マダラとイズナはから新年の贈り物の品を受け取り、呆然とした。

 侍女が運んできた二振りの刀は黒塗りの漆の鞘の美しい、どちらかというと実用的な物だったが、束に入った独特の文様を見て、向かい合って座っていたマダラとイズナは、すぐにマダラの隣に座っているに目を向けた。

 アカルが産まれた時に守り刀としての実家である蒼一族から贈られてきたのも、この独特の円形を描いた文様の束を持つ、漆塗りの短剣だった。はよく価値が分かっていないようだったが、マダラは短剣の束を払って呆然としたのだ。


 それは薄い赤色をした刀身の、チャクラ刀だった。


 姉を大事に想っている蒼一族の当主・萩がうちは一族が攫ったという事情で、持参金も花嫁道具も基本的にうちは一族が用意すると言うことに話し合いでなっていたため、その意味でも贈った品なのだろうとマダラは解釈していた。

 だが、新年の贈り物としてがマダラとイズナに贈るこの刀は、明らかに同じ刀工が作った物だ。



「…おまえ、これの価値が分かっているのか?」




 刀の鞘を払ってチャクラ刀である事を確認して、マダラは眉を寄せてに尋ねる。

 チャクラ刀は高価な物で、購入するとなれば莫大な金が必要とされ、大抵は長らくの家が一振り持っていれば良い程度の品だ。うちは一族の中でも所有しているのは数振りだけで、守り刀として贈られたそれですらも十分に実用にたる物だった。

 ましてや今回は刀身も長い、普通に実用するための物だ。大きさも普通の物で、確かにイズナの物の方が少し小ぶりだったが、値段に出来ない程の価値があるだろう。




、これ、家宝級の物だよ。」




 イズナは貰った小ぶりのそれを見ながら、呆然とした面持ちで言う。



「そうなの?」

「そうなのって、、一体いくら払ってこれを作って貰ったのさ。」

「値段の話ってしても良いの?十万両くらい。でもイズナさんの方が少し安かったかな。」




 それはただの刀一振りの値段としては高いくらいだったが、チャクラ刀が買えるような値段では全くなかった。ましてやそんな特別な刀を作る代価としてはあまりにも安すぎる。




「鉱石はわたしたちの家が持っている場所から、萩が拾ってきた物だから、」




 は軽く首を傾げて、やはりマダラたちが何をそんなに驚いているのか分からないと言うような顔をした。




「この鉱石が産出する場所が蒼一族所有なのか?」




 マダラはの、道で拾ってきたばりに酷い言い方に目を剥く。




「うん。まぁ、守り刀作るくらいにしか使わないけどね。」




 蒼一族は戦いをほとんどしたことのない一族だ。そのため武器もそれ程他の一族と違いたくさん作る必要性がなかった。



「良いか?すぐに萩に連絡して、それを絶対に口外するなと言っておけ。」




 マダラはに念を押すように言う。

 もしもチャクラ刀に使う鉱石を蒼一族が持っていると分かれば、他の一族が襲いに来るのは火を見るより明らかだ。へたをすれば遠方の地域の一族ですら欲するかも知れない。また売れば莫大な利益を得ることが出来るだろう。

 どちらにしても小さな蒼一族がどうにか出来るような物ではない。




「え、じゃあ、これ、困るの?カワチは喜ばれると思うって言ってたのにな。」

「…蒼一族に作らせたというのは、黙っておく。」

「要するにうちは一族の予算から出た、の贈り物にしておくって事だよ。」



 マダラの言葉に、イズナが付け足す。

 蒼一族には悪いが、チャクラ刀にするための鉱石を蒼一族が持っていると言うことになれば、蒼一族自体が危うくなるだろう。幸いこのことを知っているのはごく少数の人間だ。早めに口止めしておかねば、大変な事になる。

