研究所の裏側は岩だらけで下りるのは少し怖かったが、サスケと水月に助けてもらいながら
何とか研究所に侵入することができた。





「あぁ、。そこを踏むなよ。」





 トラップがいくつもあるらしく、サスケはに注意する。 

 研究所はやはりあちこちトラップだらけで、危険だ。


 は前回それを全て破壊して進んでいたが、サスケは無駄に戦うことを嫌った。

 チャクラを温存するという意味では当然の行為だが、チャクラが多くつきることのほとんどない
にとってはあまりない考えたことのない話だった。

 じめじめした研究所の中をサスケと水月について歩く。


 この空気には気が滅入る。


 じめじめした、幽閉されていた屋敷。

 雨の日曇天の空を見てひとり待ち続けた、広くて孤独な部屋。

 かび臭い臭いが、に孤独を思い出させる。

 絶対に常なら近づきたくない嫌な場所。




 ―――――こっちだよ、・・・



 遠く優しい声が聞こえる。

 は立ち止まってふっと顔を上げた。





「どうした?」

「声が聞こえた気が・・・・」





 懐かしすぎて、思い出せないほど昔の声。


 サスケはの答えに不思議そうな顔をする。




「何も聞こえていない。気のせいじゃないか?」

「でも・・・確かに・・・・」





 は自分の足元を見る。

 そこは研究所の一階部分の床だ。

 ただの。





「気のせいだろう。」





 サスケが前をむき直す。

 かつてイタチが背負っていたうちはの家紋。

 は戸惑いながらあたりを見たが、何もない。





「行くよ−。」





 水月が立ち止まったままのの背中を押す。





「しっかりしないと殺されちゃうよ。」

「あ、うん。はい。」





 声が気になるが、その通りだ。


 は前を向く。

 と、すぐにサスケが歩を止めた。


 身を動かすのも躊躇われるような沈黙が落ちる。

 は静かに透先眼を開き、敵の姿を探してサスケと水月に目配せする。





「そこに、いるんだろう。」





 沈黙を破ったのは、サスケだった。


 隣の部屋の壁を、千鳥でぶち壊し、後ろに飛んだ

 水月とも後ろに下がり、土煙が消えるのを待つ。





「今度はちゃんとやる気なんだ。」





 黒髪の男が、鮮やかに笑う。


 碧聖だ。

 後ろに三人いる。全員が成功作だ。


 白い炎を肩に乗せて、を見ている。

 が、突然そのうちの一人が、に襲いかかった。

 速い、は蝶で防ごうとしたが、その前に何かがの前を通った。





「久々に楽しい戦いになりそうだねぇ。」





 水月がの目の前に大刀を振り下ろして笑う。

 慌てて敵は飛び退いた。





「今回は殺しがありだから、楽しいよ。」





 不適な笑みで言って、刀を構える。

 容赦なく命令に従い、殺すつもりのようだ。





「水属性か、嫌だねぇ。」





 碧聖は薄ら笑いを浮かべるが、一番容赦がなかったのはだった。

 ばたりと、後ろにいた三人のうちの一人が倒れる。


 碧聖が呆然と見ている中、ふわりと白色の蝶が今はもう動かなくなった男に舞い止まる。

 男の胸には小指のツメほどの穴が空き、血が止めどなく流れている。

 男の媒介であった炎のカメレオンは、あっという間に白色の蝶に焼き尽くされた。

 残ったのは、蒼色の、蒼い炎。





「あぁ、燃やせば本当に元に戻っちゃうんだ。」





 は少し目を丸くして言う。


 達本当の白炎使いは、チャクラの全てが白い炎だ。

 しかし、彼らの炎は周りのチャクラが白いだけで、中心部は蒼い温度の低い炎のようだ。

 できそこない。





「裏切り者さん。恨みはないけどね、」





 彼らに恨みがあるわけじゃない。

 もしも一族が滅んでいなかったら、イタチに会うことが出来なかったかもしれない。

 今はとても悲しいが、そのことを後悔したことはないから。

 それに、彼らだってある意味大蛇丸の無茶な研究の結果だ。


 哀れな被験体。


 けれど、悲しみは胸を塞ぐ。

 母が、哀れに死んでいった一族の者達の恨みや憎しみに思いを馳せれば心が焼き付く。

 彼らが一族を裏切らなければ、死ななかったかもしれない人々。





「宗主ではないわたしに貴方たちを裁く権利はない。」





 は、一族の東宮だったと知っても、一族を集めて再興しようとは思わなかった。

 イタチがの受け継いだ財産を整備し初めても全く興味がなかった。


 一族など、考えたことはない。


 無責任と言えば、宗家として生まれながら無責任だ。

 だから、に彼らを罰する権利はない。





「でも、目障り、」





 不快だ。彼らが存在することが、不快だ。

 裏切り、のうのうと生きている彼らが、疎まれ続けた力を手に入れようとする彼らを心から遺憾
に思う。






「だから、貴方たちには消えてもらう。」





 一族の未来は、不知火の宗主に託した。

 次の世代の宗主に、旧時代の遺物である彼らを始末させるのは、あまりに無責任すぎる。


 それこそが、の役目だ。

 イタチと同じ、忍の生き方。


 は静かに相手を見据える。

 碧聖は覚悟の決まった水色の瞳に目を見張った。





「おまえは腐っても、蒼雪宗主の娘だな。」

「そうよ。わたしは宗主ではないけれど母上様の、娘よ。」 





 一族のために、自分の未来のために、命をかけてくれた母の子ども。


 そのことを誇りに思う。

 今でも覚えている優しい手を、誇りに思う。


 例え死ぬ時が来ても、誰が彼女のことをなんと言おうと、絶対に変わらない。





「そうか。」





 無感動な台詞だったが、忌々しげな表情でに呟いて、碧聖は武器である刀を構える。





「あ、石にこすりつけてたやつだ、」

、磨いでいたんだ。」





 の言葉に緊張感の続かない奴だと、呆れた様子でサスケが訂正を入れる。

 は首を傾げたが、着物の袖の中にクナイを隠し持つ。


 今度は大きく能力を使ってはいかない。

 能力を使わずともそれなりにイタチから教えられた技術がある。


 碧聖がを真っ正面から睨み付ける。

 はその顔に、穏やかな笑みを見せた。



それは母と同じもの
( 母ののこした そのもの )