「足下、気をつけろよ。」






 サスケは川沿いを歩きながら、に注意を促す。

 なめらかな川沿いの小石は、頼りない歩き方をするの足を取る。

 たまに転びそうになるのを、サスケはめざとく見ていた。



 一晩明けて、服も乾いたサスケとは、第八研究所に向けて川を上り始めた。

 は透先眼という千里眼を兼ねたような目の血継限界を持っており、香燐のようにチャクラを関知することは出
来ないが、遠くの映像が見え、声も聞こえるのだという。

 は本当に血統に恵まれているようで、実戦経験が少ないまでも才能だけならイタチやサスケを軽く凌駕してい
る。

 使い方さえ間違わなければ、彼女は最強の忍と言えるだろうが、生憎は性格的に争いを好まず、攻撃性に乏し
く、力を疎んでいるようだった。


 どうやら水月や香燐たちは、研究所の近くの民家にいるそうで、碧聖とか言う実験の成功作は、少し離れた壊れ
ていない研究所の別棟にいるとは話した。


 のチャクラは術式により封印されたが、それも術式を彼女から引き離せばすぐに解けた。

 調子は悪くないらしく、肩に止まっている蝶は、元気に鱗粉を飛ばしながら活動している。


 どうやら炎一族の白炎使いは、躯のほとんどをチャクラで動かしているようで、特には幼い頃幽閉されていて
脚力、筋力が極めて弱いため、チャクラがなければ手足すら機能しないようだった。

