は俯いてぼろぼろと涙をこぼす。
「・・・不知火の、ことは、わかった。」
袖で涙を拭いながら、ぽつりと呟く。
ダンゾウが死んだ今、おそらく上層部もこれ以上強硬手段には出られないだろう。また、国が連合している今の状況を考えれば、戦争が終わり次第不知火もどこかとの同盟を考えねばならない。
今までの永世中立という立場ではいられないのだ。
「でも、イタチのお願いごとは、聞けないよ。」
「。」
「わたしは、サスケと一緒に行く。」
は顔を上げて、イタチをまっすぐ見据える。
「今度は、わたしの出来ることをするよ。」
イタチが死んだ時、は何も出来なかった。何もしなかった。
イタチ自身もに対して女として以上のことを望んでいなかったし、戦いにその希少な能力を使わせることもなかった。
はただ女として愛されていた。
けれどイタチが死に、もっと自分が彼のために何か出来たのではないかと心から後悔したのだ。
だから、
「もう上層部の人を殺すとか、そういうことはない。でも、サスケと一緒に行くよ。」
は一緒にいてくれと縋り付くように言ったサスケを思い出す。
本当は落ちていく闇は彼一人なのかも知れないけれど、手を汚しているのは彼一人かも知れないけれど、一緒に落ちてやることくらいは出来る。
もう同じように手を汚してしまった。
そのに出来るのは子供の元に帰ることじゃない。彼らには守ってくれる人が既にいる。
だから、
「彼が、拾い上げてくれた命だから。」
死ぬ気だった。死のうと思っていた。
その命を拾い上げてくれたのは自分の子供達やイタチではなく、サスケだった。一度は捨てた命だ。彼のために使っても問題あるまい。
「わたしは、イタチを守ってあげたかったけど、それは出来なくて、守られるばかりだったから。」
守られるだけで、終わってしまった恋だった。
与えられてばかりで、は泣くことしか出来ず、真綿にくるむように守られていた。
「今度はサスケを守るよ。」
だから、今度は、与える側に。
「、おまえ、」
「上手に出来るかは、わかんないよ。だって、わたし馬鹿だから。」
は今まで何も知らなかった。
ユルスンの嘘を無条件で信じたのだって、あまりに絶望が胸を塞いで、まともな判断力を持っていなかったからだ。
「でも、頑張ってみる。」
サスケを守るために、精一杯のことをする。
「だから、もし上手に出来たら、ほめてね。」
は紺色の瞳に涙を一杯にためて、笑う。
子供の頃からずっとイタチと一緒にいた。幼い頃から、恋人になってもずっと、どこか彼は年上で、全然対等ではない存在だった。
いつでも彼はの先を行く存在で、年上だった。
両親が既に物心ついた頃にいなかったにとって、いつも誉めてくれるのはイタチだけで、感情を教えてくれたのもイタチだった。
「いっぱいほめてね、」
あまりに不釣り合いな幼い言葉に、イタチは苦笑する。
「そうだな。上手に出来たら、たくさんほめてやろう。」
いつもよくできたと言って、頭を撫でてやった幼い頃を思い出す。そして、イタチもまた自分を誉めてくれた紺色の髪の青年を思い出す。
の父斎。
彼はイタチの担当上忍で、上手に出来るとイタチの頭をぐしゃぐしゃにして撫でてくれた。
イタチはその娘のを、同じように誉めた。
進む道は別だが、いつかは交わる道だ。
「時間がないな。・・・俺はカブトの所に行って、穢土転生を止める。」
イタチはそっとの頬に触れる。イタチの手は酷く冷たい。いつも体温の低い手だったが、それ以上に冷たい。
死した時のイタチの手を思い出して、はまた泣きそうになったが、目を閉じて堪える。
「わたしはサスケの所に戻るよ。あまり時間をかけると彼が不安がるからね。」
サスケは最近、が少しサスケの側を離れるのも嫌がる。
が離反するなどと言うことはつゆほども疑っていないようだが、それでも酷く不安がる。それに、香燐がいない今、の透先眼はサスケにとって非常に必要なものだった。
「気をつけろよ。」
イタチはの髪をさらりと撫でる。
「死んだイタチに言われるのは変な気分だね。」
は不器用な笑みを浮かべて、乱暴に着物の袖で目尻を拭った。
「あんまりこすると赤くなるぞ。」
「大丈夫だよ。もう、出過ぎって言うくらい泣いたから。」
慣れちゃったよ、と笑って見せる。
イタチが死んだ時、体中の水分がなくなるんじゃないかと思うほどに泣いた。目が腫れぼったくなって、擦りすぎてばい菌が入ってめばちこが出来るくらい泣いた。
「・・・貴方が、九尾のナルト、だっけ?」
は目元を擦りながら、ばつの悪そうな顔をしているナルトとビーに目を向ける。
「俺をしってんのか?」
「うん。サスケが話してたから。」
ナルトを全否定すると宣言したサスケを、も見ている。そのためにイタチの写輪眼を移植したのも。
「時間がないから、貴方にわたしの過去を全部見せるね。」
はナルトに歩み寄ると少し背の高い彼の間近へと顔を近づける。
「わたしの目を見て、」
自分の瞳を紺色の普通の目から薄水色の透先眼に変える。ナルトの青色の瞳と、のうす水色の瞳が互いに写りあい、色合いが交わる。
「・・・」
一秒もしないうちに、ナルトの目尻に涙がたまった。
「なんだ、これ・・・」
言葉が出ないのか、ナルトは呆然との目を凝視したまま呟く。
が木の葉の上層部によって母と炎一族を亡くしたこと、そのまま木の葉に幽閉されたこと、幽閉先での酷い扱い、そしてイタチに攫われ過ごした時間。
それはナルトとて十分に共感できるものだ。
一つ間違えば、ナルトとてと同じ運命を歩む可能性が十分にあったのである。
「・・・ごめんなぁ・・・」
くしゃりとナルトは表情を歪めて、目の前にいるに思いきり抱きつく。
自分の里の行ったこと。謝っても許されないことだと知っているけれど、それでも言わずにはいられないと思った。
ごめんな