サクラのに対する思いは複雑だった。

 サスケの思い人と、突然言われてもそんなの簡単に受け入れられるはずもない。かつてサスケを思っていたのは自分も一緒なのだから。けれどサクラとの口論が原因でが体調を崩してからと言うもの、サクラはますます違う意味でに会いにくくなった。

 が僅かにサクラに怯えているのが分かるからだ。彼女は感情を隠すのが苦手だった。それでも検診を請け負っている限りは、行かなければならない。

 特に今日は上層部からの呼び出しと事情聴取でサスケがいないと聞いているので、なおさら気が重かった。




「ごめんくださーい。」




 うちはの屋敷のがらがらドアを開いて言ったが、返事はない。

 サスケが未だ犯罪者であるため暗部がこの屋敷にいる。その暗部に尋ねると、どうやらは庭の近くにいるとのことだった。

 なんだか悪いことをしているような気分で、こっそりと入っていくと、庭に面した廊下で、開け放たれた襖にもたれたまま、が眠っていた。彼女は忍びとして過ごしたのは、チャクラコントロールの修行を除けば本当に数年間だけで、忍びとしての動きを忘れるのも早かった。

 そのためすっかり気配を感じるなんてことは忘れてしまっている。

 だが、まだ梅雨明けの涼しい時期だ。暗部の人間か、毛布が上から掛けてあったが、寒がりのとしては風邪でも引いたら大変だ。




「もぅ…」




 サクラは頬を膨らまして、仕方なくの体を抱え上げる。

 当初背が150程度、40キロ少しあったというの体重は、今は30キロにほど近い。そのため酷く軽い。それでもまだ回復して来た方だ。

 大けがの後体調を崩したため、急激に彼女は痩せた。一時は20キロ近くだったほどだ。助かったこと自体が奇跡だとすら言われるほどの大けがと、チャクラの不安定が彼女を今も苦しめている。

 揺らされたためか、の瞼が僅かに震えて、うっすらと紺色の瞳が現れる。その片方には、既に視力がない。

 ぼんやりとした瞳であたりを確認し、はサクラを見ると少し驚いた顔をした。




「あれ?いま何時?」

「もう11時半よ。」




 サクラは答えて、を布団の上に下ろす。




「そうか、もう11時か。」




 は現実味のない声音で言って、大人しく布団に座った。サクラは検診のために聴診器などを畳の上に広げる。彼女の着ている襦袢の袂を開いて、サクラはこれ見よがしに大きなため息をついた。




「ねぇ、いい加減、サスケ君殴って良い?」

「え?」




 サクラが言うが、は首を傾げるばかりだ。

 彼女の白い肌には傷の痣がまだ残っているが、それはもう薄い。ただ白い肩に明らかに違う痕が見えた。





「また、したでしょ。」




 言うと、の顔が真っ赤になった。





「え。え、っと…」

「良いわよ。わかるから。」




 昼間で眠たいのも、そのせいなのだろう。十分納得出来て、サクラは大きくため息をつく。






「でもあんまり体調が悪いならやめなさいよ。先週なんて3回だったでしょう。」

「え、ぅ、え、う、うん。」




 真っ赤になってあたふたして、は頷いた。

 体調が少しましになってからと言うもの、サスケはを求めるらしい。先月までは浮気もせず、甲斐甲斐しく何もしなかったようだが、少しの体調がましになった途端、これである。

 正直呆れるしかない。




「だって、サスケが、その、うん。したいって言うから。」




 言いにくそうに、は俯いた。




「…」




 は流されやすい。サクラはそれをここ最近でよく分かった。あまりきつく言うのは苦手だし、よほどで無い限りは主張しない。その割に自分で勝手にやってしまうところがあるから、たまに問題になる。

 ただ、サスケもそれを分かっていてを押す部分がある。 




「本当に、男って馬鹿なんだから。」




 サクラはぷりぷり怒りながら、の検診をしていく。幸い体調はそれ程悪くないらしい。




「でも、サスケも、不安なんだよ。」




 今日、サスケは上層部に処罰の事情聴取に行った。それは暗部も連れてで、彼は今チャクラを封じられている。彼の処罰は未だに決まっておらず、上層部でも未だにもめている。

 はそれを慮ったのだろうが、サクラはむっとした。しかし彼女が気にしていないのでは仕方がない。聴診器などを鞄にしまいながら、サクラはの頭を撫でる。





「…サスケ君って、うまいの?」

「え?」





 が目を丸くして、首を傾げる。




「気になるじゃない。そういうの。」

「え、そうなの?ん、わかんないけど。」





 は恥ずかしいのか口早に言った。

 彼女があまり女性と親しんだりする機会に恵まれなかったという話は、サスケから聞いている。だからこういう女同士の会話はないのかも知れない。サクラはが嫌がっているかを慎重に窺いながらも、更に尋ねた。




って、経験何人?」

「え、えっと、ふたり。かな。」




 案外素直に答えた。

 既にイタチとかつて恋人同士だったことは知っているから、一人目は彼、二人目はサスケという話になる。




「どっちがうまかった?」

「え、えぇ」 




 流石に言いよどんだに、サクラはけらりと笑う。




「兄弟って面白いじゃない。結構似てるでしょ。」

「えー全然似てないよ。」




 は首を振った。




「イタチはもっと優しかったし、穏やかだったよ。それに、サスケは不機嫌でいつもむすっとしてるしね。」

「ま、サスケ君はむっつりスケベでしょ。」

「むっつり?」

「無愛想だけど、すけべってこっと。」





 サクラが笑うと、も面白かったのか楽しそうに笑った。

 笑えば、やはり普通の子だ。気が強くなくて、強く言うと俯いてしまうだけのようだ。





「ひとまず、気をつけるのよ。言えないんだったら、わたしから言ったげるから。」





 サクラが力強く言う。彼女ではなかなかサスケに反論するのは厳しいだろうが、サクラは違う。真っ向から喧嘩が出来るし、抜け忍になってからの経緯があるため、サスケはサクラとナルトに最近弱かった。

 はふわりと微笑んで、首を振った。

 大丈夫だよと穏やかに、柔らかに言われれば言うことも出来ず、サクラは仕方なく口を噤んだ。



捧げ続ける

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