久々に外に買い物が許されたのは、梅雨も過ぎた頃だった。




「便利なものがあるんだね。」




 サクラはにこにこ笑いながら、車いすを押す。

 は腕力がないため、自分で押すことは出来ないが、いつものようにサスケがおんぶするよりはずっと楽だ。

 ちなみにサスケとの外出許可をもぎ取ってきたのは、サクラだ。

 の気分が塞ぎがちなのは出かける機会が少ないからだと、上層部に掛け合ったのである。今は作戦作成などに貢献しているのだ、には自由が必要だと上層部をたきつけた。

 の自宅軟禁はもうとっくに解かれているので彼女は自由だが、サスケは未だに犯罪者であり、自宅軟禁のみだ。だが、はサスケの同伴を望んでいる。

 上忍たちは、サスケもがいれば大人しいと知っているため、サクラの意見に同意し、結果的にとサスケは出かけることが出来るようになった。ちなみに車いすも里から支給されたものだ。

 を幽閉したのは里で、里の責任は大きい。

 綱手が上層部の老人たちと喧嘩をし、の自由とその補助を里が請け負うことを無理矢理決定させたのだ。上忍たちもこぞってを擁護し、は最大の援助を里から受けられることになっていた。




は甘いもの好き?」




 サクラははしゃいだ声音で尋ねる。




「うん、すきだよ。」




 はサクラを見上げてにこにこ笑う。




「…オレは嫌いだ。」




 サクラの隣で何をするわけでもなく、街を見ながら歩いていたサスケはぽつりと言う。だが、サクラはそんなの無視だ。




「じゃあ、団子屋さんに行こう。良い団子屋さんがあってね、すっごくおいしいんだよ。」

「…」





 サスケはもう反論の言葉が出ず、黙る。それを見てナルトが笑った。







「本当にサスケ、サクラちゃんに目の敵にされてるよな。」





 昔とは大違いだと笑い転げる彼の言葉は正しい。

 とサクラは性格の違いから当初行き違いもあったが、今はかなり仲が良い。すると強く言えないの意志を最大限尊重するために、サスケに反論しだしたのだ。

 最近ではサクラとサスケの口論は絶えない。はおどおどしながらいつもそれを見ており、ナルトはいつも笑っていた。

 サクラはの車いすを押しながら、商店街の近くにあった団子屋に入っていく。




「…結局入るのか。」




 サスケは不満をぽつりと口にしたが、サクラに勝てるはずもなく、目を輝かせているを見て我慢することにした。

 サクラは遠慮もなくの隣に座り、サスケとナルトは仕方なく並んで二人の反対側に座ることとなった。

 店内は平日の昼間と言うことで、それ程人は多くない。

 は人の多いところを嫌う傾向にあるので、それはありがたいことだった。幽閉時代は畏怖の視線を浴び、また自分の紺色の髪が酷く珍しい好奇の対象であることを気にしているのだ。

 そのため、は自分の容姿を隠すため、相変わらずフードのついた着物を着ていた。




「ここは三色団子がおいしいのよ、それに食事だっておいしいし。」





 サクラは店員が持ってきたメニューを見ながらに説明する。

 まだは消化の悪いものは食べられない。うどんなどがあるこの団子屋をサクラが選んだのは偶然ではないだろう。





「ここの三色団子は本当にうまいってばよ。俺はみたらし団子も好きだけどな。」





 ナルトは笑って団子メニューを見る。だが、昼食が先だろう。




「ご注文は。」




 店員がやってきて、笑って尋ねる。




「オレはカレーうどんで、」




 サスケが言うと、ナルトも「俺もそれ。」と同じものを頼む。




「私はきつねうどんで。」





 サクラが笑って頼んでを見ると、はうどんを指さした。店員が注文を取り終わると、はきょろきょろと辺りを見回す。




「どうしたの?」




 サクラが心配して尋ねると、彼女は首を振った。




「いや、こういうとこ、あんまり来たことないから。」




 長らく幽閉され、その後はイタチについて抜け忍生活まっしぐらであったため、商店街など人の多いところで食事をすることは少なかっただろう。また、もししていたとしても常に警戒を強いられていただろうから、の主張は当然だった。

 は、普通の生活をしたことがない。

 普通に友達と笑いあい、一緒に出かけて、夜まで遊んで、食べ歩いて、友達の家に泊まったりして寝る。そういった誰もが当たり前のことを、全くしたことがなかった。

 サクラはを見ていて、当たり前のことを当たり前のように出来る自分たちがどれだけ幸せだったのかを思い知った。それでも多分はそんな自分の不遇を知らないから、やっぱり自分は不幸じゃないと笑うのだろうけれど。




「大丈夫か?」




 酷く不安そうな顔をしているに、サスケは尋ねる。




「う、うん。」




 は少し戸惑ったそぶりをしながら答えた。それを見て、サクラは気づく。車いすなので、は外側に座ることになり、一番奥の席にはサスケが座っている。




「サスケ君、ナルト、一度席からどいて。」

「え?」





 サスケとナルトが顔を上げて首を傾げる。




「どきなさい。」




 有無を言わせぬサクラの言葉にサスケとナルトが慌てて席を立つと、彼女はを車いすから抱き上げ、一番奥の席に座らせた。




「サスケ君はの隣に座って。ナルトはこっち。」




 突然の席替えに目をぱちくりさせていた男二人だったが、それで意図を察した。が一目から遮られるように一番奥の席に、ついでにサスケは一番背が高いので、要するに人の目からの壁、である。

 の向かい側に座り直して、サクラはに笑う。




「大丈夫?」

「うん。」




 は少し驚いたようだったが、ふわりと笑い返した。

 サクラは行動力がある。の性格や好むことさえ知っていれば、サクラは持ち前の行動力での繊細な部分を簡単にフォローできるし、逆には元が聡い質なので、サクラの持つ複雑な感情も徐々に理解し始めていた。

 そのため、いつもならサスケに対して誰かがきつく言うと止めに入るのに、サクラが言っても止めようとはしない。サクラが本質的にはサスケのことを大切に思っていると、理解しているからだ。




「…」




 サスケは何も言うことがなく、黙り込んでいる。

 とサクラが仲良くなるにつれ、徐々に立場が悪くなっている気がする。そう思うのは何もサスケだけではなく、ナルトもらしい。ナルトは相変わらず笑いを隠せていない。




「ほんと仲良くなったよな。とサクラちゃんが同居したりして、」




 と笑いながら言うナルトの言葉が冗談にしては間が悪い気がして、サスケは大きなため息を返した。








安らぎの中

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