど…ほら、アカルの守り刀あるでしょう?同じ蒼一族の刀工に作って貰って、あげようかと思って。」
「え、様がお持ちの、漆のですか!?」
カワチが声を荒げて尋ねた。
「様が弟君から姫様が生まれた時に贈られたものですよね?あれをもう一本ですか?」
「うん。マダラさんがあれを随分じっと見てたから。もちろん短剣じゃなくて大きなものよ。」
の部屋を訪れる際に飾ってあった守り刀をマダラがよく眺めていたのだ。あの意匠が気に入ったのかと思った。だから新年の贈り物をするにあたり、弟の萩に連絡して同じ蒼一族の刀工に、男性向きの普通の刀を作って貰ったのだ。
「あ、あれは、非常に特別な物ですよ!あんな刀身が薄い赤色のものなんて、しかも仕立てが良くチャクラを通す品です。忍であれば誰もが欲するほどのものです!」
どうやらとカナには全く値打ちが分からなかったあの美しい刀は、カワチにとっては驚くべき高価な物だったらしい。
とカナは思わず二人で顔を見合わせてしまった。
の侍女は攫われた当初から世話をしてくれていたカナと、護衛も兼任するカワチの二人だ。カナはどちらかというと女らしく、裁縫も得意でにいつも女性としてのことを教えてくれる。対してカワチはうちはで指折りの手練れであり、良くも悪くも男らしかった。
戦わないにはあの刀はあくまで弟の萩が娘の守り刀にと贈ってくれた物だという価値しかなかったが、カナにとっては実用的な価値があったらしい。
「…わたし、鞘の漆が少し高価なだけの品だと思ってたよ。刀身に使われている鉱石は、蒼一族の住処の近くでとれるから、それ程珍しくもないし。」
「とれるんですか?!」
呆然としてカワチは叫んでから、感嘆したように頷く。
守り刀は短剣で、薄い赤色の刀身が美しい上、持ち手にも独特の文様が刻まれており、鞘にも美しい漆の装飾の入った品だ。うちは一族の頭領の娘への守り刀として全く申し分のないものだとは思っていたが、もまさかそれが実用性も含めてだとは思っていなかった。
ましてや刀身に使われている鉱石は、チャクラを通すのは承知だったが、蒼一族ではよく使われている物で、別に珍しくも高価でもない。
戦わず、結界の中で引きこもっていた蒼一族にとって、子供に持たせる守り刀や神社に備える供物の一部くらいにしか使用用途がなかった。蒼一族の当主であり、贈った本人の萩ですらも知っていたのか怪しい。
「知りませんでしたわ。そんなに価値のある物だとは。」
カナも目をぱちくりさせてに同意する。
「実はイズナさんにも少し小さな細身の刀を作って貰ったんだけど、そんな価値のあるものだったら、良かったよ。」
新年の贈り物にするにはあまりに重いものかもしれないが、初めての贈り物だし、喜んで貰えそうならとしてはそれで良い。
「その鉱物が蒼一族近くでとれることをお話にならねば、目玉が飛び出るほど驚かれますよ。」
カワチは真剣な表情で言った。
うちは一族がその刀を購入しようと思えば、恐ろしい値段を払わねばならないだろう。チャクラ刀は簡単には手に入らない。うちは一族でも何人か伝統的に持っている血筋もあるが、今から購入しようと思えば恐ろしい値段になる。
だから売らないし、買えない価値があるのだ。
もしも普通の値段で2振りも購入したならば、小さな蒼一族の財政は干上がってもおかしくない。マダラも妻の実家がそんなことになれば心配するだろう。
「所変わればということですわね。」
カナもしみじみと言って、笑みを零した。
「他に必要な物はございませんか?なければこの会計表をマダラ様にお渡しして終わりですわ。」
「ミト様との面会に関することは大丈夫?」
の体調に問題がなければ、千手一族の頭領の妻であるミトとの正式な会合は1月にうちは邸でと言うことになっている。その用意は当然ながらに一任されている。
「滞りありませんわ。」
「なら、そんな年末に改めて買う物はないよ。」
正月の準備に関しては既に見積もりを出している。これ以上買う必要もないだろう。は一応一通り誤字脱字がないかを確認してから、それをカナに渡した。
贈り物