秋が近くなると、砂漠の近くから争いがやってきた。それは、完全に休戦協定を停止させるに足る理由となった。一部の一族が争いを避けるために砂漠からやってくる敵に協力したのだ。あっという間に千手が提唱した休戦協定は、紙切れ同然のものとなった。

 休戦協定に同意して当然同区画に住んでいた一族たちも、元もと自分たちが支配していた領域に戻るしかなかった。

 の実家である蒼一族も、泉近くの深い森にある結界の中に戻っていった。



「口約束だけでは、難しいのね。」



 柱間は休戦協定を力でではなく、話し合いだけ、口約束だけで行っていた。理想は確かに戦いに疲れ果てていた人々には意味があった。だが、それを継続するには無理があったのだ。力という拘束力なくしては、結局何も意味がないと言うことを、は痛感することとなった。


 ただし、は未だに炎一族や、先日約束を仲介した波風一族や犬塚一族との繋がりは保っており、彼らは少なくともうちは一族に対しては停戦状態を続ける気のようだった。

 マダラが言うことが正解で、結局力と、理想、どちらもなければ、この世界ではどうにもならないのだ。



さま、見てください!」



 嬉しそうにに言うのは、うちは一族の若者だった。護衛のアスカに誘われて、今うちは一族が使っている鍛錬場を訪れたのだ。

 最初他の一族出身であるだけでなく、頭領の妻であるため、がやってきたことに、驚きを隠せないようだったが、何人かの若者には既に会ったことがあり、年齢としては彼らと同じくらいであるため、あっさりと打ち解けることが出来た。



「すごい。みんな火遁上手だね。」



 は素直に感心してしまった。

 一族にはそれぞれ得意な忍術というのがあるものだが、うちは一族は総じて火遁が得意だった。攻撃にしか使えないその術を得意とするのは、戦いの中で生きてきたうちは一族らしい。結界を張ることと術を跳ね返すことしか出来ない蒼一族とは大違いである。



様はお嫌いですか?」

「嫌いというか、マダラさんに、見せてもらったけど、あんまりうまくできない、かな。」



 は尋ねてくる若者に困ったような笑みを返す。



「そうなんっすか?まあ、マダラ様みたいには出来ないっすけどね!」

「そりゃそうだ。一面火で埋め尽くすことは出来ないですからね。」



 若者たちは口々に言った。やはり彼らもマダラの恐ろしさはよく知っているらしい。

 はまだ、マダラの戦うところを見たことがない。本来なら遠くを見ることの出来る透先眼で戦いを見ることはいつでも可能だったが、はそれを避けてきた。彼が人を殺すことを、当たり前のように戦うことを知りながら、目をそらしてきた。

 だからマダラはずっと、がいつか自分から離れていくのではないかと恐れていたのだろう。



「そうね。一度見てみないとね。」



 千手に嫁いでいた妹の愁は、蒼一族とともに結界の中に帰って行った。彼女は戦いを受け入れられなかった。子供もない愁は、まだ蒼一族に帰ることが出来る。だが、は何があっても子供たちを守らなければならない。

 だから、マダラとあの約束をしたのだ。



「よし、わたしもやってみるね。火遁。」


 がそう言って庇から立ち上がると、勢いを付けて言う。



「だ、大丈夫ですか?様。」



 護衛のアスカが少し慌てたようにに尋ねる。



「なんか、みんな上手だから、出来そうな気がする。」

「いや、それ、絶対気のせいでしょう。貴方、チャクラ存外多いんですから、やめた方がよろしいかと。」

「どうにかなるよ。この間、出来たし。」



 少しため込みすぎで、しかも前向きにほとんど飛ばなかったが、出来ない事はない。豪華級の術くらいなら行けるだろう。ましてや鍛錬場だし、失敗してもどうにかなるはずだ。



「火遁、豪火球の術―」


 何やら術名にしてはのんびりとした、しかも語尾の伸びたかけ声が、既に全てを怪しくしている。出来の方もそれに伴ったものになっているだろうという皆の予想に反して、結構遠くにあったはずの塀が完全に吹っ飛んだ。

