敵の配置が分からなくて怪我をした人。体調回復と透先眼を使って上忍会の役に立ちたい。
サスケの所に戻り、桜の蕾が膨らみ始める頃、は上忍会にいた。
「これがおうち?で、これが、岩の、かべ?」
「崖だよ。。」
の拙いことにカカシが推察して訂正を入れる。
「がけで、ここは、木がたくさんある場所?」
「森だ、森。」
「森。」
は自分の描いた地図を順番に説明していく。
それは今度の任務においての地形地図だった。しかも偵察が難しい他国との危険地域で、しかも暁の残党まで隠れている音隠れの里にも近い。暗部にも偵察させたが、返り討ちに遭っていた。それをは遠距離ながらも透先眼で“視る”ことが出来るのだ。
「さすがだ。なんて詳細な地形図と絵だ。」
綱手は簡単の声音を漏らし、ちらりと隣にいる上忍会の長でもあるシカクに目をやる。
「あぁ、これで偵察の必要などない。」
シカクも驚いたのか、首を振ってを見下ろした。
の透先眼は千里眼と同じ効用を持つ目で、かつて木の葉にいた名門蒼一族の血継限界である。しかし蒼一族は既に滅びている。本来なら蒼一族の血継限界は他の一族の人間と混ざると受け継がれない。そのため蒼一族は血族婚を重ねた結果、滅びた。は特別変異なのか、混血ながらも血継限界を持っており、能力も申し分なかった。
しかしは炎一族の血とその血継限界から長らく幽閉され、アカデミーにも行っておらず、サスケと共に帰った後も体調を崩しており、皆の協力を期待していなかった。しかし先日、シカマルが偵察の折に怪我をしたことを聞き、が手伝えることはないのかと申し出たのだ。
サスケは里へ貢献することを未だ拒否しているし、犯罪者として軟禁中。も上層部を二人殺しているが、先日境遇から情状酌量の余地ありとして、恩赦をもらったばかりだった。
体調は整ってきており、少しのチャクラを動かすことは問題無い。が任務に関わることには慎重論もあったが、上忍会は一度やらせてみようと決断を下したのだ。それはの父、斎がかつて上忍会を仕切っていたからと言うのもあった。
結果は予想以上のできだった。
「ちゃんと使える?」
は少し不安そうに綱手を見上げる。
「あぁ、これ以上ないほどな。完璧だ。誰に教わったんだ?」
「イタチ。」
「なるほどな。」
うちはイタチは犯罪者とされているが、木の葉に幽閉されていたを攫ったのがイタチであることも、皆が知っている。を利用するために教えたと思う人間もいるかも知れないが、どちらにしてもイタチは木の葉の中でも非常に優秀な忍だった。彼が教えたの図面は確かに形式にも則っており、完璧だった。
「教えられたけど、やったことなかったから。」
は安堵の息を吐いた。
どうやらイタチはに教えはしたが、全くと言って良いほど使わせなかったらしい。綱手もサスケから聞いている。サスケはの能力を最大限に利用したが、イタチは全くの能力を使用しなかったそうだ。だから、そもそもサスケもがこんなことを出来るなどと知らなかったし、綱手もこれほど役に立つとは思っていなかった。
「これから、もしあるなら、するよ?役に立てると、嬉しいから。」
は皆の役に立てたことがただ嬉しいらしく、にこにこと笑う。
「サスケが怒るぞ。」
綱手はの様子に思わず笑ってしまった。
サスケはが上忍会に行くことになった時、大反対だった。はシカマルが怪我をした時から里に協力したいと一生懸命訴えていたが、里に対する憎しみがまだ残っている上、が幽閉されていたことを加味しているサスケは、を怒った。
普通なら、自分を幽閉した里を助けようとは思わないだろう。
だが、には全くそういう感情はないらしく、サスケと大げんかになっていた。とはいえ、サスケが一方的にに冷たい言葉や怒声を浴びせ、が悲しそうに返すという何とも一方通行な喧嘩だったが。
