サスケが何を尋ねてもは生返事しか返さない。
先日少し彼女は出かけたのだが、それ以降、まったくだ。
は嘘が下手だ。自分でもその自覚はあるようだ。
代わりに秘密は話さない。聞き出されることを恐れて一言すら話さないので、断片を知ることすらサスケは出来なかった。
痺れを切らしたサスケが武器の調達に出かけてしばらく立った頃、日が傾く時間になって、はやっと息を吐いて、口を開いた。
「悪かったね、不知火まで突然走ってもらうことになって。」
サスケに向けた物では無い。
労る声音に、宿に来た男は不機嫌そうな顔をして、ため息をついた。
「確かに、突然は迷惑だ。」
「あはは、ごめんね。でも、確かめなくちゃいけないことがあったから。」
悪いと笑いながらも、決然とした響きで答える。
は静かに座り直し、改めて男の顔を眺めた。僅かに硬い黒髪に端整な顔立ち。久々に見る彼は変わっていないように見えた。
変な気分だ。
イタチがいた頃の人間に会うと、突然自分は途方もない遠くへ来てしまった気がする。
彼はイタチがいる頃にを大蛇丸の命令で遅いに来た人物の一人であり、血筋的には遠いうちは一族の末裔と言うことだった。写輪眼はないが、筋は良い。
自分は酷く変わってしまったような気がするのに、彼はさほど変わっていない。躊躇うような静かな闇を湛える瞳に、はほほえみで返した。
「越、今更だよ。…確かめてきてと、言った限りは、確信はあるんだよ。」
がやったことを、彼だって知っているだろう。
だからこそ、発する言葉に躊躇うし、言葉を選んでいる。
不器用だが優しいのが、彼だ。
越は一時暁にいた。大蛇丸からのスパイだったわけだが、現在ではの有力な協力者の一人である
「おまえの、示すとおりだった。」
越の回答は、酷く短い。
だが、その言葉に全てが込められていた。
「ユルスンは、マダラと組んでいた。」
越はの諦めの見える表情を眺めながら、柱に凭れた。
の確かめて欲しいことは二つだった。
一つは、不知火と木の葉との関係だ。
ユルスンは元々うちは一族の出身で、イタチの暁の中でも部下だったと同時に、木の葉との連絡係でもあったという。不知火において現在彼は対外的な外交の全てを担っているが、それがどういう方向に動いているかを、は知りたがったのだ。
だから関係ない越に頼んだ。
「一応慰めだが、その反面でユルスンは稜智の安全をマダラと確約していた。」
ユルスンはマダラと組むことで、不知火の安全を図ろうとした。
取引という意味では悪くはない決断だが、不知火の宗主である雪羽宮・稜智はマダラと組まないという決断を出した。にもかかわらず、勝手に確約をしたのだから、宗主を絶対とする不知火では反逆にも等しい行為である。
そして何より、は穢土転生で蘇ったイタチの言葉によって、ユルスン自身の個人的な恨みを知った。
ユルスンはうちは一族だ。
うちはを滅ぼしたのはイタチであるが、実質的には木の葉の命令である。
イタチに長年ついていた彼が、その事実を知らないはずもないし、彼は木の葉に深い恨みがあっても不思議ではない。
はイタチが信頼し、稜智を託した相手だという安心感と、自分が憎しみという感情を理解できないために、失念していた。
選択肢は、一つではない。
イタチは昔、に繰り返しそう言った。
なのにはイタチに盲目的だった。
何度も良いのかと、木の葉に戻りたくはないかと尋ねられたが、はその度、イタチの言葉を突っぱねた。
今もそれはあまり変わっていないのかも知れない。
はユルスンの讒言に他の道を自分で考えることをしなかった。
浅はかなのは、誰よりも自身だ。
ユルスンは、暁やマダラと組み、火の国との交渉を決裂させ、その事実を示した上でに木の葉の上層部を殺して欲しかったのだ。
「目、か?」
何故わかったと、暗に越は問う。
の人を疑わない性格は、越もよく知るところだ。
ユルスンの企みは、彼の中でも明確化された物では無い。は優れた洞察力があるが、彼の全てを見抜けるほど物を知らない。だからこそ、その目で真実を見つけたのかと問うた。
「まさか、」
は羽織の前をかき合わせ、首を振った。
「嫌いだと、言ったでしょう?だから、絶対にしないよ。」
透先眼は、過去を見るが、人間の過去をは視たことがなかった。
物の過去を見ることは、よくする。
小さな落ちていた箱が、石ころがどんな過去を持っていたのか、思いを馳せることをはよくする。は物でも酷い扱いをされていれば同情できるけれど、物に心はないから、別に平気だ。
物は過去を見られても悲しまない。
でも、人間は違うのだ。
過去は人の人生であり、生き様だ。それは自分だけの物で、人がのぞいて良い物では無い。
「なら、何故…」
「イタチ、穢土転生のイタチに会ったから、ね。」
は自嘲気味に笑う。
「ユルスンは、…自分の非を認めた。」
越はぽつりと呟いた。
「宗主に逆らったことは事実だから、処刑してくれて構わないとのたもうたよ」
誇り高いユルスンのことだ。言い訳一つしなかっただろう。
稜智の安全の確約をマダラに求めたと言うことは、ユルスンの中でも葛藤があったはずだ。
彼はイタチにこれ以上ないほど稜智のことを頼まれていたし、稜智がうちはの新たな未来であることも理解できていたはずだ。
うちは滅亡からの恨みも多分にあっただろうが、中立という稜智の方針を犯した大きな原因は稜智の身の安全だった。
駆け引きに、本来なら問題はない。
それでも、自分の私情が一片でもそこに含まれたからこそ、彼はすぐに非を認めたのだ。
「おまえの意志通り青白宮には話を通し、俺が外交のトップになってユルスンは大臣かなんかに留める。良いな。」
「うん。わかった。彼の葛藤も理解できたしね。」
は越の確認に頷き、肯定する。
ユルスンの知識は、必要だ。
彼は政治学と行政学に優れている。宰相の地位に止め、内政さえ取り繕ってくれれば良い。
外交は一括して誰かが情報を管理するのではなく中央に情報を取り入れ、青白宮を初め宗主の前で行われる合議で決めれば、問題はないはずだ。それで子ども達を守ることが出来れば良い。
は目を伏せる。
世界はの理解できない憎しみの元に成り立っていると改めて知った気がした。
憎しみ