はあまり人混みに出るのも、人と触れあうのも苦手だ。
人混みが苦手で、その珍しい色合いの紺色の瞳が人の好奇の目の対象になることをよく知っている。その目が怖いから、はいつも外に出るときは目立たないようにフードを被って俯く。それは幽閉時代のトラウマと、どうやらイタチに連れられて過ごした頃に人と触れあうことがほとんどなかったかららしい。
繊細な問題であるため、上忍会でもは別室に通され、あまり知り合い以外に会わないように配慮されているし、街へ出ることは絶対にない。それでも、ナルトは時々自分の友人をに会わせることによって、緩和しようとはしていた。
ただそれも基本的に長時間や一片に何人も来るのは駄目で、一人ずつ、短時間が原則だ。
「へぇ、君が姫か、」
サクラになれてきた頃、ナルトが一番に連れて行ったのはサイだった。
サイも元々あまり人付き合いが得意ではない上に、のように対人恐怖症を患っていると聞かされれば話す言葉にどうしても慎重になる。それでもナルトがここにを連れてきたのは、彼がの父と同じ暗部の出身で、の父の話を何度か聞いたことがあったからだ。
また、ナルトにとってサクラやサスケに次いで大切な友人である。
「は、じめまして、蒼、です。」
やはりあまり人に会うのは得意ではないのか、逃げ腰で隣のサスケの腕を掴みながらの自己紹介だった。
の習性を知るナルトとサクラは、思わず予想通りのの行動に吹き出してしまった。相変わらず人見知りは酷いらしい。
「一応初めての人と会うときは何か持っていった方が良いって書いてあったから、甘味を持って来たんだけど、大丈夫かな?」
「オレは嫌いだ。」
「嫌だな。サスケ君のためじゃなくて、姫のためだよ。」
サイは飾ることなく、悪気もなくけろりと言った。も流石に目を丸くしたし、サスケの眉間に皺が寄るが、サイは全く気づかないままににお菓子の箱を見せた。
「右からみたらし団子、きなこおはぎ、普通のおはぎ、よもぎ餅、桜餅、どれが良いかな?」
「この緑の食べたことない。」
「じゃあ、姫はよもぎ餅で良いかな。」
「わたしがもるわ。」
サクラがお皿を持って来て、箱から箸でよもぎ餅をとる。
「あたしはどれにしようかな。サスケ君はどうする?」
「どれでも良い。甘そうで無い物が良い。」
サスケは主張したが、愚答である。
甘味とはすなわち総じて甘いものであり、サスケの願いは叶いっこない。少なくともあんこが入っているのでどれも甘いだろうが、ましなのはよもぎ餅だろう。
「じゃ、サスケ君はよもぎ餅で。ナルトは?」
「俺はみたらし団子!」
そう言ってナルトは皿を持たずにその櫛を持って箱から団子を持っていった。
「よもぎ餅、食べたことがないの?」
サイはナルト達が団子をどれにするかを決めている間にに尋ねる。
「うん。あんまり、外出たことがなかったから。」
「そっか、実は僕もあまりダンゾウ様から出てはいけないと言われていてね、こんなふうにものを買ったり、友達と話したりする機会はあまりなかった。」
暗部としての任務が常に優先され、友人を作ることすらも許されなかった。
だから、が他人に対して戸惑う気持ちが、サイにはとてもよく分かる。人混み恐怖症まではよく分からないが、それでもどうやって接したら良いか分からないと戸惑うの気持ちをサイは理解できる。だから本を読んだりして勉強したものだ。もちろん的外れのことをして、皆を怒らせたこともある。
「無理はしない程度で、頑張ったら良いよ。」
焦ってもきっと、こういうことは駄目だ。もっと怖くなって、頑なになってしまう。だから、も不安になったりするだろうが、無理はしない方が良い。
「帰ってほしかったら、いつでも言ってくれて良いよ。その代わり、来て欲しい気分になったときは、呼んでくれたら良いから。」
曖昧な関係の方が、きっと彼女には楽だろうと思ってサイが言うと、は目を丸くしたが、ふわっと笑った。
「ありがとう。」
