香燐はあたりを見回す。
いなくなったのチャクラを感じようと神経を研ぎ澄ますが、該当するチャクラの気配は感じられない。
「だめだ、気配がない。あいつ、見た目以上に出来るぞ。」
香燐はむっとした顔で息を吐いた。
おそらく周囲に張られている結界が香燐の能力を阻害しているのだろう。
「香燐、案外役立たずだね。」
水月がさらりと言うが、流石の香燐も返す言葉がない。
挙げ句の果てにがやったのか、サスケ達は結界の中で、同じような場所を回らされている。
は本気でサスケ達を研究所に近づかせたくないらしい。
先ほどからサスケが写輪眼で結界の継ぎ目を探していたが、焦っているせいかなかなか見つからなかった。
「誰もあんなぼんやりしたチビにしてやられるなんて思いもしなかった。」
香燐の言葉は全員の本音を代弁する。
まさか、彼女がここまで出来るとは誰も思いもしなかった。
「うちはイタチの連れだけあったってことかな。」
水月は木の幹に座り込んでぶんっと刀を振った。
太い木が真っ二つに折れるが、揺らいでまた木は元に戻る。
完全に術の中だ。
「サスケ、どうだ?」
重吾が継ぎ目を探すサスケを振り返る。
結界という物は、継ぎ目を探してそこを攻撃すれば簡単に崩れる物だ。
しかし、写輪眼を凝らすが、見渡す限り継ぎ目がない。
小さな結界であれば継ぎ目を探すのも簡単だが、この結界はかなり広大な領域を囲んでいる。
千里眼のような力がない限り、継ぎ目を探して壁面を地道に歩いてみていくしかなさそうだ。
サスケは舌打ちをする。
「駄目だな。」
「継ぎ目を見つけずにぶち壊す方法ってないの?」
「この結界の硬度はかなりの物だ、さっき千鳥をぶつけてみたが、駄目だった。」
広い結界を作ればチャクラがたくさんいるため、壁面は薄くなる。
常ならばそうなのだが、彼女のチャクラは九尾を持つナルト並だ。
壁面の硬度がなくなるということもない。
千鳥で破ろうと努力するだけ無駄だった。
「やっぱ、第八研究所にいるのっての知り合いなんじゃないの?」
水月が獰猛な笑みを浮かべる。
「かもしれない。」
サスケは肯定も否定もせずに返す。
研究所の者とおぼしき男はを見た途端恐れおののいて自殺した。
あれはの言うとおり知り合いでなかったかもしれないが、少なくとも、火傷を負って死んだ“あかね”とか言
う女はの知り合いだろう。
だがは確か女のことを『暁の構成員だ。』と言っていた。
死んだ女はのことを“宗主”だと言った。
それは研究所の男も同じだ。
“宗主”
首長、一族の長などを表すその言葉。
「の両親の一族は血継限界を持つ一族で、滅んだと聞いている。」
サスケは、淡々と自分の意見を整理するために口に出す。
「は雪花姫宮という号を持っている。どういう意味かは知らないが、名字の他に号を持つなんて普通じゃない。
マダラもその名で呼んでいた。」
「その称号には一族特有の特別な何かがあったかもしれないってこと?」
水月が意見をまとめる。
香燐はその隣で悩むように腕を組んだ。
「あってもおかしくない。そもそもはなんなんだ、ウチにはよくわからないが、木の葉に幽閉されてたってこと
はそれなりに極秘扱いだったってことだろ?」
「まぁ、そうだな。」
「なのに、何でうちはイタチはを木の葉から攫った?」
イタチがを連れ出したのは暁の意向ではなかったという。
ということはイタチは彼女のことを攫う前から予め知っていたのだろう。
イタチは暗部だった。
護衛任務の対象としてを知ることになったのかもしれないが、ならなおさらおかしい。
危険視されている少女と親しく話すことが任務で許されただろうか。
ならば、どうしてイタチは彼女を連れ出した。彼女を知った。
「よく考えるとボクらってのこと知らなすぎじゃない?そもそも、何で幽閉されたのさ。どんな力で?チャクラ
が多すぎっていうのは理由になんないよね。」
木の葉は九尾を持つ子供ですら幽閉しなかった。
なのにはどうして幽閉された。
チャクラが多いという点では、九尾もそれほど変わらないというのに、ナルトは幽閉されず、は幽閉された。
「何か、ある、か。」
サスケは改めてのことを自分たちが知らなすぎることに、驚いた。
何故今まで不思議に思わなかったのだろう。
あのぼんやりした空気が、不思議に思うサスケ達の疑問を諦めさせていたのかもしれない。
「ひとまず地道に継ぎ目を探すか。」
ここを出ないことには、彼女を問いただしたくとも捜すことすら出来ない。
サスケは重い腰を上げ、壁面を辿っていく。
その時、ふと、小さな人影が見えた。
まだサスケの腰までもない小さな子どもだ。
「・・・・麓の子どもか?」
山に遊びに来ていて、迷ったのかもしれない。
子どもは後ろを向いていたが、視線を感じたのか、サスケ達の方を振り返った。
漆黒の髪の男の子だ。
黒目がちの瞳は大きく、僅かだがたれている。
子ども故の無邪気さか、見るからに大きな刀などを持っており、怪しいサスケ達にも臆することなく近づいてく
る。
服が砂や葉っぱで汚れているところを見ると、長い間迷子にでもなっていたようで、年かさのサスケ達を見て安
心したようだった。
「やまのてっぺんに行こうとおもったんだけど、みちどこですか?」
彼はサスケ達に尋ねる。
どうやら道は知っているが、道を見失い出られなくなったようだ。
結界があるため、道を知っていたとしても同じところをくるくる回ってしまう。
幼い彼には理解できないところだろう。
水月が小さな子どもの出現に、どうするか判断しかねてサスケを見る。
サスケとて、どうすれば良いかわからない。
その時、香燐が子どもにつかみかかった。
「ちびっ子、どこから来た。」
「?」
子どもは香燐の勢いに驚きながら、首を傾げる。
「どうした、」
サスケは驚いている子どもがかわいそうになって尋ねる。
「さっきまで結界の中にいたのはウチらだけだ。」
先ほど確認したとき、結界の中には自分たち以外いなかった。
子どもは、継ぎ目のどこからか勝手に入ってきたと言うことになる。
「あっち、」
彼は香燐の様子に慌てることなく小さな手で風下を指さす。
酷く落ち着いた子どもだ。
サスケは黒い髪の子どもをぼんやりと眺める。
その姿が、幼い頃の自分に兄を捜していた幼い頃の自分にダブって見えた。
子ども
( 大人の誰もが通った道 忘れた場所 )