穢土転生の術を前に蘇ったイタチを見て、は小さく息を吐く。
イタチ以外の、他の者たちもそうだろう。
は自分の肩にいる白炎の蝶をちらりと見て、攻撃を命じようとする。ナルトとビーは躊躇っているようだったが、には迷いがなかった。
「死者の、冒涜としか、思えない・・・。」
だから、マダラと手を組むのは嫌だと言ったのだ、と心の中で付け足す。
蒼一族が予言を司る清廉な一族のせいか、はそう言った自然の理に反するものが大嫌いだった。そのため、大蛇丸も同じにおいのするマダラも大嫌いだった。
「・・・?まさか、こんなかたちで会うことになるとはな。」
穢土転生のイタチが少し訝しむようにの名を呼ぶ。
既に死した人。生者の。
世界で一番愛おしい人に、もう一度会うことが出来ればどうするだろう、とは何度も想像していた。けれど、実際会った今、感じるのは彼を蘇らせた人物に対する怒りだけだった。
「誰が、こんなことを・・・」
初めて感じる感情に、チャクラが泡立つ。
「・・こいつ、」
ビーがを見てぎょっとした表情をし、ナルトも警戒の目をに向ける。
「待て、、俺はもう操られてはいない。」
イタチはに言うが、は険しい表情のままだ。
「・・・そんな顔のおまえを見るのは、初めてだな。」
死んでから、一年もたっていないのに。何年もと共にいたはずなのに、がこんな表情が出来ること自体を、イタチは知らなかった。
「おまえ、・・・五影会談の時サスケといた…?」
ナルトはを凝視する。
彼女は五影会談の折、サスケと共にいた少女だ。
そしてナルトは一度だけ、自来也の弟子である紺色の髪の子供を見たことがあった。彼女の容姿は彼にそっくりだが、その写真は20数年以上前のもので、その子供が生きていれば30過ぎ。彼女の容姿は20には全く届いていない。
その上イタチが知っているとなれば、警戒するに決まっている。
「彼女は俺の恋人だ。」
イタチは今にも襲いかからんばかりのナルトを止めるようにそう言った。
「は?」
「・・・子供も、いる。」
ナルトはイタチの言葉にの顔を凝視する。どう見てもナルトと同年代にしか見えない彼女には、既に子供がいるという。
信じられず、思わずナルトがイタチの年齢を数えていると、イタチはあからさまなため息をついた。
「俺は穢土転生を止めるために、カブトの元に向かう。」
「・・・」
「サスケのことは聞いた。」
イタチは短くに言う。
「・・・聞いたって、何を?」
「上層部に復讐をし、マダラに利用されていることだ。」
「仕方ないじゃない・・・」
の途方に暮れた声が響き渡る。
「ダンゾウが、言ったんだもん・・・。不知火を潰すって・・・」
「おまえ、まさか」
イタチの理解は早い。の言葉に目を丸くして、を凝視する。
「それ以外に、大切なものなんて、ないもの!」
イタチを失った時点で、に残されたのは一緒にいることの出来ない不知火の子供達だけだ。大切な人との忘れ形見だけ。
それを殺されるかも知れないと思えば、何でも出来た。
「・・・おまえ、手を汚したのか?」
「殺したよっ!わたしも殺したっ!!だって・・・!」
涙のあまり、もう続かなかった。には守りたいものがあった。
命に替えても守りたい未来があって、だから木の葉の上層部を潰さなければ、自分の大切な子供達が殺されてしまうと思った。
「ひとまず落ち着け、いくつか質問しよう。子供は、腹から出したな?」
「・・・雪月宮。因幡。・・・元気。」
「おまえ、どうして子供と一緒にいなかった。」
イタチは冷静に状況を把握するために問う。
「だって、ユルスンが言ったの。・・・わたしとの血縁関係がばれない方が、良いって。」
イタチと同じく生き残りであるうちはの傍系のユルスンは頭脳明晰な人物で、イタチの死後ほとんどの不知火の采配を振るっている。
イタチも信頼していた人物だ。
「今はユルスンが取り仕切っているのか?」
「・・・違う。叔父上が、青白宮の叔父上が。」
ユルスンには野心があまりなく、炎一族の旧領という立場の不知火を尊重するつもりのようで、青白宮が今は幼い子供達の代理として宗主の業務のほとんどを代行している。
青白宮はの親族であり、炎一族の役割を良く理解しているため、心からの幼い子供達を大切にしてくれている。
「なら、青白宮を立ててユルスンを追い出せ。即だ。ユルスンがマダラと何らかの形で繋がってる。」
イタチは舌打ちをしてはっきりとそう口にする。
「え?」
は意味が分からず、目尻にたまった涙を拭きながら首を傾げる。
「ユルスンも、木の葉の上層部への憎しみは十分にあったはずだ。」
うちは一族を殺害したのは確かにイタチだが、それを命じたのは木の葉の上層部やダンゾウであり、ユルスンもそれを承知していた。
「俺はおまえが不知火に子供達と共に住めるように用意をしたんだ。」
イタチは自分が死ぬことを理解していた。
だからこそ、不知火という炎一族の旧領を整備し、と子供達に残した。と子供達がイタチ亡き後でも生活に困らず、幸せに暮らせるように。
ユルスンはおそらく、自分の復讐のためにを利用したのだ。
イタチ亡き後、が不知火にいられないとなれば行き先はイタチの弟、サスケの元しかない。
そしてサスケが上層部へと復讐を願っているのを知り、それを手助けするようにを仕向けた。要するにそういうことだろう。
「ねぇ、どうして殺してくれなかったの?」
は震える声で一番の疑問を口にする。
イタチは昔に言った。自分が死ぬ時はを殺すと。一人、置いていったりはしないと。
けれど、イタチは死の瞬間にその約束を破った。
「・・・おまえも、俺にとっての未来だったからだ。」
一族を皆殺しにした。唯一の親族であったサスケに憎まれた。
その中で無邪気に自分を慕うはイタチの心の支えであり、希望であり、サスケと同じくらいに大切な存在だった。
ましてやイタチが死んだ時、は妊娠していた。
「俺にとってサスケや子供達が未来だったように、おまえも、俺の未来だったよ。」
精一杯イタチが残せるものを残した。残してやりたいと思った。自分自身の未来を二つも、ともに潰してしまうなんてことがイタチに出来るはずもない。
「愛してるよ。」
子供達も、も、自分の命をかけても良いくらい、愛している。木の葉よりも、何よりもずっと大事なくらい、愛している。
イタチは淡く笑って、それでも今となっては遅い言葉を優しく紡いだ。
未来の欠片