は少し落ち着いたのか、サスケの腕から手を離し、サクラからよもぎ餅の皿を受け取る。
「サイは優しいね。」
「そんなことねーってばよ。こいつすっげぇ酷いこと言うんだぜ。」
ナルトがの言葉に反論する。
「でも、ナルトの友達はみんな良い人だよ。」
はうん、と一つ頷いて口によもぎ餅を放り込む。少し小さめのよもぎ餅であるため、普通なら一口で食べられるが、は口が小さいのか、うまくかめずに口をもごもごさせた。
「お願いだから、喉に詰まらせるのだけはやめろよ。」
サスケはを呆れた目で見て言った。
実は、誤飲も多く、誤飲して入ったものが炎症を起こすと言ったこともあった。喉にある器官が弱っているのだろうという結論だったが、は他にも間接が非常に緩かったりと色々問題があった。もちろんそれは元々のものだろう。怪我故の物では無い。
元々あまり体の強い質ではない。
「ま、でも、サイとの相性は悪くなさそうだね。」
サクラは少し安堵したようにナルトに言う。
引っ越しの時、いのとは初めて会ったのだが、いのも緊張のあまりしゃべりすぎ、は完全にいのに怯えてしまい、サスケの側から全く離れず大変だったのだ。今のところあまりに話しすぎる人間が駄目だと言うことは分かっており、調整は大変だが大切だと再認識する。
「そういや、サイっての父ちゃんの写真、見たことあるって言ってたよな。」
ナルトが唐突に話をする。だが、それが今回サイをここに連れてきた理由の一つだ。
「俺も見たことあるってばよ。父ちゃんと同じエロ仙人の弟子で、めっちゃそっくりだった。」
「そうそう。でもすごい忍だったんだってね。風伯の斎。」
サイは自来也と違って個人的に斎を知るわけではないが、暗部での噂は聞いていた。
風遁では彼の右に出るものはおらず、蒼一族特有の様々な能力を保持していたという。もちろんそのうち、が受け継いだのは、彼の弟子だったイタチが知っていたほんの一部だろう。それでも、幼く死んでしまった父親と、の間にはイタチを通して繋がりがある。
「うちはイタチを庇って早くなくなってしまったけど、ダンゾウ様ですら一目置いていたみたいだったよ。」
「ふうん。わたし、あんまり父上は覚えていないから、初めて聞くかも。」
「まじで?そっか、今度写真とかねぇか、みんなに聞いてみるってばよ。」
上忍あたりなら、の父の写真を持っているかも知れない。
「でもさ、ってことは、墓とかあんじゃねぇの?」
「あるよ。なんかお墓の一杯あるところに、あるよ。」
は行ったことがあるのか、小首を傾げて言う。
「普通、著名人以外は墓ってのは単独で立っていることはないもんだ。」
サスケは呆れたようにに言ってからよもぎ餅を口に含み、眉を寄せた。どうやら相当甘かったらしい。
「…なんか、こー、火みたいななんかが立ってたよ。真ん中に。」
「あ。なる程ね。」
サクラは思い当たるところがあり、納得する。
殉職者が多く葬られる集団墓地のことだろう。中央に火のモニュメントがあり、英雄として戦いで命を落とした多くの人間がそこに葬られている。の父も戦いの中にイタチを庇って亡くなっているため、殉職者として葬られたのだ。
「でも、なんで木の葉の中にあるって知ってたの?」
は木の葉にいるときは幽閉されており、抜け忍のイタチと共にいたため、ほとんど木の葉にいなかったはずだ。
「一度、イタチが鬼鮫も一緒に木の葉に来たんだよね。その時に連れて行かれたの。」
としては墓なんてものが何の意味があるのか、よく分からない。分かったのは四角い石と、そこに父の骨が置いてあると言うだけだが、イタチは感慨深そうにそれを眺めていたから、彼にとっては非常に大切なものだったのだろう。
「今度ピクニックがてら、いこっか。」
ナルトが明るく笑って、「それも持って」と餅を示す。
「そうね。良いかもしれないわね。」
サクラも頷いてを見ると、外が好きなは嬉しそうに何度も頷いていた。
甘味と緩和