「うぅ、んっ、」





 彼女の躯の中から出て、隣に身を横たえれば、余韻に身を委ねていたは苦しげに声を上げて眉を寄せた。ぐったりしている彼女は、動く気力がないらしい。不規則な呼吸をまだ繰り返している。






「大丈夫か、」





 だるい感覚はまだ躯に残っていたが、サスケはの頬をさらりと撫でてやる。




「う、うん。」




 とろりとした紺色の瞳は未だに熱に浮かされたような色を保っている。ただ、疲労の色も十分に窺えた。

 躯がべたつく。夏場というのもあるのだろう。

 それが不快で、サスケは布団を放り投げて近くにあった着物を羽織って、窓辺にたった。




「暑いな。」




 サスケはそう言って近くの窓を開ける。

 障子の張られた窓は、開ければ僅かなりとも涼しい風が入り込んできた。夏場とは言え、夜風は涼しいと言うところだ。

 少し冷たいくらいの風だが、熱い躯を冷ますにはちょうど良い。

 余韻から少し抜け出したらしいは、近くの着物に手を伸ばして躯を覆おうとする。元来恥ずかしがり屋なので、裸で寝るのは嫌なのだろう。ただやはり疲れのせいかその動きは酷く緩慢だ。

 寝転がったまま手をぱたぱたさせて、紐を掴もうとしている姿が酷く面白くて、サスケは風に当たりながら笑った。あざらしかあしかのようだ。





「しばらくそのまま布団に潜っていろ。すぐに湯を浴びに行く。」




 躯が冷えるのはいけない。彼女は寒さに弱いのだ。だから布団に潜っているのが一番良い策だろう。着物も着なくてすむ。サスケも見えない。

 だがは布団にくるまったまま身を起こした。さらりと髪の間から見える白い首筋には、サスケの唇になぶられた痕がいくつもある。サスケはそれを見て軽く眉を寄せた。




「また、サクラにどやされるな。」




 は大けがの後遺症で足が悪いため、自力で歩くことが出来ない。体調は良くなってきているが、まだ万全とは言えない状況で、本当はこういう行為も控えた方が良いのだが、自分もまだ若いなと、サスケはふっと思った。

 まぁまだ18だ。流石に不能になるには早すぎる。




「サクラ、気にしてくれているから、」




 は少し恥ずかしそうながら、嬉しそうに笑った。

 一度サクラとは口論をし、そのせいでが体調を崩してからと言うもの、サクラはの体調に酷く敏感になった。徐々に仲良くなるにつれてそれはより深いものになり、今となっては完全にの味方。サスケの敵だ。

 毎日検診にやってくるサクラに行為がばれるのは常のことで、うまく隠したつもりでも、医者だけあってサクラは9割方理解している。

 それに、も嘘をつくのが下手だから、突っ込まれたらすぐぼろが出る。




「でも、嫌じゃないだろ?」




 躯と頭が少し冷えたので窓を閉め、座っているに手を伸ばす。わざと髪をいじりながら尋ねれば、は頬を染めた。




「え、えぇ、と。」

「なんだ、いつもよくしてやってるだろ?」




 抱き寄せて、意地悪く耳元で囁けば、は居心地が悪そうに顔を耳まで真っ赤にして身体を震わせた。




「さて、風呂に行くか。」





 あまりおちょくっては違う意味で血圧が上がって体調が悪くなるかも知れない。サスケは適当に切り上げて、裸のを毛布ごと抱き上げる。




「え、え、サスケ、まさか…」

「あぁ、一緒にはいれば良いだろ。」




 素っ気なく言えば、が首を振った。




「そ、そんなの、明るいし、でも、風呂、」

「別に風呂は広いから良いだろう。」




 うちは一族の旧屋敷の風呂は広い。正直一人で入るには広すぎるため、昔は兄のイタチと共に入ったものだった。まぁ既に自分以外は亡き人だ。

 無駄に広い風呂も、それなりに役に立った。が足を悪くしたため、手すりなどが必要だったし、低い位置に棚などを取り付けなければならなかったため、スペースがあるのはありがたいことだった。

 ただ、を風呂場まで運んだことはあるが、一緒に風呂に入ったことはなかったかも知れない。彼女は恥ずかしがり屋で、そういったことは断固拒否した。




「そんなに気にすることもないだろう。今更だ。」





 躯を重ねてから、かなり時間もたっている。回数も数知れずだ。だが、はいまだに恥じらいを忘れないし、慣れない。と言うか、こういうことが苦手らしい。

 と出会う前は恋愛をする暇もなく、商売女や娼婦なども相手にしていたサスケからすれば少し物足りない時もある。だからといって、商売女のようになれていてほしいわけではないが。




「で、でも傷が…」

「おまえ、まだそんなこと気にしてるのか。」




 サスケは思わず深いため息をついた。

 も戦いでの怪我の傷をサスケに見られるのを嫌がっていたが、最近はそれも少し是正され、躯を重ねるのも嫌がらなくなっている。だが、やはり傷があるというのが、負い目のようだ。

 女性ならではの考え方だから、正直サスケにはよく分からない。




「おまえの肌は、白くて綺麗だよ。」




 サスケはさらりとの肩を撫でて、髪をすくい上げる。

 確かにいくつか薄い傷跡が目立つし、太ももには手に引っかかるような大きな傷がある。だが、きめが細かくて柔らかい肌は白くて綺麗だし、手触りだって良い。





「ん、く、くすぐった、ぃ」




 首筋を自分の髪とサスケの手が撫でるのがくすぐったいらしい。鼻にかかった吐息を漏らして、身を捩る。

 サスケはの紺色の瞳をのぞき込む。

 柔らかそうな色合いの明るい暮れゆく夜と同じ紺色の瞳は、まだ熱が残っているように僅かな水の膜が揺れていた。




「さ、さすけ、ぇ、」




 サスケの手に身を捩って逃れようとする掠れた声が、酷く欲をくすぐる。




「あ、これは駄目だな。」




 サスケは独りごちて、の躯を布団へとゆっくり押し倒す。




「え?」




 が紺色の瞳を丸くしてサスケを見上げる。




「頭が冷えたと思ったんだがな。」




 そうでもなかったらしい、

 結論づけて、サスケはもう一度の躯をまさぐる。熱の余韻の残るの中心に手を触れれば、まだ濡れた感触が伝わった。




「さ、サスケっ、ぇ、」




 まだ状況が飲み込めないのか、は敏感な場所に突然触れられ、戸惑いに足をばたつかせる。それを自分の足で押さえて、サスケはの耳元で言った。




「悪いな。オレはやっぱりまだ若い。」

「え、ぇえ!…ひっ、」




 先ほどの行為の名残を利用して、彼女の中に入り込めば、は大きく身体を揺らしてきゅっと締め付けてくる。柔らかく、熱い感触にサスケは大きく息を吐いてから、自分を落ち着けてを見下ろす。

 突然だったためか少し苦しそうな息を吐きながら、恨めしそうにこちらを見返している紺色の瞳は、見なかったことにした。







紺色の夜