 それにうちは一族の予算ならばチャクラ刀の一本や二本の購入は可能だ。別にマダラとイズナがこれをの贈り物として持っていたとしてもおかしくはないだろう。刀工だけが、蒼一族の人間だとでも言っておけば良い。



「…ごめん。実用性がある物が良いかと思ったんだけど。」



 はあまり良い贈り物ではなかったのかと目じりを下げる。



「いや、これは素晴らしい品だぞ。アカルの守り刀を見た時から、普通の刀をこの刀工に頼もうかと思っていたほどだ。」



 マダラは不安そうな顔をしているの肩を叩き、首を振って真剣な顔で言った。

 確かにチャクラ刀だということもかなり印象的だったが、何よりも刀工自体の腕が非常に良く、僅かに触れれば切れるほどの鋭さがあった。戦わぬ蒼一族にここまで鉄を扱う技術があることに驚きを覚えたほどだ。




「うん。マダラさんがあまりにじっと見てるから、その意匠が好きなのかなって。」

「…」




 の観察はあまりに的外れだったが、マダラがその刀を気に入ったという点では正しい。




「そういえば、カワチが喜ぶだろうって言ったって、彼女は刀になんて?」




 イズナはに尋ねる。

 侍女のカワチはうちは一族でも指折りの使い手だ。もちろんアカルの守り刀がどれほど高価なのかも承知だっただろうし、マダラにその刀と同じ質、刀工の物を贈ると聞いて、なんと言ったのだろうかと不思議に思う。

 蒼一族以外の一族ならば、誰もが目を剥くような品だ。




「んー、鉱物が蒼一族近くでとれるって事を説明しなかったら、驚くと思うって言われたよ。」

「説明されても驚くがな。」



 マダラは付け足して、もう一度刀を握る。

 見た目は普通の刀だが、他の刀より僅かに軽く、刃は非常に良く研がれていて、まがりもない。驚くほどに鋭利なそれは、マダラの手にもしっくりと馴染む。

 鉄とチャクラ刀に使える鉱石を混ぜるのは非常に難しい。そのためチャクラを通さなければ硬度を保てないチャクラ刀というのは多数存在する。それでも普通の刀よりもチャクラを通した刀の方がよく切れるから、それが用いられる。

 だが、この刀はチャクラを使わずとも十分に鋭利で普通の刀と争える。チャクラを通した時の切れ味は恐るべき物だろう。



「これを作った刀工に会いたい物だな。」

「こないだ会ったよ。」

「は?」

「だから、マダラさん。秋の宴の時に会ったでしょ?蒼一族の節だよ。」



 この刀を作ったのは、マダラが宴の時にあった蒼一族の少年・節だ。蒼一族では同族婚が常だが、人数は四十人程度と非常に少ない。そのためと同じ年頃の節は、の結婚相手の候補者の二人のうちの一人でもあった。

 そんな事情を知っていたマダラは再会を喜ぶと節が不快でたまらなかったのだが、彼がどうやら刀工だったらしい。



「彼の家は昔から蒼一族では鋳物師をしてたの。まぁ、蒼一族では薄水色の刃にするのが、普通なんだけど、萩はうちは一族には赤が良いだろうと思ったみたい。」



 蒼一族では守り刀を特別な鉱石で作る時、薄い水色になるように色を混ぜるのが慣習だった。だが、萩はうちは一族に産まれた姪御の守り刀に淡い赤色になるように色を混ぜるように命じたという。

 それは炎を操るうちは一族を表しての、萩の粋な計らいでもあった。



「まぁ、腕は認めるしかなさそうだな。」



 マダラは少し不機嫌そうに言ったが、は彼の不機嫌の理由が分からず首を傾げる。




「確かに。これだけの刀はなかなかないよ。兄さんの焼き餅はともかくね。」

「…やきもち?」

「イズナ、俺がいつそんなことを言った。」

「え?違った?」




 イズナがからから楽しそうな声を上げて笑い出す。それはマダラが鞘をイズナに投げつけるまで続いた。