は相変わらず1週間たっても綱手預かりのままだった。

 義務教育すらも受けていないのために、綱手は少しずつ勉強を教えるようになった。



「猪さんは食べるでしょ?豚は食べるの?なんでシズネさんは豚さんたべないの?」




 図鑑とシズネが抱えているピンクの豚を交互に見比べる。




「え?よく考えてみりゃ、豚と猪の違いってなんだってばよ?猪が、野生か?」




 ナルトはに尋ねられて真剣に考え出す。




「はぁ?おまえら何言ってるんだ?」




 サスケはが見ている簡単な教本を眺めながら、とナルトが言っている意味が分からず、眉を寄せる。




「豚さんと、猪さんの違いは?」

「色。じゃないのか?あと野生は猪だろ。」





 はどうやら猪と豚の違いを見つけようとしているらしい。おそらく野宿生活の方が長かったにしてみれば猪の方が身近の生き物なのだろう。最近まで猪と豚の区別もついていなかった。

 豚も猪も食べるものという固定観念があるらしく、シズネが豚を“ペット”にする感覚も分からないらしい。





「食べ物をペットにする奴もいるからな。」





 綱手は適当な解説をして、の教科書をみやる。

 は基本的に本を読むことが出来る。驚くほどに難しい漢字も知っているが、意味を知らない。漢字を覚えているのは見たものをすべて覚えることが出来ると言う特技の産物であり、意味はその限りでは無い。

 そのため、は基本的に記憶問題が得意で、応用が全く出来ないという難点があった。要するに算術−特に応用問題などは壊滅的である。ナルトと違うのは記憶力が良いのと理解力があるという点だけで、しかしながらナルトよりも語彙力に劣るので、応用問題に関してはナルト以下だった。




「算術は、わたしもそれ程得意ではなかったからな。後でそうだ。サスケに教えてもらえ。頭は良かったはずだ。」





 綱手は笑いながらの頭を撫でる。

 肩までの紺色の髪を揺らしては小首を傾げ、紺色の大きな瞳をぱちぱちさせて綱手を見あげる。





「そういえばイタチもよく勉強できたかも。」

「あぁ、サスケもイタチもアカデミーでは首席だったはずだからな。」





 綱手は気のない返事をして、サスケを見やる。





「昔の話だ。」





 もう5年以上も前の話であるため、サスケは首を振った。だが少なくともやナルトよりはうまく算術が出来ることだろう。

 が綱手の家に預かりに行ってから、サスケは2日に一度外出許可をもらい、数時間に会うことが許されるようになった。これは綱手の格別の計らいで、ついでにの勉強につきあうようになった。ナルトもまた勉強は苦手なので、これを良いことと邪魔しにきている。

 綱手はを預かってからと言うもの、を娘のように扱い、可愛がっている。

 大らかでの行動を体調以外に関しては規制しない。はサクラとも自由に会えるようになり、前は微妙だった関係も改善された。の胃潰瘍も治ってきたようだが、綱手はを手放す気はないようで、相変わらずは綱手の預かりのままだった。

 綱手は結婚もしておらず、娘もいない。の母は綱手の弟子であったから、彼女にとっては孫娘のような気分なのだろう。豪快な綱手だが繊細なところもあり、それがぴったり来るのか、は綱手に良く懐いた。




「算術むずかしいから、きらい。」




 は算術の教科書を見ながら首を振る。集中力も皆無らしく、はすぐに値を上げて唇を尖らせた。





「別に難しい問題じゃない。ここをかけるだけだ。」

「・・・?さっきとやり方が違う。」

「当たり前だろ。さっきのはX(エックス)だっただろう?」

「なんで同じじゃないの?」




 記憶力頼りのは、どうしても理論を理解する前に答えを記憶する傾向にあるため、違うやり方や、方法を選ぶ問題になると途端できなくなる。

 根気強くサスケは言うのだが、はどうしてもそう言った問題は嫌いで、やりたがらなかった。集中力のなさはナルトと競うものがあり、その上は学校に行ったことがないため、決まった時間座っているという習慣すらも無い。

