は魚屋の水槽にはりついて魚の動きを目で追う。

 初めて実物の魚を間近で見る。


 じっと見ていたら、魚と目があった。




「かわいいーぷくってしてるー。」




 目が合うと威嚇するように膨れる魚には声を上げる。




「それはフグだよ。お嬢ちゃん。」




 店主が笑って出てきて、に説明した。

 初めて店の人に喋りかけられ、はびくびくする。


 人慣れは、まだしていない。

 知らない人に話しかけられるのは、苦手だ。

 一人の時はなおさら。




「でも海でこの魚を見てもお嬢ちゃんは食べちゃいけないよ。」

「どうして?」

「毒があるからさ。」

「じゃあ、このお魚は食べないの?」

「毒のない部分もあるからね。毒のない部分はもの凄い美味しいんだよ。」

「へぇー。知らなかった。」




 は素直に頷く。

 未だ刺身の魚と泳いでいる魚が結びつかないである。


 当然ながら、毒のある魚=まずいという印象が強く、理解できない。

 眉を寄せていると、一度店の中に入った店主が、笑って白い魚を持ってきた。




「?」

「これが、フグだよ。刺身でてっさって言うんだよ。」




 綺麗に花模様にさらに並べられた薄い刺身。

 模様は綺麗だが、毒がある魚の身だと言われると微妙だ。




「食べてごらんよ。美味しいから。」

「え、」

「ほらほら、」




 気前の良い店主にせかされて、断ることも出来ず、はおずおずと箸を取って刺身を取る。




「このポン酢につけるんだ。」




 醤油につけるのではないらしい。

 躊躇いながら口に入れたが、爽やかなポン酢の香りと柔らかな刺身が絶妙だった。




「美味しい、」




 は目を輝かせて店主を見上げる。




「そりゃそうだ。」




 店主は満足げに頷いて、ぽんとの頭を撫でる。




「気に入ったなら買いに来てくれな。」

「はい。」




 は何度も頷いて、改めて後ろの少し丸みを帯びた魚を見つめる。

 毒があっても美味しい魚があることは新発見だ。


 ぱたぱたひれを振っている魚を見ていたは後ろからの声にびくりと肩を震わせた。




!」




 後ろを向くと、サスケが無表情ながら不機嫌そうな形相でやってくる。




「あ、サスケ。」




 サスケの怖い顔には慣れてきたは、けろりとした様子で名前を呼ぶから、ますますサスケの眉
間に皺が寄る。




「オレは待ってろって言っただろ。」

「うん。待ってたよ?」

「場所が違うだろう、場所が。」

「?」




 は怒るサスケが理解できないらしく小首を傾げる。


 おまえの頭の中の“待つ”はどこにいっても良いのか。

 それを待つとは言わないだろう。

 怒鳴りつけたい衝動にかられたが、こんな年になって人前で無様に声を荒げるのもこちらが恥ず
かしい。


 サスケはかわりにの手をひっつかむ。




「行くぞ!」

「うん。あ、ありがとうございました−。」 




 店主に手を振ってから、はサスケに引きずられる。

 しばらくすると香燐や重吾、水月が待つ集合場所にたどり着いた。


 香燐は大きな袋を持っていたので、は柔らかに笑う。




「欲しかった物は買えたの?」

「あぁ。まぁまぁかな。ウチはまた今度別のとこで買うわ。」




 買えなかった物がいくつかあったらしい。

 は彼らが買い物をしている間ずっと魚屋さんを見ていたのでわからないが、やはり忍にはいろ
いろ必要な物があるらしい。




「サスケは何買ったの?」

「別に。ただの起爆符やらの補充ができただけだ。おまえは買う武器はないのか?」




 基本的に、クナイや起爆符は消耗品で、使った事に拾うわけにもいかないので、買い足していか
なければならない。

 サスケや水月、重吾も小まめに買い足しているのだが、はと言えば本と食べ物以外を買ったと
ころを見たためしがない。


 持っていないのかも知れないので心配になって尋ねるが、は困ったように笑う、




「わたし、クナイ投げても力がなさすぎて刺さらないんだよね。」




 幼い頃幽閉されて部屋に閉じ込められていたため、は異常なほどに腕力、筋力がなく、それを
ぎりぎりチャクラで動かしている状態だ。


 チャクラがなければは一歩たりとも動けない。

 チャクラを総動員すれば日常生活、通常戦闘に困らない程度の腕力、筋力を維持することが可能
だが、クナイを投げるだとか、そういうことは力がなさ過ぎて問題だった。


 的から外れる前に的に当たらない、的に届かないのだ。

 その上刃の部分が感覚的によくわからず、掴む場所を間違って手が血まみれになることがイタチ
といた頃に多々あったので、イタチが手裏剣やクナイをから取り上げた。

 幽閉されていてハサミ以外の刃物に触れたことがなかったのだから仕方が無い。

 ハサミは刃の部分に触れても切れないが、クナイはすっぱり切れてしまう。


