砂隠れの里長である我愛羅がに頼みがあるとやって来たのは上忍会から少したった頃だった。

 上忍会での決定はやはりサスケの暴言にもかかわらず、サスケを含めてを任務に出すと言うことだった。ナルトの話通り、まだの外部任務には慎重なため、任務自体はないが、他里の要人と会う時も、に関してはサスケが傍につくことになっていた。

 彼女が他里の人間に攫われる可能性があるからだ。

 もちろん我愛羅とは昔なじみであるため、ナルトとて本気で警戒しているわけではない。だが、一応、だ。




「これが、だってばよ!」




 元気にナルトは我愛羅にを紹介する。隣では綱手があまりにも緊張感のない紹介に頭を抱えていた。

 砂影との会合と言うこともあり、も少し小綺麗な着物を着ていたが、やはりフードがついているのは変わらない。肩までの紺色の髪も綺麗に梳かれ、着物も暗い色ではなく緋色だ。だが、緊張するのか、ナルトの隣で椅子に座って今にも逃げたそうにサスケの手を掴んでいた。

 だが元々会合と言ってもナルトと我愛羅は昔なじみで、正直お互いの顔合わせのような、ただナルトが新しい友達を我愛羅に紹介したかっただけの会合のようになってしまっていた。

 サスケはの様子にため息をつく。人見知りは全く治っていないらしい。




「…そうか。」




 いかにも気弱そうなに、我愛羅は少し驚いた顔をして頷く。

 我愛羅がを見たのは、本当に一回きりだ。サスケと戦った時に、を一瞬見ただけ。戦いの合間であるため、性格まで分かるはずもない。おそらく、想像していた性格とあまりにかけ離れていたからだろう。

 我愛羅の護衛についてきている兄のカンクロウと姉のテマリが眉を寄せてまず、サスケを睨み付けて、次にを見た。は椅子に座っている。サスケへの不満は置いておいても、常識として、普通要人と会うのに一人だけ椅子に座っていると言うことはあり得ないことだからだ。

 その視線を感じては肩をふるわせたが、慌ててナルトが説明をする。




「違うんだってばよ!は、その、今歩けないんだってばよ。」

「歩けない?」





 テマリは訝しんで我愛羅を見る。





「歩けない、とはどういうことだ?」

「戦いの時に大けがして、足の神経がその、キレちまってるんだ。」




 ナルトが困ったような顔で言うと、我愛羅も納得したらしい。1つ頷いて、彼はの前に立って身をかがめた。





「義足などは、出来ないのか?」

「足は切断してない。神経が切れちまってるだけで、痛覚はあるらしいんだ。」




 サクラの話は難しくてナルトにもよく分からなかったし、本人もよく分かっていないだろう。だが、歩くことは二度と出来ないだろうということは、理解していた。




「ひとまず、よく来られた。」






 綱手は穏やかに我愛羅達にそう言ってから、の肩を叩く。






「彼女が捜索者、だ。」






 わざと能力をぼかすために、綱手はそう紹介した。






「そうか、透先眼の噂は俺も聞いている。俺は我愛羅だ。砂影、だな。」






 透先眼を持っていたの父親の名前は他国にも知れ渡っている。その最終血統であるが木の葉に保護されたと聞けば、その有益な能力と共に会いたいと思うのは誰でもかも知れない。また、予言の一族と言われていたため、その予言を聞きたがる人間もいる。





「こんにちは。です。」





 簡単な挨拶には僅かに目を見張ったが、我愛羅に握手を求められ、慌てて手を重ねる。その手はより少し大きく分厚かったが乾いていた。

 皆の視線が自分に集まるのを感じて、は居心地が悪くなってフードを被って俯く。

 あまり良いことでは無いとナルトやサクラからも言われていたが、は人の目が怖かった。この場には多くの忍が護衛のためにいるし、我愛羅の兄姉もいる。彼らがサスケと共にいる自分に向ける目は好奇と怯えであり、それはが恐れるものそれそのものだった。

 サスケがを宥めるように軽く背中を叩く。ナルトもの様子を気にしながら、我愛羅に目を向けた。





「おまえ、人が怖いのか。」 




 我愛羅はの前に膝をついたまま、の顔をのぞき込むが、フードで隠されている彼女の表情までは窺えない。

 が幽閉されていたことも、皆が知っている。

 もちろんこうして個人的に会うのは初めてだが、戦いの中の強い姿とは裏腹にはあまりに弱そうだった。体も弱そうだが、気も弱そうだ。あれほどの強さを持つのだから、性格も強いと勝手に思っていたのだ。




「おまえは里を憎んでいないのか。」




 我愛羅が問うと、は首を縦に振った。




「うん。にくいは、分からない。」

「嫌い、と言い換えても良いかも知れない。なら、おまえは自分が嫌いか。」




 里が憎くないなら、自分が憎いのではないかと、我愛羅は問う。ははっと気づかされたように顔を上げた。

 その通りだった。

 は自分が嫌いだ。自分の力が、イタチを助けられなかった自分が大嫌いだ。だから自分を根本的に大切に出来ない。人の役に立ちたいとそればかりを心の中に描く。彼女は誰からも求められなかったからこそ、自分が嫌いなのだ。自分を認められない。

 ナルトや我愛羅と、は本質的に似ている。

 だが彼女は一度も世界を憎んだことはない。ただ、自分が憎いのだ。その点では同じである。





「俺たちは、変わることに決めた。だから、ゆっくり傷を癒やすと良い。」





 こういう問題が、簡単なことではないと我愛羅自身も知っている。

 だがこれから穏やかに続く日々と、人と関わる生活が、徐々にでも彼女を癒やしてくれるだろう。そうであって欲しいと、我愛羅は願っている。




「もし砂に来て見たいと思ったら、連絡をくれ。風影の名で歓迎しよう。」





 そう言って立ち上がり、彼はの頭をぽんと撫でた。

 一人の身の安全を確約できないほど、我愛羅は未熟でもない。それが彼女の心を僅かでも癒やすならば、それに越したことはないと思っていた。自分を救ってくれた彼のように自分も、そういう優しい言葉と覚悟を示してやれれば良いと思う。







自分を憎む貴方へ
<