 蝶がサスケの周りを執拗に飛び回るのでは心配したようだが、幸いサスケを傷つけることはなく、むしろサス
ケを気に入っているようだった。







「カラスが飛んでる。」







 は上空を水色に変わった瞳で見上げる。

 白いカラスは、碧聖の血継限界だ。

 自分たちを捜しているのかもしれない。







「そう言えば、昨日研究所の成功作の倒し方がわかったって言ってたな。」

「うん。わたしとはチャクラの量以外に決定的な違いがあるよ。」







 自分の蝶を目で追いながら、は頷く。








「わたし達白炎使いはね、高温の炎を扱うから、躯が熱に強く出来てて、火に手を突っ込んでも平気なの。」

「・・・それはすごいな。」







 要するに彼女に火遁などこれっぽっちも聞かないと言うことだ。







「わたしは最初無駄な遮蔽物を減らすために建物を燃やすつもりで白炎使ったの。なのに、彼らはその炎を必死で
防いでた。」







 もしも炎が平気な躯なら、炎を防ぐ必要なんてないはずだ。







「それに彼らは自分の炎を躯の傍で使わない。ということは・・・・」

「おまえと違って躯は普通の人間と言うことか。」






 同じ温度の炎は作り出せ、従えることが出来ても、身体機能までは変えられないと言うことだ。

 そう言えば、確かに、碧聖といわれた男を含む実験体は皆、躯の一部に包帯を巻いていた。



 火傷の痕を隠していたのかもしれない。

 要するにサスケ達が間合いを詰めてしまえば、普通の忍と変わらず対処できる。








「彼らの中に、本物の白炎使いが混ざっている可能性はないのか?」







 サスケはに尋ねる。


 実験体の弱点はわかるが、もしもと同じ能力を持つ者がいたとしたら、対策のないまま戦う訳にはいかない。

 しかし、は首を振った。






「それは絶対ないよ。今生きてるのは不知火の宗主と、わたしだけ。」








 元々一血統にしか受け継がれない能力だ。


 その希少さと強力な力故に、血継限界を持つ一族の頂点に立っていた。

 は宗主であった母の優しい笑みを思い出して、少し胸が痛んだ。







「そうか。」








 サスケは深く聞くこともなく、興味もなさそうに頷く。







「悪いことを聞いたな。」








 すでに滅びた一族の話だ。

 サスケだってうちは一族のことを詳しく聞かれれば、良い気分がしない。



 だって同じだろう。


 の一瞬見せた寂しそうな顔に、サスケは素直に謝罪する。

 はそんなサスケの横顔を見て、ふっと笑った。






「サスケとイタチは全然似てないね。」

「そうか?・・・・似ていると言われたことがあるが、似ていないと言われたのは初めてだな。」







 幼い頃から、サスケはイタチに似ていると言われ続けてきたし、ことあるごとに暁の者もそう言っていた。

 しかしはそんなサスケを似ていないという。







「だって、いつも無表情してるし、そのくせすぐ謝るんだもん。」

 変なの。

 楽しそうには笑う。







「兄貴は違ったか?」

「違うよ−。イタチはすぐ笑うし、謝らない。結構意地悪かった。」

「そう言えば、昔からそうだったかもしれないな。」







 弟のサスケにも優しかったが、確かに少し意地悪いところがあったかもしれない。

 サスケはの手を強く握る。



 互いに喪失感は大きい。


 けれど、得た物は確かにある。

 小さな手の温もりはいろいろな物を失ったサスケに、確かな存在を伝える。


 俺は、大丈夫だ。



 揺らいだ様々なことを超え、そう思わせる。







「なぁ、。俺はおまえを必要とすると言った。」

「・・・うん・・・」

「だが、俺はイタチと同じやり方で必要としようとは思わない。」







 イタチは、に優しかったかもしれない。


 ただ、イタチにとっておそらく、彼女はともに隣を並んで歩く存在ではなく、ただ庇護の対象であり、守るべき
存在だった。

 はサスケと同じ、彼にとっての未来であり、希望だったのだ。

 そして、その感情の違いが最期の最期で一番を傷つけた。


 最期の最期でイタチはを必要とせず、が世界に残ることを望んだ。

 それが、を一番傷つけたのだと、サスケは思う。








、俺はおまえと一緒に歩きたい。」

「え?」

「ただ守るのでも、守られるのでもなく、俺は一緒に歩きたい。」






 対等に言葉を交し、苦しいこともともにしよう。

 一方通行の想いじゃなくて、分かち合いたい。








「言えないことや、言いたくないことはまだあると思う。俺にだってある。だからそれは待つから、隠し事だけは
しないでくれ。」







 始まったばかりの二人が、重なることが出来るにはまだ時間がかかる。

 サスケも心の準備が出来ていないことや、言えないことがある。


 でも、嘘はつかない。つきたくない。

 隣に歩く彼女に恥じるようなまねはしない。そしてにもしてほしくない。









「その代わり、一緒にいて、歩いて、死ぬ時は精一杯二人で頑張って、駄目だったら俺が連れてく。」

「サスケ?」

「絶対に、おいていったりはしない。」







 一緒に歩きたい。

 それは終わりの瞬間まで、変わらない。

 イタチは彼女を守って、守って、未来に残したかったのかもしれない。

 しかしそれはある意味で、彼女が守るべき子どもであると、対等に見ていなかったと言うことだ。


 ならば、自分は彼女と対等でいたい。

 傍にいて、様々なものをともに感じ、闘い、死すらわかちあいたい。







「おまえと俺は一蓮托生ということだ。」







 共に生き、共に死のう。

 は目を丸くしていたが、紺色の瞳を潤ませながら、笑う。








「うん。わたしも頑張る。」








 強くならなくちゃ、は笑う。


 そう、サスケ一人で戦うのでは意味がない、

 隣で歩くと言うことは、もサスケと同じように戦っていくと言うことだ。

 それは、イタチと過ごした日々よりもずっと苦しいのかもしれない。







「いっしょにっ、」







 はサスケの背中にもたれかかる。


 うちはの家紋を宿す、大きな背中。

 たくさんの苦しみと、亡くした命を背負った背中は、とても大きくて、なんてちっぽけなものだ。

 この背中の背負うたくさんの物を一緒に分かち合い、歩いていくと思うと、不思議な気がする。


 でもきっと、ずっと大切なことだ。






「ひとりじゃないよ。」







 の呟いた言葉は、自分に向けられた物だったのか、それとも、サスケに向けられたのもだったのか。








「あぁ、」







 サスケは答える。

 背中の温もりは大きな傷を僅かに癒し、暖めた。






君との未来と君との終わりを
( 世界で一番いとおしい人 よ 貴方は一番 美しい )