白い高温の炎は、結構やっかいだった。
それも、なかなかの手練れだ。
だが、近接戦闘で炎に襲われる可能性がないとわかれば、殺すことは難しくない。
サスケは刀の血を払って、鞘にしまう。
「なんとか、いけたね。」
サスケの後ろにいたは少し緊張した面持ちを崩して笑った。
が炎を防いで、その隙に動きの速いサスケが仕留めにかかる。
作戦は功を奏して、あっさりと彼らを葬れた。
とはいえ、碧聖は逃げてしまったが。
「あの男、追うか?」
「んー、いいよ。追わなくて。もう炎は奪っちゃったから。」
彼らの白い炎はやはり出来損ないで、の炎に煽られると、元の蒼い炎に戻ってしまう。
そうすれば二度と白い炎を生成することは出来ないらしい。
肉体的にも普通の人間と変わらないということを考えれば、失敗作と言っても過言ではないだろ
う。
大蛇丸は彼らの結果に随分幻滅したらしいが、その通りだ。
彼らはとは違う。
碧聖達はただの裏切り者に戻れる。
でも、は例えどんなことがあっても力を失うことは出来ない。
その身に流れる血は変えられない。それが血継限界。
「やっぱり化け物はたくさんいたら駄目だよ。」
寂しそうには笑う。
力故の孤独。
もしかすると彼女もナルトと同じように、ひとり化け物だと罵られて育ったのかもしれない。
「そんなことはないさ。」
サスケはとんっとの背中を叩く。
「は化け物じゃない。こんな扱いやすい化け物がいたら、聞きたいくらいだ。」
「扱いやすい?」
は不思議そうな顔をしたが、人の気配にふっと視線を廊下のほうに向ける。
「あーしんどい。」
廊下の向こうから水月が肩を回しながら歩いてくる。
最初に碧聖に吹き飛ばされ、成功作の一人を相手していた彼だが、どうやらかなり苦労したらし
い。
服がぼろぼろで、頭が崩れていた。
心なしか背も縮んだ気もする。
「水月、だいじょぶ?」
「あんまし、水ない?」
「お水ある?」
はサスケに尋ねる。
「あぁ、持ってるぞ。」
「はい。水月。」
「ありがと。」
まるで伝言ゲームとバケツリレーのように言葉がを挟んでサスケに渡り、水筒がを挟んで水
月に渡る。
「結構どうにかなったね。手強かったけど。」
「そう・・・」
そうかな、が答えようとした時、突然足を引っ張られた。
「ひぇっ、!」
足下のコンクリートが砂のように崩れ、を地面に引きずり下ろす。
まるで蟻地獄の巣のようだ。
「下!?」
サスケも驚いての手を掴もうとするが、まるでコンクリートが沼であるかのようには吸い込
まれていく。
何かの術のようだ。
あっという間にの姿が消える。
「そう言えば、が部屋に地下室への扉みたいな物があるって言ってたよね。」
焦るサスケに水月が言う。
この研究所にはサスケ達が考える以上の広い地下があるのかもしれない。
サスケは壁の崩れた碧聖達がいた部屋に慌てて駆け込む。
床板が外れそうな切り込みがある。
厳重な封印がされているが、外れないこともないようだ。
「行くか。」
サスケは慎重に封印を破った。
息苦しさと暗さを抜けるとそこは真っ暗だった、
「きゃっ、」
首を掴まれ、壁に思い切り叩きつけられる。
苦しい、
暗さに目が慣れてくると、そこにいるのは碧聖だとわかった。
サスケにやられたため、右腕がない。
左腕だけでを押さえつけ、鬼の形相でを睨み付けている。
は彼を吹き飛ばそうとしたが、チャクラが使えないことに気がついた。
白炎使いの特殊なチャクラを奪う術式が張られているようだ。
「簡単に、やられるわけにはいかないんだよ。」
碧聖はの首を折る気でいるのか、力を込めてくる。
苦しい、やめて、
意識が遠のきそうになって、涙が瞳に溜まる。
彼の手を自分の手で抑えたが、彼の手の甲をひっかいただけだった。
「そもそも、あんたさえいなけりゃ、あの一族はなくならなかったんだ。」
「ぁ・・・」
は掠れた声を上げて、苦しさの中目だけで問う。
滅びた、理由。
は、炎一族が滅びた理由を知らなかった。
当時里の上層部にいなかったイタチはが炎一族出身だと言うことを知らなかった。
ただ、イタチの担当上忍がの父親で、担当上忍の娘だったに興味を持って、会い、そして絆
を作った。
だから、後から調べたかもしれないが、実際のことは彼が知るはずもないし、知っていたとして