 五分おきに退屈だのなんだと臆面も無く口にした。





「勉強嫌いはナルトと一緒か。」





 綱手はサスケのやりとりを見ながら、楽しそうに笑う。





「俺もさっぱりわかんねーってばよ。」




 ナルトはの教科書を一瞬のぞき込んだが、分からなかったのだろう。諦めたように机の上に頬を押しつけた。

 ナルトは習っただろうに。




「ナルトと違って記憶力はあるが・・・、算術はナルト並みだな。」




 サスケは大きく息を吐いて、分からないとごねるの頭をくしゃくしゃと撫でる。





「お茶持ってきたわよ。」




サクラがお盆の上に柔らかに湯気を立ち上らせる湯飲みを携えてやってきた。はぱっと顔を上げる。




「お菓子もあるわよ。」




 餌をもらう子犬のような反応のにサクラは苦笑しながら、最初に綱手の所に、それからの所やサスケ、ナルトの前に順番に湯飲みと茶菓子を置いていく。





「勉強は進んだの?」

「まったくだ。」




 サクラが尋ねると、サスケがはっきりと答える。





「やっぱ勉強は駄目だってばよ。」

「わたしも嫌い。」





 ナルトとは二人揃ってお茶菓子に夢中で、勉強に戻る気は全くないようだ。サスケとサクラはため息をついて二人を眺める。





「なんか。二人で兄妹みたいよね。」





 は引っ込み思案、ナルトは活発だが、根本的なところはよく似ている。仲も良く、それがまた恋愛とは全く違う、また友達にしては近過ぎる仲良しだという所も、何やらそのイメージに拍車をかける。





「あほの兄妹だな。」

「サスケ君、そういうこと言わないの。」





 真実かも知れないが、そういうことを本人達の前で言うのはどうなのだろうか。だが、馬鹿みたいな話に夢中になっているとナルトは全く聞いていないようだった。





「いったいイタチはどうやってに勉強を教えていたんだ?」





 綱手は素朴な疑問を口にする。

 聞けばイタチはかなりに勉強や芸事を仕込んでおり、特に琴や三味線など、には変な技能がある。古典もイタチが好きだったらしく、そう言った唄やらなんやらはお手の物だ。また、イタチはに暗部の地図の書き方なども教えており、それに関しては一定、応用のような物も出来る。





「んー。暇だったから。それに、イタチのお話は結構面白かったよ?」





 よくおいでおいでと手招きをされて、イタチはに物を教えた。が好きではない応用問題も、それなりに面白く話してくれたような気がする。





「要するに、サスケの教え方が悪いってことか。」




 綱手は面白そうに自分の膝を叩いて豪快に笑い、の頭を撫でる。





「確かに、サスケの話はちょっと退屈だよな。」






 ナルトも同じ感性なのか、息を吐いてと同じように眠たそうな目でサスケを見る。

 子どもに物を教えたことも無く、年下の弟妹のいないサスケと、面倒見が良く、弟のいるイタチとではそもそも教え方は違うだろう。特にサスケは子どもが苦手だった。






「そんなこと言ってて良いのか。これはアカデミー卒業してれば出来て当然レベルの問題だぞ。は卒業してないがな、おまえは違うだろ。」





 サスケはナルトをぎろりと睨む。

 はアカデミーを卒業していないどころか、勉強すら正式に受けたことが無いのだから、まだ問題が出来ないのは当然だが、ナルトはアカデミーを卒業しているのだ。




「駄目、よねぇ。」





 サクラが白い目でナルトを睨む。





「ちょうど良い。おまえも勉強しろ。」

「えーーーー!?」





 綱手が「火影命令だ!」と宣言すると、ナルトは嫌そうな顔での隣に座った。







子ども達の遊び

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