 火の玉自体はのろのろとした速度だったが威力がすごかったのか、塀が完全に崩れ落ち、向こう側の森が見えている。



「え。」


 放った本人のはぽかんと口を開いている。うちは一族の若者たちも呆然とした面持ちで、塀を眺めている。



「何事だ!?」



 廊下の方から走ってきたイズナの怒声が聞こえて、やっと全員がびくっと肩を震わせて動き出した。



「・・・誰だ!こんなことをしたのは、」



 すぐに誰かの火遁の失敗であることに気づいたのだろう。イズナは腰に手を当ててあたりの若者たちを見回す。だが、とて人のせいにするわけにはいかない。



「ご、ごめんなさい。わ、わたしです。」



 おずおずと手を上げ、イズナを見上げる。すると、予想もしていなかったのか、彼はきょとんとした表情でを見下ろした。



「え??」

「・・・はい。」



 は尋ね返され、目尻を下げてうなだれるしかない。



「い、いける気が、したの。なんでか、わからないんだけど。」

「・・・まあ、いけたっていったら、いけてるんでしょうけど。」




 若者たちは皆、塀の方へと目を向ける。

 確かに火の玉の速度は遅かったが、威力としては塀を全て吹っ飛ばす位なのだから、すばらしい。火の玉の大きさもなかなかのもので、これほど大きな火の玉を作れるのはうちは一族の中でもごく少数だろう。そういう点ではすごいのだが、場所は選ばなければならない。



ってさ。才能あるのかないのか、本当にわからないよね。」



 イズナが心底呆れたように、ため息とともにはき出すので、はますます小さくなるしかなかった。

 この間までちっとも前に飛ばなかったので、目の前で広がって終了だと思っていたのだ。だからあの場で塀に向かってやってしまったのだが、吹っ飛んだ塀を見ては真っ青だった。



「どうしよう。ごめんね。マダラさん、怒るかな。」

「いや、に怒りはしないと思うけど、けがはなかった?」

「け、けが?、そうだ。み、みんな大丈夫?!」



 イズナに言われて初めて気づいたが、むしろここにいる皆は大丈夫だろうかとはあたりにいるうちは一族の若者たちを見回す。



「は、はい。だ、大丈夫ですよ。」

「大丈夫っすよ。いや、びっくりしただけで」



 頭領の妻となったは10代半ば、小柄でちっとも強そうに見えず、蒼一族出身で戦いはできないとの前評判だったため、大きな火遁に驚いただけだ。けがをして呆然としていたわけではない。

 口々に、そして皆一様に横に首を振り、けがを否定したため、は心底安堵する。



「良かった。っていうか、びっくりした。イメージ練習はしてたけど、まさかこんなことになるなんて思わなかった。」

。」



 イズナがぽんぽんとの肩をたたく。




「修行は、俺か兄さんとしよう。って、これ結構危ないと思うよ。失敗で死ねるんだからね。」

「それは大げさだよ。」

「いや、大げさじゃないと思う。これを見る限り。」




 吹っ飛んでしまった塀。修理するのはいつでも良いが、この間はちっともできなかったのに、これほどの威力を出せるように突然なるのなら、ほかの人間と修行をするのは危険だし、自身がけがをする可能性もある。

 そんなことになればイズナも悲しいし、何よりを愛してやまないマダラが悲しむだろう。

 最近うちは一族内のいろいろな人々と関わろうと努力していることは、良いことだと思う。イズナとしてもがうちは一族の中で生きていこうと努力してくれることには歓迎だ。しかし、過保護なのかもしれないが、身の危険があることは容認できない。



「・・・わかった。修行は見てるだけにする。なんか、貴方の精神状態に悪そう。」



 はよくわからないようだったが、その優れた勘でイズナの心境は理解できたらしい。こくこくとイズナの勢いに押されるように何度も頷いた。


進歩