少しずつ、はマダラに、マダラはに、それぞれの血継限界である眼の特性を話すようになっていた。



「透先眼は移植もできんのか。」



 蒼一族の血継限界、透先眼は劣性遺伝で、蒼一族同士が結婚しない限りその子供が透先眼を保有することはない。要するにマダラとの子供に遺伝することはないのだという。そしてそれだけでなく、透先眼は他の一族に移植しても、使うことができないとのことだった。



「わたしたち血まで弱いらしいの。だからほかの一族の血は強すぎて、眼に通ると、腐り落ちちゃうんだって。」



 わたしも知らないけれど、とは首をかしげて見せた。

 たとえば写輪眼は他の一族のものに移植したとしても、能力は限定されるものの、使用することはできる。だが、透先眼は他の一族のものに移植されると、そのまま腐り落ちてしまうのだという。

 一般的に蒼一族は「攫っても、何にも使えない」と言われる。蒼一族は何百年も結界の中で暮らしており、実際に彼らの血継限界など知るはずもないから、伝説程度の話しかほかの一族には伝わっていない。そのため、マダラたちも、それを信じていなかった。

 だが、それなりに理由があってのことなのだろう。

 幻術が利かない。殺して目を奪ったとしても腐り落ちる。確かに攫ったところで、その力を手にすることができないという点では、伝わっていた「攫っても、何にも使えない」という一般的な噂は、あながち間違いでもなかった。



「道理であっさり自殺するはずだ。」



 蒼一族は元々、他の一族に攫われた場合、しばらく生き残ってその遠目の力のある透先眼で情報をあつめ、それを蒼一族に送って自分は自害する。それを掟としていた。それは、自殺して遺体がそこにあったとしても、目を奪われる心配がないからだ。



「でも写輪眼がほかの一族にも移植可能なら、遺体は、取り返さないと困るよね。」

「当然だ。埋葬する時間がない時は、遺体から眼だけを抜くことすらある。」


 戦場で命を落とすことは、この時代当然だ。遺体がきちんと回収できないことなどよくあることで、うちは一族はその際、遺体から眼だけは抜くことに決まっていた。作戦行動に参加する可能性がある限り、にもその原則は覚えてもらわねば困る。



「まあ、わたしたち、遠くを見ることしか基本的にできないからね。過去を見るには限定条件つくし」



 よくよく考えてみれば、写輪眼のように相手の動きを先読みできるわけでもない。透先眼で確かに未来は見えるが、それも数秒後くらいのもので、体術が下手なには超えられる差ではない。あまり戦いの役に立たないのではないか。

 は今更ながら不安になり、縫っていたマダラの服を畳み、針箱をしまう。もうそろそろ眠る時間だ。



「そう言えばおまえ、昨日塀を火遁で吹っ飛ばしたらしいな。」



 マダラが布団に座ってくつくつと笑う。

 どうやらイズナがマダラに告げ口したらしい。あの後仕事のためにイズナはすぐに帰ったが、うちはの若者たちはこぞってを褒めていた。どうやら、あれほど大きな火遁は珍しいそうで、筋が良い証拠だそうだ。

 しかし、からしてみればただ塀を壊しただけで、マダラに対してどんな反応をして良いのかわからず、マダラの前に正座をして体を小さくする。



「別に怒ってるわけじゃない。ただ、俺の見込んだとおり、忍術の筋は悪くないらしい。」



 マダラは以前、に対して体術はだめだが忍術の筋は悪くないと言っていた。忍術に関しては才能だけならイズナ以上だと冗談めかしに口にしたこともある。



「そうなの?」

「おまえ、結界術や医療忍術も得意だろう?あれは緻密なチャクラコントロールが必要だからな。それは才能があると言うことだ」



 蒼一族は結界の中で長らく引きこもっており、体術を会得する必要性が根本的になかったため、それは仕方がないだろう。だが、一番緻密なチャクラコントロールが必要とされる結界術や医療忍術ができるということは、忍術に関しては才能があると言うことを示している。

 実際には、速度が遅いなどの問題はあれど、マダラが一度忍術を教えればそれなりに再現して見せた。



「そうなの?確かに、わたしは蒼一族の中でも、得意な方だったけれど。」



 蒼一族の中でも、長らく伝わる術をうまく使えるものと、使えないものはやはりいた。はどちらかというと、結界術や医療忍術が上手な方だった。



「チャクラ量も悪くはない。使い方も良いなら、忍術はすぐにできるようになる。気をつけなければ、これからおまえの能力がわかれば、おまえを直接叩きに来るだろうからな。」



 マダラは少し声を低くして、真剣な声音で言う。すでに笑みはなく、無表情で彼は揺れる灯を見つめていた。



「どうして?」

「当たり前だろう。頭をつぶすのは、戦いにおいては常套手段だ。」

「頭?どうして、頭はマダラさんでしょう?」



 は意味がわからず、首をかしげる。だが、マダラはの額に手を伸ばし、ぴっとでこぴんをした。




「いっ、た、」

「今まで何の話をしていた。」

「え、っと。わたしの実力の話?」

「そうだ。前にもおまえに言っただろう。近接戦闘は避けろと。」




 は体術がほぼできない。近接戦闘になれば勝ち目はないと言って間違いない。だが、距離があれば勝ち目はある。さらに、には血継限界である透先眼がある。



「良いか。おまえは直接的な戦場では役にたたんと思え。」

「それは、困るよ。」



 は戦うと決めたのだ。今更役に立たないと言われてもどうしようもないと抗議しようとすると、マダラがの言葉を遮るように手をひらひらさせた。



「話は最後まで聞け。良いか。能力の分析は戦いで一番重要なスキルだ。相手のも、自分のもな。」



 何ができるか、何ができないのか。本当ならばマダラではなく、が考えなければならないことだ。



「・・・ごめん。」

「謝らなくて良い。だからこうしておまえの話を聞いてる。」


 戦いの中で育っていないが、相手や自分の能力を分析することを知らないのは、当然のことだ。マダラとしても予想済みなので、こうして話を聞いている。



「おまえの強みはこの場で、他の場所を見ることができることだ。それは敵を避けられると言うことだ。」

「それって、どの程度役に立つんだろう。」

「大いに役に立つ。おまえは奇襲を見抜き、駒を敵がいない方に導くことができる。」



 はあまり自分の能力の価値が理解できていないようだが、戦場において彼女の能力は何よりも役に立つ。の透先眼での視界は何もなくても半径5キロに広がっており、動体を見抜く性質があるため、その中から隠れている他の一族を見つけ出すことは難しくない。

 奇襲を避け、相手を奇襲することも可能だ。



「それって、すごく難しいし、判断をしなくちゃいけない立場なんじゃ。」

「そうだ。だからおまえが頭だと言ってるんだ。」



 マダラはぽんっとの頭に手を置く。



「頭をつぶすのは常套手段だ。だからおまえの有益さがわかれば、おまえをつぶすためにありとあらゆる犠牲を払ってくる。」




 直接の戦場ではない場所で、はものを見て、命令を与えることができる。だが、その力はを危険にさらすだろう。



「そのことを自覚しろ。そして、これからどんな屍を超えても、」



 を殺すために、多くの人間が殺されるだろう。を守るためにおそらくうちは一族の多くも犠牲となるだろう。



「生き残る覚悟をしろ。」



 失ったことのないに低い声がつきつけるのは、残酷な現実。

 子供たちのために、それを超えて、あるその場所にいきたいと、とマダラは願った。その夢の始まりと、幸せの終わりがそこにあった。



生き残る覚悟