は対人恐怖症とまではいかないが、あまり大人数と触れあうのが苦手だった。
サスケがうちは邸に軟禁のためにと共に移ると、同期の者たちもこぞって手伝いに訪れたわけだが、は話しかけられても戸惑って終始サスケの顔色を窺うだけで、少しでも会話したのはヒナタ、シカマル、そしてナルトとだけだった。
挙げ句疲れたのか、しばらくするとこほこほと咳をはじめ、サクラによって寝かされることになった。
「あんまり、話さない子なの?」
が部屋を辞したのを確認してから、いのはかりかりと頭を掻いて、サスケに問う。
「そんなことない。あいつは案外しゃべりだ。」
サスケは比較的無口な方だが、楽しいことなどがあるとはころころとよく話す。黙っていても楽しそうに体を揺らしていたり、いつもは辛そうな表情一つ見せない。
なのに今日は終始黙りきりで、俯いて部屋の隅でじっとしていた。
サスケがそれ程多くもない荷物や家具の配置などを話し合っている間、女達がに話しかけていたが、がそれに笑み返すそぶりはなかった。
「、人見知りじゃねぇの?」
ナルトがサスケの背中を叩く。
「人見知り・・・まぁ、そうだな。多分。」
香燐とも打ち解けるまでに随分と時間がかかったようだし、水月など結局打ち解けぬままに終わった。だが、重吾とは早々気があっていたようだから、性格もあるのだろう。
「なんだよその曖昧な返事。」
ナルトは頼りにならないサスケの回答に少しむっとして、畳の上に腰を下ろす。サスケも疲れていたので、同じようにちゃぶ台の近くに腰を下ろし、ヒナタが入れた緑茶の湯飲みを、ヒナタから受け取った。
「ちゃんって、好きなものってある?食事が少し出来るようになったなら、持ってきてあげたいんだけど。」
ヒナタはサスケに控えめな提案をする。
「確かに、それよいかも。人見知りでも食べ物にはつられるでしょ。」
いのがヒナタのアイディアに賛同して、サスケの前に座る。
「の、好きなもの?」
サスケは眉を寄せ、少し思案を巡らせる。
の好きなものとはなんだろう?
抜け忍をしている間、が食事の内容にこだわったことは一度たりともない。与えられるものをただ食していた印象がある。
「まさか、知らねぇ、とか言うんじゃねぇよな?」
外の庭を見ていたシカマルが、サスケに問う。
「・・・知らねぇな。」
サスケはぽつりと答えた。
「え、ちょっと、知らないって・・・」
いのはあまりのサスケの答えに、狼狽する。
「知らない。俺はの好きなものなんて知らない。」
「え、じゃ、じゃあ、嫌いなものは?」
ヒナタが雰囲気を取り直すように、サスケに尋ねる。
「・・・知らない。」
「おいおい、おまえら本当に恋人同士なのか?」
シカマルがサスケの答えに額に手を当てて、呆れる。
呆れられたこと自体にはイラッとしたが、サスケはの嗜好に関してほとんど知らなかった。
はサスケのやることにほとんどの場合文句を言わないし、与えられたものを甘受するため、彼女の口からサスケの行動を諫める言葉も、食べたくないものも出てきたことはなかった。
確かに皆の言うとおり、それは酷くおかしい。
けれどそのおかしさにすら、今の今までサスケは気がつかなかった。
「おまえ、のこと好きだよな?」
ナルトは眉を寄せながら、サスケに確認する。
「そんなの決まってんだろ。」
の憎しみを知らない、見返りを求めない優しさが好きだ。
最初は兄の恋人だったというへの申し訳なさしかなかったが、罪悪感も結局は大きくなっていく恋心に敵わなかった。
「そんな亭主関白、今時考えられないわ。ちょっと気の毒。」
ついて行けないとでも言うように、いのは手のひらを天井に向けてお手上げのポーズを作った。
「ちょっと声落としなさいよ。」
サクラがの部屋から戻ってきて、いのを睨む。声が響いていたらしい。胃のはそれに気づいてすぐにサクラに手を合わせた。
「ごっめーん。は?」
「咳がおさまらなかったから、安静にして点してるわ。あの子小さい時に喘息やってない?呼吸器官系がすぐストレスにやられそうなんだけど。」
「だそうだけど、サスケはしらねぇよなぁ・・・」
ナルトは白い目でサスケを見る。
「・・・なんの話?」
サクラは疲れたようにちゃぶ台のせんべいを勝手にとって、サスケに目をやった。
「サスケがのことをなんも知らねぇって話だってばよ。」
ナルトはちゃぶ台の上で手を伸ばして言う。
「何もって、何が?」
「食い物の好き嫌いすらもしらねぇって。」
「え、何それ。冗談?」
「まじまじ、」
サクラはナルトの話に若干哀れみの目をの部屋のある襖の向こうへ向けてから、近くに置かれたお茶ポットから勝手に湯飲みへとお茶を注ぐ。
「、未だに私にもよそよそしいし、もしかしてあんまり女の人、好きじゃないんじゃない?」
綱手先生にもびくびくだったし?とサクラは自分の考察を話す。
「確かに、それ言えてるかもだわ。シカマルとかナルトとかには平気だったし。」
いのは納得して、ぽんと自分の手を叩く。サスケに聞くよりも正直自分で考察した方が確かそうだ。
「・・・一応さ、これからが一般生活を始めるけど、サスケ君は外に出られないから、を出来るだけヘルプして欲しいのよね。」
サクラはサスケではなく、いのやシカマル、ヒナタを見回して言う。
サスケは軟禁中で外には出られない。
の軟禁はすぐに解かれるだろうし、大方無罪放免といった様相だが、サスケはそういうわけにはいかない。処刑されても文句は言えないのだ。
その上、男性のサスケにはどうしても言いにくかったり、してもらいにくいこともあるだろう。
彼女の足が不自由になった限りは、里がサポートしなければならないし、同期にも協力してもらわなければならないこと多いとサクラは考えていた。
里は、を保護し、守るという結論を出したのだから、なおさらだ
「ま、俺らの里はの力に助けられたわけだしな。」
が尾獣の攻撃を全面的に防御してくれなければ、里は今のままの状況を保っていないだろう。
そのせいで彼女が負ってしまった障害を支えていく義務がある。
「でも、ちゃんはどうしたいのかな・・・。」
ヒナタは少し困ったような顔でサスケを見る。
その答えを、サスケは全く知らなかった。
無知の愛情1