も、が傷つくことならば、彼は真実にふたをしただろう。
またの母と懇意だったというサソリは一言もそのことを口に出さなかった。
なぜ一族が滅びたのか、は知らない。
「木の葉に命じられた砂隠れが、炎一族を襲った。」
「・・・っ、」
「木の葉はな、おまえが欲しかったのさ。」
碧聖がゆがんだ笑みを見せる。
は紺色の瞳を丸く見開いて、次の言葉を待つ。
「木の葉は幼いおまえを人質として木の葉に差し出すことを命じ、蒼雪宗主は拒んだ。すると木の
葉は秘密裏に砂隠れと手を組んで、青白宮を宗主とするのが正統であるとこじつけて侵攻した。」
青白宮は蒼雪宗主の兄であり、の叔父に当たる。
彼は確かに白炎使いで宗主としての資格はあったが、彼には種が、要するに未来がなかった。
彼自身そのことを認めており、蒼雪に反抗する気などなかったが、木の葉は青白宮の母が木の葉
の人間であったことを理由に、青白宮の正当性を主張した。
もちろん、それはただの見せかけだ。
木の葉は近くにあり、力を持つ炎一族を昔から恐ろしく思っていた。
いつかは一掃してしまいたいと考えていたはずだ。
ましてやが生まれた時期は忍界大戦が終わった頃で、九尾事件で国力の低下していた木の葉に
とって、たまに小競り合いのある炎一族は脅威にしか見えなかったのだ。
の父斎はかつての四代目火影の側近であり、有名な人物で炎一族宗主の婿だった。
彼にばれては困るため、里は直接手を下さず、砂隠れに手を回し、砂隠れに炎一族を襲わせた。
自分のかつての里がおかしたことだからこそ、サソリはに真実を告げることが出来なかったの
だ。
炎一族はを差し出せば助かったかもしれない。
しかし、宗主である母はおそらく宗主としてではなく母としての決断を下した。
人質などにすれば、幼く、そして邪魔な炎一族の子どもであるが何をされるかわかったもので
はない。
だから、一族は、
「・・・・ぁ・・・」
母上様、
ぽたぽたと涙がこぼれ落ちる。
おそらく、炎一族の次期宗主となるべきが捕えられた後殺されなかったのは、正統だと木の葉
が述べていた青白宮がその後姿を消したことと、秘密裏に行ったつもりの炎一族の討伐の情報が、
の父、斎に漏れたからだろう。
斎は予言者で、上層部にとって手放せない存在だった。
また斎の死後、の後見人はうちは一族だったとイタチから聞いている。
うちは一族は旧家の出である斎と懇意だった。
うちは一族の滅亡後、里はを殺すべきとする意見とを利用するべきとする意見とで二つに分
かれてもめて、結局、イタチを攫うまで、答えは出ていなかったと聞いている。
の周りには、死がいつもつきまとう。
それは偶然で、ある意味必然。
力は恐れを生み、恐れはたくさんの犠牲を生む。
里は、民を守りたかった。
母は娘のを守りたかった。
どうして一方を守れば、一方を守ることが出来ないんだろう。
人はどうして、守りたい物を守れない。
必要としているのに、守りたいと思うのに、その人間を守ろうとすることが、誰かの死につなが
る。
「ど・・・して、」
自分は誰かを犠牲にすることでしか、生きながらえることが出来ない。
何も守ることが出来ない。
碧聖の手を掴んでいたの手がぱたりと落ちる。
限界だ。
目の前が霞む。
サスケと、約束したのに。
一生懸命目を閉じないようにと頑張るが、心が乱れ、瞼が閉じていく。
ねぇ、どうして、
問いかけの答えは、ない。
しかし、かわりに別の声が答えた。
「こっち、」
低い男の声が聞こえた。。
碧聖の手は、淡い白色の羽にあたって吹き飛ばされる。
がずるずるとコンクリートの壁を背に崩れ落ちて、声の方を見ると、綺麗な目をした男の子が
いた。
黒い瞳の男の子が、自分のよく知る子どもとよく似ていては目を見張ったが、彼はまた手招き
をした。
「こっちだよ。」
その声は見た目の幼さに似合わず低い。
優しい、懐かしい声だ。
「くっそ、まて!」
碧聖が立ち上がることも出来ず、両腕を奪われながら地べたを這うようにしてを捕えようとす
る。
おぞましさには男の子のところへと、慌てて走り寄った。
するとがたんと後ろのドアが締まる。
は真っ暗になった視界で、優美な尾羽を持つ巨大な白い鳥をつれた男の子を思わず凝視した。
よくしりながら 知らない
( 知った面影 知らない人 )