「え、それでサスケってば、納得したのか?」
ナルトはが綱手宅にしばらくいると言うことを聞き、驚きをサクラに伝えた。
「そんなの納得するわけないじゃない。」
サクラは腰に手を当てて、今日の朝のことの顛末を思い出して、はーとため息をつく。
綱手がをしばらく預かると言った途端、サスケは綱手に襲いかかるのではないかと思うほどの表情を見せた。
それは憎しみとも、怒りとも、悲しみともつかない、狼狽も含んだ焦燥だった。
サスケはが大けがをしてからと言うもの、片時も離れることを拒んでいた。今はそれ程切迫した状況ではないが、それでもから離れるのは嫌だったのだろう。
綱手と真っ向から盛大な口げんかをしたが、「医者としての判断だ」と言う綱手には勝てなかったらしく、不平不満だらけでうちは邸に暗部に見張られながら帰った。
「今は?」
「火影の執務室にいるわよ。」
綱手は現在火影としての執務中だ。任務の受け渡しや話し合いをしている。
昼過ぎにサクラが覗いたときは、その隣で珍しく明るい表情をしたが、綱手の書類の作成を手伝いながら、にこにこしていた。
「じゃ、報告書ついでに覗くってばよ。」
ナルトは自分の持っている報告書を振りながら、明るく笑う。だがサクラとしてはそんな明るい話ではない気がした。
「・・・サスケ君、すっごく落ち込んでたわよ。」
サクラは目を伏せて言う。
確かに態度こそ不機嫌でいつも誉められたものではないが、に対して献身的な世話をしているし、大きな思いがあるのは誰が見ても分かることだ。
「だよなー。サスケ、に何かあると顔色真っ青だもんな。」
ナルトも困ったようにサクラの言葉に同意する。
「そうよ。正直、木の葉に来てから初めてと離れるから、本当に本当に落ち込んでたわ。」
サスケを思っていたことのあるサクラとしては、少し歯がゆい思いがするほど、サスケはを思っているし、とても依存している。
はそれを、どこまで分かっているのだろうか。
「んー。でもさ。だったらなおさらサスケにとっても良い機会じゃね?」
「なんでよ。」
「だって、恋人同士だからって、普通四六時中一緒にいられるわけ、ねぇだろ?」
ナルトはさらりと言った。サクラは言われて、その当たり前のことにどうして今まで気づかなかったんだろうと、目を丸くした。
そりゃそうだ。
普通の恋人同士でも、任務も何もなく、片時も離れず一緒にいるなんて、どんなに愛し合っててもそれは不可能なことだ。
なのに、サスケは、その『異常』を望んでいる。
「・・・え、サスケ君の方がもしかして、精神的にやばい?」
「え?サクラちゃん気づかなかったの?」
ナルトの方が驚いた顔をして、サクラを見た。
言われて見れば確かに当たり前のことだったが、サクラも初めてそのことに気がついた。
「サスケ、すっげぇ気に病んでんだよ」
ナルトは本当に悲しそうにしみじみと、言う。
あれほどに気が強く、人を殺しても良いと思うほどに覚悟を決めていたサスケは、それでも最後の最後でを切り捨てることが出来なかった。
多分、彼にとっては精神的支柱だったのだろう。
だからこそ、あれほど強く、何者も顧みずにいられたのだ。だが、その支柱は、サスケの自分勝手な行動によって壊れた。
おそらく自分が五体満足で生きていて、代わりにがぼろぼろになったことも、サスケを酷く苦しめている。が大事だったからこそ、サスケには自分が許せないのだろう。
が元々はイタチの恋人で、イタチの忘れ形見であることにも由来しているのかも知れない。
彼の後悔は何よりも大きいのだ。
「サスケ言ってただろ?変われなくってごめんって。」
が高熱に苦しむ中、サスケは言っていた。
『ごめん、ごめんな。変わってやれなくて。ごめんな、本当に、おまえだけは、こんなぼろぼろで、オレだけ生きてて、つなぎ止めて、苦しくて、痛いのに、』
泣きそうな声音で、誰も聞いたことの無い謝罪を口に出していた。
『でも、死ぬなよ、オレが生きて、られなくなる、ごめんな、弱くて、』
サスケは多分、死にたいのだろう。
が怪我をしたことは悲しくてたまらない。申し訳なくて死にたいくらいの罪悪感があるけれど、がこうして生きている限りは自分も生き続けなければならない。そして、がいないと生きていけない。
死にたい。でも死ねない。を手にかけることは出来ないから。
「でもさ、サスケも、その気持ちを精一杯を傷つけない、守る向きに向けないとさ。」
悲しい、悔しい、自分が憎い、申し訳ない。
そう思う負の感情があるから、どうしてもに笑いかけることが出来ず、サスケは不機嫌な顔をしてしまう。
それがを傷つける。
「だから、ちょっと離れるのは、良いことかもしんねぇって、思う。」
離れないと分からないこともある。ナルトはサクラににっと笑って、火影の執務室へと駆けていく。
「綱手のばっちゃん!報告書だってばよ!!」
「そのばっちゃんと言うのをやめんか!!」
あまりに無神経な言葉に、綱手は豪快に怒鳴りつけて、ナルトを迎える。
はやはりその隣でびくりとしたが、それに気づいた綱手に背中を撫でられ、別に自分に向けられたものではないと、すぐに安堵の表情を見せた。
「も大丈夫か?」
ナルトは明るく笑って見せて、に尋ねる。
「う、うん?」
「嘘ばっか。胃潰瘍なんだろ?聞いたってばよ。」
の曖昧な態度に軽く不平を言って、ナルトは綱手に書類を渡す。綱手はそれを受け取ってすぐにに渡した。
「あれ?」
ナルトが首を傾げている間に、は一瞬その形式を確認し、近くの机に振り分けていく。
「は記憶力がかなりよくてな。」
綱手はにやりと笑って、驚くナルトに言った。
「ちゃん、滅茶苦茶賢いんですよ。」
シズネが控えめに言って、に書類の山を渡す。
それをは振り分けられている山を確認せずに、淀みなく手を動かして振り分けていく。
振り分けの山は軽く20を超えているが、は一度覚えたことを忘れないし、場所もきちんと把握している。
「ばっちゃん、まさかこのためにを連れてきたんじゃねぇよな。」
ナルトは目を細くして綱手に疑いの目を向ける。
「まさか、私だってそこまで嫌な奴じゃないさ。」
綱手はそう言ったが、しばらくはを手放す気がなさそうだった。
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可愛い可愛い