「っていうかさぁ、サスケ君って、がどういう生活をしてたのか、詳しく知ってる?」




 サクラはじろっとサスケを睨む。




「何となく話では聞いているが、」




 炎一族宗家の直系であり、一族の滅亡後は木の葉の里によって力を恐れられ、幽閉されていたこと、そしてイタチに攫われて匿われるように大切に庇護されたこと。


 大きくは二つのことしか、知らない。




「・・・幽閉時代は、結構酷いことされてたってばよ。」




 に過去を見せられたことがあるナルトは、青色の瞳を曇らせる。

 ナルトが見たのは透先眼を通してみた『映像』だったが、ただひとりでろくに言葉を交わす相手もおらず、ただ空だけが映る視界。

 ちゃぶ台の上に頬をすり寄せながら、ナルトはぽつぽつと話す。




「ひとりぼっちでさぁ・・・、ちっちゃくて言われてもわかんねぇから、なくなった父ちゃん、待ってるんだってばよ・・・」




 誰も来ない。ひとりぼっちの世界。

 その中で、は幼いが故に、父の死が理解できず、既に亡くなっている、帰ってこない父をずっと待っているのだ。




「みんな冷たいんだ・・・、最小限しかに関わろうとしなくってさ。ご飯すらが怖いからって、持ってこないんだ。」




 たまに来る侍女達は酷く怯えているか、好奇の目でしかなく、侍女はを恐れて食事すらろくに持ってこなかった。

 ナルトには、冷たい目を向けるだけだったとしても声をかけてくれる人がいた、友人がいたけれど、にはそれすらも与えられなかった。




「でもなぁ、、ちっちゃすぎてなぁんもわかってねぇんだよ・・・ひどいことされたってことすら、わかんねぇんだよ。」




 映像だけでも、ナルトは涙が出そうだった。

 お腹をすかせていただろう。辛かっただろう。でもはお腹が鳴っても、自分が酷いことをされているという感覚がない。だから恨むこともしない。ただ、待っている。

 誰かが来るのを、来るはずのない人を。




「それって・・・」




 ヒナタはナルトの話に、涙をためて聞き入る。




「イタチの担当上忍ってさ。の父ちゃんで、イタチ庇って亡くなったらしいんだ。でも、イタチが来てそのこと説明されても、よくわかんねぇんだよ。」




 ナルトが見たイタチの表情から、イタチは罪悪感をもっての元に立ったのだろう。けれど、は父が帰ってこないことも、そんなイタチの罪悪感も理解出来なかった。




「人が自分に話しかけてくれたことが嬉しくって、楽しそうに話すんだよ。」




 それが、ナルトには悲しくて仕方がなかった。イタチにとっても同じだっただろう。

 誰も自分と話してくれなかったから、それだけが嬉しくてたまらなかったのだ。




「ひっでぇだろ。でも、やったのは俺たち木の葉の里なんだぜ。」





 なんて謝ったら良いのか、ナルトは言葉が出なかった。

 の過去を知った時、になら憎まれても仕方がないと思った。寧ろ彼女が木の葉を憎まないのはどうしてだろうと思ったほどだ。

 けれどはそんな感情を知らないのだ。

 与えられたものが少なすぎて、そのちょっとのものが彼女にとってはあまりにも大きかったのだ。

 彼女にとって、例えイタチのせいで自分の父が死んだとしても、自分の元に来て、話をし、自分に沢山のものを与えてくれたイタチは、彼女の世界のすべてだったのだ。




に、悪意は欠片もねぇよ。それだけは、何があっても忘れないで欲しいって思う。」




 ナルトは懇願するようにヒナタ達に言う。



「わかってるわよ。私たちも父親とかから聞いてるし。」




 いのもシカマルも、父親からの父親の斎のことや、の幽閉のことを聞かされた。

 斎を信奉していたシカマルの父はシカクや、カカシなどはが幽閉された当時まだ力がなかったし、発言権もなかった。しかし今は上忍会の代表という立場にあり、カカシもまた火影候補に挙げられたほどの実力者だ。

 そのための免罪には多くの上忍たちが賛同し、署名活動まであったほどだった。





「まだ、木の葉が怖いのかも知れねぇし、慣れてもねぇから、」

「大丈夫だよ。誰もちゃんに目くじら立てたりしないから。」




 ナルトらしくないほどにしょんぼりしている彼に、ヒナタが慰める。

 ナルトはナルトなりにの過去を知り、少しでも助けてやりたいと思っているのだろう。




「ただ、ひとまずの体調の回復が一番だからね。まだ怪我すらも完治してないんだから。」




 サクラは心配そうに息を吐く。




「退院したとは言え、本当にあの子、やばいんだからね。サスケ君もから目を離さないで、少しでも青い顔してたら、すぐに誰かをこっちを呼びに来させてね。」




 今は容態も落ち着いており、退院できた。

 は元々幽閉先を彷彿とさせる閉鎖された病院が嫌いで、病院内の茶室にいたが、それでもやはり精神的にあまり良くない。

 だから少し無理をしてこのうちは邸の方が気楽だろうとこちらに移したのだ。

 その点では少し無理をしているし、所詮小康状態でまだ食事もままならないし、食事も病院でも三分がゆの状態だった。

 チャクラの安定を欠けばまた内臓を傷つけ、容態は急変するだろう。

 今のところチャクラも安定しているが、精神状態、健康状態に大きく左右されるため、油断は出来ない。




「わかってる。気をつけるさって、今は大丈夫だのか?」

「あ。」




 2つ向こうの部屋とは言え、は今一人だ。




「ちょっと見てくる。」




 サスケはちゃぶ台に手をついて立ち上がり、襖を開けて2つ向こうのが眠る部屋へと向かう。



「・・・俺、サスケの方がわけわかんねぇ。」




 シカマルは自分の頭を掻きながら、ふーとため息をつく。



は良い奴だってばよ。」

「そんなの誰が見ても分かる。ついでに大馬鹿もんだ。」





 ナルトの弁解にシカマルは即答した。




「じゃなきゃあのサスケに最後までついて、挙げ句俺らまで庇うようなまね、しねー。」 




 サスケは既に、カカシやサクラを殺すこともいとわないほど、復讐に溺れていた。

 そのサスケに最後まで付き従ったのだ。

 先ほどのサスケとの会話でも、確かに彼女のことを大切に思っていたと思うが、誰が見てもサスケは配慮や思いやりに大幅に欠けている。復讐に溺れている時などなおさらだろう。

 そんなサスケとでも一緒にいようと思ったのだから、相当なお人好しで、大馬鹿ものだ。




「ちょっとナルト君に似てるよね。」




 ヒナタはくすくすと笑う。

 心は常にサスケと共にあり、サスケを庇い続けていた。それを考えれば、どこかとナルトは似ている気がした。





無知の愛情2

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