「…会議、おわっちまったな。」
ゲンマが楊枝を振って言う。
今日は偵察をどうするかというのが議題だったので、これでその議題の結論は出てしまったことになる。が作ってくれたこの地形図を使えば終わりだ。
「体調は大丈夫か?」
カカシは椅子に座っているに身をかがめ、目線を合わせて尋ねる。
があの戦いで大怪我をし、今もあまり体調が良くないことを知っているカカシは心配になる。の左目は既に見えていない。透先眼に変わるのも右目だけだ。写輪眼ほど透先眼はチャクラを食わないし、疲れない。蒼一族の一部のものはかつて常に透先眼を開いていたくらいだ。しかしチャクラを久々に動かし、透先眼を開いて疲れていないだろうか。
心配になって尋ねたが、は首を横に振る。
「大丈夫。気分が良いから。」
気分が良いと言うより、誉めてもらえて嬉しいのだろう。
抜け人だったイタチに攫われても、サスケと共に人を殺しても、結局の本質は変わりない。純粋で無邪気で、憤りなど激しい負の感情が全く理解できず、何も望まず、与えられた小さなものをめいっぱい喜ぶ。それがだ。
その精神性は、他者からあまりに隔絶され、幽閉されていたため、人から与えられる幸せが少なすぎて、その少ない一部をかみしめることしか出来なかったからだ。サスケは優しいから、そんなを見ていると歯がゆくなるのだという。
でも、はだ。
「これからも時々、助けてもらえるか?」
綱手はの肩に手を置く。
「体調の良いときだけで良い。一週間に一度くらい上忍会に出てきて、見てくれるか?」
「もちろん!」
は紺色の瞳を輝かせて、綱手を見上げた。
「あぁ、おまえは素直で本当に可愛いな。」
綱手はを後ろから抱きしめる。
最近くせ者ばかりと関わり合っていたせいか、綱手は素直ながお気に入りだ。この間預かった頃辺りから、猫かわいがりしている。も最初は怖がっていたが、綱手には心を許し始めているようだ。この間も団子屋にを連れ出していた。
カカシとしても、綱手がをサスケから離したのは、良い判断だったのかも知れないと思っている。
とサスケは完全な共依存の状態にある。
とはいえ、の方が若干ましで、物理的に離れるのは平気だ。どちらかというと今、木の葉の里に慣れておらず、元々人嫌いだと言うこともあるから、不安なのだ。恋愛感情から、サスケから離れたくないとは思っているようだが、それもサスケがいつもが傍にいることを望むからで、別にサスケが容認すれば、彼女は臨機応変に対応するだろう。
だがサスケは精神的にはよりある意味弱く、ひとまずが傍にいないのが耐えられないようだった。それはを失いかけたトラウマもあるが、自己中心的な恋愛感情から来る独占欲も多分に含まれている。
サスケがを閉じ込めることは、から人との出会いや、色々知らなかったものに触れあうチャンスをを取り上げることになる。
「ちゃんと後で任務金の話し合いもするからな。」
綱手がに言うと、は目をぱちくりさせて、首を傾げる。カカシは思わずその仕草に笑ってしまった。
「にんむ、きん?」
「あ、、知らないんだな。任務をすると、お金がもらえるんだよ。」
「お金。」
はあまり自分でそもそも買い物をしたことがないし、両親の遺産をイタチがまとめてくれたものでたまに本を買うくらいだった。お金を稼いだことなんて、一度もない。
「でも、任務してないし、」
「姫、地形図も立派な任務の一つです。」
シカクが隣から低い声で言う。はきょとんとした丸い目でシカクを見たが、隣にいたゲンマに目を向けた。
「そりゃ、任務の一部ですから、もらえて当然っしょ。」
ゲンマもに同じ言葉を返す。
それでやっとも納得したのか、一つ頷いて綱手を見上げた。
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