「元木の葉の上層部である方を手にかけたのは事実なので、わたしも犯罪者だと思う。」





 僅かなりとも体調が戻ったが寝たままの状態で綱手に言ったのは、自分にも責任があると言うことだった。

 畳の上に横たわる彼女は酷く弱っていて、意識がはっきりしてきた最近でも、よく体調を崩しては熱を出す。普通の病院の病室でないのは、彼女が錯乱状態になるからだ。閉鎖的な空間に、彼女は酷く弱い。木の葉が幼い頃に彼女を幽閉していたからだ。

 いつも傍にいるサスケは、ここにはいない。

 彼がいるとの言葉を塞ぐからだ。彼女はサスケほど言い訳が上手なわけではないし、口もまわらない。そのためサスケがいると、すぐに言い負かされて口を噤む。

 綱手はが死んだ蒼雪の娘であり、また斎の娘でもあると言うことは知っている。どういった性格の持ち主なのか分からなかったが、サスケよりも遙かにまともな神経と判断力の持ち主だった。




「サスケに協力していたのもわたしの意志。無理矢理とかではない、です。」




 の発言は非常に常識的で、サスケのように歪んだ部分は全くなく、またサスケが主張するほど彼女に全く罪がないとも思えなかった。実際に彼女は木の葉の上層部の一人を、手にかけていた。




「だから、その、罰を受けるなら、わたしも一緒。わたしは全部サスケのやることを知っていたし、それを理解してた。」




 元々千里眼に近しい効力を持つ透先眼を持っているがサスケの行いを知らない方がおかしいのだ。サスケの動きの中はそういった情報収集をする人間が近くにいない方がおかしい時が、多数ある。

 感知を得意とする香燐がサスケから離れてからも、サスケの木の葉の動きを予測したような動きは変わっていない。その役目を担っていたのは、だと言うことだ。要するに積極的に自分の能力を使って、協力していたと言うことになる。





「多分、イタチはわたしがサスケといるのを望んでた。わたしに、サスケといる絶対的な理由は、なかったけど、サスケといようと思ったから。」




 は柔らかく笑って、綱手を見上げた。



「わたしが、選んだの。」




 木の葉の上層部を殺したのも、サスケに協力したのも、そしてナルトとサスケを庇ったがためにこうして体を白炎に食われ、瀕死の状態であるのも。全部全部自分で選んだ。

 そうは呟いた。




「…里は、おまえを責める気はない。」




 綱手はそうを宥めた。

 そもそも幼いを幽閉していたのは、木の葉の里だ。またの父であった斎は元々暗部や上忍たちとも関わりが深く、未だに彼を慕うものが多かったため、の処刑を望んだ上層部と真っ向から争った。

 はイタチに木の葉から攫われ、木の葉に戻れば幽閉される可能性が高く、どこにも帰る場所のないが、イタチ亡き後、その弟であるサスケにつくのは必然であり、情状酌量の余地は十分にある。それが上忍たち全員の主張だった。

 幽閉からのの深い傷は、病室など閉鎖的な場所を極端に嫌い、錯乱状態に陥ること、雨の日に体調を極端に崩すなど、あからさまに今でも存在する。

 また、里の忍びもがサスケと、そしてナルトを庇ったのを見ていた。





、おまえは静養しろ。どこでも、里はおまえに家を用意する。里がおまえに望むことは、何もない。里はおまえを無条件で保護し自由を約束する。」

「そんな、」

「どこでも構わない。昔の斎の家は、流石に幽閉されていた場所だから、おまえも嫌だろう。おまえの自由を、火影であるわたしの名の下に、里は約束する。」





 綱手はの頭をそっと撫でる。紺色の髪は、斎とよく似ていて柔らかいくせにまっすぐだ。彼女の心根も同じように歪んでいない。

 里はこの純粋な少女を幽閉した。力があるかも知れない。そんな不確かなもののために、彼女を手に入れようとし、また恐れて幽閉した。

 その責任は里にあるのだ。




「もう、戦わなくて良い。自由に生きて良いんだ。」




 酷い状態の彼女に、どれだけの余生があるのか、彼女のこれからが決して明るくないことを、綱手は知っている。

 だが、できる限り穏やかに過ごさせてやりたい。




「…サスケは、サスケはどうなるの?」




 不安そうに、は綱手を見上げて言う。




「サスケが、悪いんじゃなくて、だから、」

「何も心配しなくて良い。おまえ、少し自分の心配を。」

「でも、サスケは。」




 必死の縋るような紺色の瞳に綱手は怯んだ。小さな手が綱手の服を掴んで、彼女は言い募る。

 本当は体調としてはサスケの傷はほとんど治っている。につきっきりで精神状態こそ良くないが、それでも怪我はほど酷くはないのだ。ただ、もちろん上層部はサスケの処刑を望んでおり、賛同する声も多い。

 彼は間違いない情状酌量の余地はあったとしても、沢山の忍びを殺した犯罪者なのだ。

 その事実に変わりはなく、難しい立場であった。




「大丈夫だ。サスケの処分はまだ決まっていない。こちらも援護はしているから。」




 綱手が言うと、やっとは少し安堵した様子を見せた。




「…おまえは、これからも、サスケの傍にいるつもりか。」




 綱手は尋ねる。戦いは終わった。彼女は木の葉の援助を最大限に受けることが出来る。それでも、サスケの傍に居続けるのか。

 その問いに、は迷いなく答えた。




「サスケが望む限り、わたしは傍にいるって決めたし、わたしも、傍にいたい。」

「…そんなにぼろぼろになってもか。」

「…ぼろぼろになったわたしが嫌だって言うなら、わたしはイタチの所に行っても良いけど、サスケが望んでくれる限りは。」




 傍にいようと思う。

 そう告げる瞳はとても深い色合いを宿していた。 

 彼女の居場所はおそらくイタチの元であり、また今はサスケの元なのだ。大切にされていたのだろう。そして、彼女も彼らを深く大切にしている。自分のすべてを犠牲にしても良いと思うほどに。

 だからこそ何も信頼していなかったサスケが彼女だけに信頼を置き、最後までこだわり、そして彼女が死ぬかもしれないとなった時にあれほど狼狽えたのだろう。




「わたしたちはおまえを必死で助けて正解だったんだな。」



 ナルトとサクラは大けがを負いながらも、を必死になって助けようとした。本来なら赤の他人だ。だが二人とも虫の息の彼女を最後まで必死になってつなぎ止めようとした。それはおそらく、サスケの命と心をつなぎ止める術でもあったのだろう。彼女がそれを持っているから。



「…終わったのか。」




 サスケの声が襖の向こうから聞こえてくる。酷く不機嫌な声音は不安そうにも聞こえた。と綱手を二人にしていることが不本意なのだろう。



「終わったぞ。」




 綱手が声をかけると、相変わらずクールな表情だったが、それでも心配そうな様子は窺えた。

 サスケはすたすたと早足での布団によって、彼女の近くに座るとすぐに手を握った。彼女の容態が不安でたまらない。いつも彼は怯えていた。




「…大切にしろよ。」




 綱手はサスケに言う。

 の容態を考えればいつ儚くなってもおかしくはないと理解しながらも、それは口にしなかった。


罪と罰の折半

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