は昼に病院に来る予定だったが、朝も随分早い時間に運び込まれた。




「吐血した!?」




 綱手は報告を聞いて目を丸くして呆然とする。




「吐血って言うほど、はたくさんじゃなかったって言うんですけど、サスケ君が焦っちゃったらしくって。」




 サクラは綱手に説明をした。

 食事前に軽い吐き気と共に血を吐き出したらしい。は別に量も多くなかったし、たいしたことではないと思ったようだが、サスケは酷く狼狽して、結局病院に大幅予定を繰り上げて、暗部が止めるのも聞かずに駆け込むことになったのだ。




「最近喘息の方はおさまっていたはずだから、喉が切れたわけではないのだろう?」

「はい。色もどす黒かったって。」

「・・・胃からか?」

「多分。背中も痛いって言ってて。」

「胃潰瘍か・・・。」





 綱手は軽く額に手を当てて、大きく息を吐く。

 薬の投与の関係と考えられなくもないが、最近が沈み込んでいるとナルトが心配していたのを綱手も聞いている。

 は明るく振る舞おうとして笑うのだが、ナルトはそれが心配でたまらないようで、気にしていた。

 サスケともうまく言っていないらしく、口数も少なだ。




、自分の苦しいところを口に出すのが極めて苦手なので。」




 サクラも途方に暮れたような顔をしていた。

 ナルトには慣れただったが、サクラに対してもまだ打ち解けてはいない。比較的時間のかかる子らしく、緊張が常に覗いていた。

 性格も積極的と言う訳ではない。

 人の目に怯えている節もあり、無理矢理外に連れ出し、人に会わせるのも気分転換にならず、彼女の負担になる可能性が高かった。




「もう少しサスケがうまくやると思っていたんだがな。」




 綱手は机の上に頬杖をついた。

 お互いに大切に思っていることは間違いないので、サスケがもう少し上手にを支えると期待していたのだが元が自己中心的で、思いやりという言葉に欠けるサスケは、下手をすればの負担になっているのかも知れないと感じることが多々あった。

 また、サスケは焦燥や悲しみを顔に出さないようにする時、あからさまに不機嫌を装うことが多い。

 が最近サスケの顔色を窺っているのを、綱手自身も理解していた。




「でも何か方法はあるはずなんですけどね。うちはイタチはと何年もうまくやってたんですから。」





 サクラは強い口調でそういう。

 うちはイタチのことの顛末はサスケから聞いている。がイタチの恋人であったことも既に知っていることだ。

 彼は木の葉からを攫ってからも、特殊な環境下とはいえを上手に守りながら、日々を過ごしていた。

 抜け忍の彼に出来たことが、自分たちに出来ないはずはない。




「それにナルトなんてあっという間にうちとけちゃって。」




 サクラは顎に手を当てて首を傾げる。




「流石ナルトだったな。」



 過去を見せてもらったことはたまたまだったが、性格がぴったりきているのは、何となく見たら分かった。

 ナルトは一番上手にの言葉を引き出す。




「ナルトも任務はやめに切り上げて、ちょっと聞いてみるって言ってました。」

「やっぱりナルトはが気になるんだな。」

「なんか、やっぱり過去とか考えると、放っておけないらしくて。」





 恋愛感情はおそらく、ないだろう。

 ましてやサスケの恋人を略奪愛するほどの気力はナルトにはないだろうと思う。しかし、サスケかナルト、どちらがのことを理解できるかと考えると、何となく性格がどこか似ているナルトの方だろうとサクラ自身も納得出来た。




「こんにちはー、」




 どこか元気のない声と共に、シズネに車いすを押され、が入ってくる。その後ろにはサスケもいて、綱手をちらりと見たが、むすっとした顔をしてそっぽを向いた。




!おまえ、大丈夫なのか?」




 病院から直接こちらに来たのだとわかり、綱手は慌てて立ち上がる。

 あまりに状況が悪いなら夕方にはの所に寄ってから帰ろうと思っていたが、まさかの方から出向いてくるとは思わなかった。




「うん。お薬もらったから。」




 相変わらずのんびりした口調で言って、は小首を傾げる。




「まぁ、数ヶ月はお薬、絶やしちゃ駄目ですよ。」




 シズネは一応気楽なに釘を刺した。




「そうだ。それに胃潰瘍はストレスで再発しやすいんだからな。」




 綱手はの方へと歩み寄って、そっと手を握る。

 綱手より遙かに年下のの手は小さく、その上酷く細い。見える手首はがりがりで、骨と皮ばかりに見えた。




「おまえ、前よりも痩せたか?」




 車いすのの前に膝をつき綱手はの顔を下からのぞき込み、頬に手を伸ばした。

 と最後にあったのは一週間前、退院した時だ。うちは邸に戻って一週間でそれほどかわるはずはないと思ったが、綱手の手に伝わるのは、前よりもかさりとした肌。




?」




 綱手はじっとの目をのぞき込むと、「ぁ、」と声を上げてがすぐに目線を外した。




「・・・が、あまり飯を食わないんだ。」





 サスケが不機嫌そうに眉を寄せ、腕を組んで言う。




「毎日、作ってはいるんだろう?」



 綱手はの様子を確認しながら、サスケに問うた。




「だから、俺だって食えって言ってるさ!」




 サスケは綱手の問いに声を荒げた。

 サスケとて、の体調悪化や食事をしないことに心を痛めているのだ。サスケのことだ、を手荒に扱う気はないだろう。

 綱手もサスケがに対して酷い罪悪感を抱いていることは知っている。

 ただ、はと言うと、サスケが声を荒げた途端びくりとして、あからさまに肩をふるわせた。




「おまえ、入院は嫌だな?」




 綱手は確認するようにの頭を撫でる。




「・・・」

「なら、しばらく私の家に来い。」 

「え?」




 はぽかんと口を半開きにして綱手を見上げた。




「何で!」




 サスケが怒りとも悲しみともつかない表情で、綱手に真っ向から反論する。




「医者としての判断だ。はしばらく、うちで預かる。」 




 綱手は立ち上がり、の肩を叩いてすごむサスケに向き直った。

 サスケがどれほど睨み付けようとも一向に意見を変える気はないようで、サスケに一人で帰れと促す。

 にらみ合う二人には右往左往したが、それでも安堵したような表情を見せたことを、サクラは見逃さなかった。






咬み合わぬ情

<