川沿いを上流に数時間行くと、ちょうど水月や香燐が待っていた。

 香燐の能力で達を見つけたらしい。





「あぁ、無事だったね。良かった良かった。」





 水月はぽんぽんとの頭を叩く。





「心配かけんじゃねぇよ。」





 香燐は不機嫌そうに眉を寄せたが、の無事な姿を見て明らかに安堵した様子を見せた。

 重吾もに駆け寄り、怪我がないかを確認していた。

 は心配されることが慣れないのか、居心地悪くて、思わずサスケの後ろに隠れる。




「おまえ、俺の言ったこと覚えてるか?」





 サスケは苦笑して、を自分の隣に引きずり出した。

 一緒に歩こうと言った。


 それなのにサスケの後ろに隠れては意味がない。

 サスケを楯にしてはいけないのだ。


 もその意味を理解して、微妙な顔で俯きながらも、またサスケを楯にしようとはしなかった。





「で、一応確認しとくけどアイツら、殺しにいくんだよね。」





 水月は大きな刀を持ち上げ、にやりと笑う。

 第八研究所の成功作はまだ残っている。





「うん。でも・・・・・わたし殺しに行くよ。」





 はやはり自分の一族のことに人を巻き込むのに躊躇いがあるらしい。

 何でも一人で背負い込むのが彼女の悪い癖だ。


 サスケは呆れて頭一つ分低い隣のを睨んだが、その前に香燐がの頭を叩いた。





「あぅ!」

「おまえが一番相手に対策されているんだから、おまえが一番危ないだろ!」





 向こうの狙いはを殺すことだ。

 そのために用意をしてきている。


 ならば、がひとりで殺しに行った方が危ない。

 香燐がいつもの水月を怒鳴りつける勢いのままを怒鳴る。





「え、でも、」

「細かいこと言ってんじゃねぇよ!」

「え、あ、ぅ、」





 激しい押しに頗る弱いらしいは頷くことも否定することも出来ずあたふたとして、サスケに助
けを求める。

 だが、サスケは知らないふりをした。


 むしろ彼女が押しに弱いことは新発見だ。

 今までぼんやりしていたので、のらりくらりとかわすと思っていたが、案外弱いらしい。


 兄のイタチは比較的物をはっきりと言うし、押しが強かった。

 そのため、彼に育てられたは、いつも彼の押しに負け続けていたため、押しに弱いのかもしれ
ない。





「でも、でもねっ・・・、危ないんだよっ、」

「アンタが行くよりウチらの方が絶対危なくない!」





 確かに香燐の言う通りである。

 おそらくよりは危なくない。能力的な問題だけでなく、常識的にも。


 慌ててうまい反論を返すことが出来ないに、ぷっと水月が笑う。





「なーんか。表情があるともの凄い普通の子だね。」

「良いんじゃないか、普通くらいで。」

「ま、今のほうがボクは好きだけどね。」

「・・・・」

「あ、そんな怖い顔しなくても大丈夫だよ。ボク、小さい子って好みじゃないし−、」

「そうか、」





 何とかえせというのだ。

 サスケは一言でくだらない会話を片付け、を改めてみる。





「だから、ね、えっと、ん、」

「あー、まどろっこしい!ちょっと黙ってろよっ!!」





 香燐に怒鳴りつけられて、は思わず黙ってしまう。


 そこで黙ったら今まで粘った意味がないだろ。

 サスケは突っ込みたくなったが、くだらないのでやめておいた。





「香燐、は炎の血継限界以外に、目の血継限界の透先眼という奴を持っていて、千里眼に近い能
力があるらしい。」

「えー、香燐役立たずじゃーん。」






 水月がげらげらと笑えば、香燐が殴り飛ばす。





「どの程度の精度なんだ?」

「知らん。に聞け。」





 サスケは素っ気なく言ってに香燐に伝えるように促す。





「え・・・?」

「え、じゃないだろ。」

「精度って?」

「どういう能力かってことだ。」

「遠くが見える。」

「それはわかってる。」

「・・・・?」





 は首を傾げる。

 彼女には自分の能力は遠くが見えるという認識しかないらしい。


 サスケはため息をつく。

 忍が自分の能力に対してこれではいけない。

 自分の能力の分析は基本中の基本だ。





「良いか、見え方の問題だ。」

「見え方?」

「駄目だね、こりゃ。」





 分析の仕方すらわかっていない。

 水月は崩れた頭のまま言う。

 分析といっても知識不足が甚だしい。





「どのくらいの範囲で見える?持続時間は?普通に今自分が見てるように見えるのか?」





 サスケは仕方なく、に細かく尋ねる。





「えっと、いろいろあるけど普通で10キロくらい。えっとね、短期の未来予測は数十秒前のことが
しか見えない。現在と過去はどこまでも見える。えっと、時間はチャクラがなくなるまで普通に見
えてるよ。」

