残酷な結末を話すことになったのは、サクラだった。
「貴方は、もう、歩けないわ。」
未だ自らのチャクラに苦しめられるにこんなことを言うのはサクラとしても悲しかったが、いつかは分かることだ。
サスケはこれ以上ないほど俯いており、綱手も目を伏せている。ナルトなどは目尻に涙まで浮かべていた。
「私たちは、全力でおまえを援助するつもりだ。」
綱手は静かにの肩を叩く。
はよく分かっていないのか、その紺色の瞳を2,3度瞬いて、小首を傾げてみせる。
「そう。」
別に悲しむでもない、あまりに普通の返答だった。
「でも困ったね。歩けないんじゃ、どうやって生きてこう。のたれ死んじゃう。」
「や、、そういう問題じゃなくてね。」
「あ、でも這ってなら動けるのかな。わたし。」
は名案を思いついたとでも言うように、ぽんと手を叩く。
「そうだよ。這ってなら動けるんだもん。問題ないよね。」
「いや、。」
サクラは意味の分からない方向に話が進んでいるのに、言葉が出ない。
大抵障害が残ると言われれば嘆き悲しむのが普通だ。なのにからは全くと言って良いほどそう言った言葉が出てこない。
あまりにあっさりと事実を受け入れられてしまい、サクラは慰めの言葉すらも考えていたので驚いた。
「、おまえ、わかってんのか?」
ナルトはの肩を叩いて問う。
「おまえ、もう歩けねぇっていわれてんだぞ。」
「わかってるよ。だから這っていこうかなぁって考えてるの。」
はまっすぐナルトの目を見て、さも当たり前のように答えた。
「だーかーら!そういう簡単なことじゃねぇだろ?」
「でも、這って動かないと動けないじゃない。」
ナルトが言いつのるから、も勢いのままに返す。
「だーーーー!!そういうことじゃないってばよ!!こー、もっとどうしよーとか、悲しいとかねぇのかよ!!」
どうしてはこれほど当たり前のように事実を受け入れているのだ。
普通に考えて、歩けないと言われればショックだろう。泣きじゃくったって普通だ。なのにはあまりにも普通に、事実を受け入れている。
それがナルトにすらもついて行けなかった。
「どうしようとは思ってるし、悲しいけど・・・、どうしようか。」
は少し考えるそぶりを見せたが、泣いたりする様子は全くない。現実をただ見据えている。のどうしようは、足の障害をどうやって改善しようではない。足の障害を受け入れた上で、どうしようか考えているのだ。
足の障害自体をなくそうと抗うことを、そもそも考えていない。それは、常に与えられる現実だけを甘受してきたからこそ、ある静けさだ。
不遇に抗うことを、は知らない。
「そんなふうに、当たり前だって、思うなよ。」
懇願するように、ナルトはの手を握りしめる。
は与えられる不遇を当たり前のものだと思っている。堪え忍んでいるという感覚も、他人のために自分を犠牲にしているという感覚すらもない。すべて自分のためだと信じている。
「でも、わたしは、後悔してないし。これで良かったって思って・・・」
「良かったわけあるかよ!!」
の言葉を、サスケの怒鳴り声が遮る。
「何言ってンだよ!おまえだけ足を失って、良かったわけねぇだろ!!」
サスケは表情を歪めて、を怒鳴りつける。は目を丸くしてサスケを凝視した。紺色の瞳が、丸くサスケを映す。
現実をそのまま、純粋に写す瞳すらも疎ましくて、サスケは目をそらした。
「さ、さすけ?」
初めてが戸惑うような様子を見せ、サスケの名前を呼ぶ。
「・・・サスケ?」
が細い手をサスケへと伸ばしたが、その手をサスケは払いのけた。は振り払われた右手に左手を添えて、初めて目を伏せる。
「?」
サスケの態度に酷く狼狽えた様子を見せるに、ナルトは不安を覚える。ナルトの心配に気づいたのか、はぱっと顔を上げて、首を振った。
「大丈夫だよ。本当に、」
「何かあったら、言えよ。出来るだけのことはこっちでするってばよ。」
の過去を見ているナルトは、どこかでに共感できる部分が大きかった。
力を持ちすぎ、幽閉されたは、ある意味でナルトと同じだった。たまたまナルトが幽閉されなかっただけの話で、ナルトだってのようになっている可能性は十分にあったのだ。
そう思えば、どうしてもナルトはこの善良な少女を放置しておけなかった。
「うん。ありが、とう。」
は少し俯いたまま、答える。
あまりは自分の中の思案を人に話さないし、辛い顔を人にすることはほとんどない。泣くことはあっても、人が来るとすぐに笑う。
だから、本心が見えない時があるから、気をつけないといけない。
ナルトは何となくそんな気がしていた。
はまだサスケに振り払われた自分の白い手をじっと見ている。一ヶ月近く、は食事はおろか、床からも起き上がれないほどの大けがと、チャクラに悩まされていたから、その首元は酷く細い。
サクラ曰く彼女の体重は既に30キロ近いという。
痩せてしまった彼女は、最初に見た時のふっくらした様子はなく、ナルトが見ても分かるほど死の色が未だに濃い。
「元気になったらさ、一緒に火影岩を見に行こうぜ」
ナルトはの手を握って、言う。
「火影、岩?」
なぁに、それ?とは不思議そうに首を傾げた。
「歴代の火影の顔をもした岩でさ、一度壊れたけど、再建されたんだ。びっくりすんぞー。」
「顔?岩?」
想像が追いつかないのか、ナルトが説明しても、は相変わらずよく分からないという顔をしている。
「一楽のラーメンも美味しいしさ!が元気になったら、いっぱい見せたいものがあるんだってばよ。」
ナルトは少し陰った表情をしたの空気を振り払うように明るく笑って見せる。
「そうだわ。美味しいお団子屋さんもあるのよ。ちょっと体調が良くなったら買って来るわね。」
サクラはナルトの意図を理解したのか、納得してナルトの意見に賛同した。
には未だ死の色が濃い。
高熱を出せば未だに死したイタチの名前を呼ぶ時すらある。死者は苦しいなら彼女を呼ぶかも知れない。その意図がなかったとしても、彼女がふらふらついて行ってしまう気がして、酷く恐ろしいのだ。
だから。
「な。約束だってばよ」
必死でつなぎ止める。彼女に生きていて欲しいから。
繋ぎ止める方法を探している