 にはその感覚もよくわからなかったのだ。

 結果的に、クナイや手裏剣などの消耗品となる投げる武器を所持していない。

 そして、炎を操るにとって起爆符に似た効果を付随させることは簡単なため、起爆符も持って
いないのだ。




「忍としてどうなんだ。それ。」




 サスケは呆れたように半目でを睥睨する。




「才能ありそうでないな。」




 香燐もうんざりした顔で言う。


 莫大なチャクラもろくに操れずに、大きく使うと暴走させる。

 力はなくてクナイすらまともに的に当てられない。

 性格は穏やかで戦闘に向かないし、やる気もない。




「役に立つのは透先眼だけだねぇ。」




 水月がもの凄くおかしそうに笑う。

 全く持ってその通りである。

 透先眼は千里眼の効能を持つので、後方支援が基本だ。


 むしろ後方支援以外何も役に立たない。





「でも一応一枚ぐらい持っとけよ。」




 香燐は自分の買ってきた手裏剣をに渡す。

 一般的な刃のついた手裏剣をは受け取ろうとしたが、どこを持てばいいのかが相変わらずいま
いちよくわからない。

 咄嗟に刃の部分に手があたり、血が出てくる。




「な、何で刃んとこわざわざ持つんだよっ!」




 香燐に叫ばれ、やっとそこが刃の部分だと言うことには気付く。




「・・・手裏剣ってどこが刃で、どこが持って良いのか、わからないんだよね。」




 ぽたぽた血の垂れる自分の手を眺めて言い訳する。

 昔から何度言われてもよくわからなかった。




「大丈夫か?」




 重吾が慌てての手に自分の持っていた包帯を巻く。

 それほど深くないし、のチャクラは莫大なのですぐに傷口はふさがるだろう。

 たいしたことはないのだが、重吾の好意に甘えておく。




「イタチには手裏剣類に手を出すだけで怒られてたからなぁ。」




 手を出した途端にあたりは真っ赤である。

 何度か隠れて触ってみたが、その度に何らかし手を切るので必ずばれて怒られてばかりだった。




「そりゃ怒るわ。」




 香燐は片手で手裏剣の中心の円に指を入れてくるくる回しながら、髪の毛を掻き上げる。

 手裏剣も所詮鉄でできている。血がつけば錆もする。

 実戦で使えないことも考えればそれは怒られる。


 ましてや香燐はからイタチが超のつく過保護だったことも聞いているため当たり前だった。




「まったく気をつけろよー。」




 香燐はに抱きついての頭をぐりぐりとかき回して撫でる。




「きゃー」




 はわざとらしい歓声を上げる。

 ついこの間までは、香燐に虐められる度には本気で泣いていた。

 香燐にとっては戯れ程度の力加減のつもりでも、にとってはかなり辛いのだ。

 だが、最近では香燐もをおちょくる力加減を理解してきたらしく、楽しく遊んでいる。


 香燐は粗暴なくせに精神的に変なところで『女』だ。

 は実際には香燐よりも年上だし、動作も女らしいところが目立つが、精神的にはまだ子供のよ
うだ。

 暁は男ばかりで女は構成員の愛人やら愛妾やらにしか出会ったことのないだったため、最初は
女の香燐を怖がっていたようだが、今は仲良くしている。

 たまに秘密の話もしてるようだ。




「良いよねぇ。ボクも仲良くしたいのに。」




 水月がぶすっとした顔で言う。

 と水月は普通には話すが、水月の話のテンポが速過ぎてがついていけないため、短い話で終
わってしまう。


 共通の話題もないので、仲が悪いわけではないが関係は今いちだ。




「サスケってさ、お嬢と何喋ってるの?」

「は?」




 水月の唐突な質問に思わずサスケは眉を寄せる。




「だってボクの言うこと理解してくれないんだよね。」

「おまえがゆっくり喋れば良いんじゃないか?」




 基本的には速いテンポの話は内容が簡単でもついてこれない。

 例えば香燐と水月の喧嘩などは二人が何かを言う度に顔をそれぞれに向けたかと思うと、しばら
くすると内容を理解しようとすることを諦める。


 水月のくるくると変わる話題転換にはついていけないのだ。




「喋ると言うほど、必要事項以外をだらだら話すことは少ないな。」




 サスケはと別にたくさん話すわけではない。

 話す時は内容はそれなりにはかみ砕くが、たくさん話しているわけではなくぼんやりしているこ
とも多い。

 話だけなら、香燐の方がとよくしているだろう。




「まぁ女同士は女同士ってことなのかなぁ。でもどうしても、香燐だけはね。」

「同意見だな。女同士という感じがしない。」




 女同士なら姦しくもなりそうだが、香燐には女らしさがなく、にはかしましさがない。

 女同士なのに、何かが足りない。


 結局香燐とは不思議なコンビだった。



my dear accomplice

( 私の愛しい共犯者 )