「過去視も出来るのか。・・・建物の中とかは見えるのか?たとえば、今あー、香燐、敵の成功作はど
の辺にいる?」

「南東2キロ先、」

「そうか。そいつらが見えるか?」

「見えるよ、位置が特定されてるなら30キロくらい見えるの。」





 の紺色の瞳が水色に変わる。





「どんなところにいる?何をしてる、どんな風に見えてるか、詳しく話してみろ。」

「えっと、研究所みたいな建物の中で、何か刀を石にこすりつけてる。」

「研いでるんだな。」





 サスケは軽く訂正する。

 香燐はチャクラとしてしか相手を捉えられない。

 対照的には人間の数を把握は出来ないが、は様々な地形や外観だけでなく、建物の中の様子
まで透視できる。

 イメージとしては透明人間として指定した場所に立って見ている感じだ。



 そして特定の人間の会話まで聞き取れるらしい。

 他方で起っていることを今目の前で行われていることのように捕えられると言うことだ。

 サスケはもう一つ、に大切なことを尋ねる。





「それを見てる時は今の視界は見えてるのか?」

「んー、と。音を聞くなら見えない。音を聞かないならどっちも見えてる。」





 千里眼として周囲の音を捉えるなど、その能力に“見る”以上の精度を求める時、には現在の
視界が見えなくて、敵にいても気付かない可能性が高い。

 それは事実上の死を意味する。





「すっごいね。ここにいながらリアルタイムで状況を把握できるってことかぁ、」





 水月にはの能力が魅力的だと写ったのだろう。

 確かに、魅力的な能力だ。

 知識不足のは心許ないが、敵から地の利を奪うことが出来る。





「さて、どうする?サスケ。」

「ならまず、研究所の地理から把握しよう。」





 サスケは自分の荷物の中から、無地の巻物を取り出す。





「どういう風にでも良い、研究所の中、特に通路になるところの詳しい状況を絵でも良いから書い
てくれ。」





 に筆と共に巻物を渡す。

 はじっとそれを見ていたが、ぺたりとそれを地べたに置いて書き出す。

 普通なら文字で書くが、が書き出したのはやはり絵だ。


 研究所の真上から見た見取り図が一枚と、成功作達が集まる部屋の中の様子が2視点から1枚ずつ
描く。

 見取り図だけは正式な様式に則って描かれている。





「この見取り図は、イタチから教わったのか?」

「うん。どうして?」

「これは木の葉の暗部のコードだ。」





 が中に書き込んだ数字部分を指で示す。


 イタチは暗部の出身だ。

 いつだったかカブトが見ていたのをサスケも教えてもらっていた。





「絵が、うまいな。」





 黙っていた重吾が巻物を手に取る。

 まさに部屋の中を見たまま書いてある。





「これって何?」





 水月がの描いた絵の床の部分を指さす。 


 何故かそこには切り目がある。

 が見たまま書いたと言うことは、見たままなのだろう。





「地下室か?」

「わかんない、そこだけ中が見えないの。」





 は困ったように言う。







「そんなことあるのか?」

「・・・・普通結界の中でもわたしの目は見えるんだけど・・・・そこだけ見えないの。」

「そうか。」

 何かあるのかもしれない。





「中にはまだ研究所の研究員が結構いるぞ。」





 香燐が付け加える。





「なら陽動は必要だな。重吾と・・・感知役に香燐か。」

「えっ、ウチか?」

「狙われているのはだからな。を陽動にしたら成功作が全部陽動に行くだろ。」





 潰さなければならない成功作はを狙っているのだから、に行かせるのは本末転倒である。

 それでも微妙な顔をする香燐の服をが掴んだ。





「ごめんね。香燐。」 





 しょぼんとして素直に謝罪する。

 香燐は頬をひくつかせたが、渋々頷いた。





「アイツ、引きに弱いの?」

「らしいな。」

「これからに引いてもらおうよ。」

「有益そうだな。」





 水月とサスケはどうでも良いことをお互い確認する。





「まぁ、重吾と水月を交代しても良いが・・・・」

「否、重吾で良いさ。」





 サスケの違う意見に、香燐は慌てて手を振った。






「なら、の書いた見取り図を持って俺と、水月は裏側から、重吾と香燐は表から。いいな。」






 サスケの再確認に、それぞれが頷く。

 ぼんやりとした目でそれを見ていたは、水色の瞳のままふっと顔を上げた。






「あれ?」

「どうした?」

「何か・・・・・、」






 変な感じ、とが呟く。

 空に巨大な鳥が飛んでいる。






「あれは、成功作達のものか?」






 警戒してサスケがに尋ねるが、は首を振る。


 あれほど大きな物を維持するためには莫大なチャクラがいる。

 成功作は、成功作と言っても元はただの人間であり、人ならざる躯とチャクラを持つのは、本当
の宗家の血筋につながる白炎使いだけだ。




 だから、あれは違う。

 白色の優美な尾羽を風に翻す姿は、がかつて見た物によく似ていた。



今の日々に想いを ( 今を愛そう かつてを誇ろう )