「さて、本題だ。」
我愛羅は、一枚の書類をに渡す。
そこには4,5人の個人情報が書かれていた。生年月日、職歴、能力。そしてどこの隠れ里出身なのかなど詳細な情報だ。
「砂隠れ出身の大犯罪者フカデの行方を追いたい。」
我愛羅は冷静に言って、が持っている書類の一枚目の写真を指し示す。一枚の紙の表紙についているのは、誰かの写真だった。鮮やかな金髪の男で、年の頃は30歳前半か、20代後半。顔は良いと言えるだろう。
は当然知らない顔だったが、サスケが軽く舌打ちをした。
「そうだ。暁の残党に当たる。」
我愛羅はサスケの態度に納得して、をまっすぐと見た。
「こいつを捜してほしい。また、残党の件は大きな問題だ。各国へと協力を依頼している。」
「要するに木の葉も協力しろってことか。」
サスケは薄笑いを浮かべて言い返し、あっさりと我愛羅の意図を理解した。やっと話の筋が見えてきたらしく、ナルトは大きく「あー」と声を上げて、賛意を唱えようとした。
「OK,俺も手伝…」
「おまえは馬鹿か。」
サスケがナルトをばっさりと切り捨てる。あまりの素早さにものを言おうとしていた綱手もびっくりした。
「ば、馬鹿ってなんだってばよ!」
「馬鹿だから馬鹿だって言ってるんだ。脳みそ空っぽの所はちっとも変わってない。」
書類を改めてみれば、暁の他の残党の調査結果も明示されていた。サスケはそれを確認してから、ナルトにもう一度向き直る。
「馬鹿に話すのは本当に疲れる…。」
「どういう意味だってばよ。」
「そのままだ。」
サスケは頭の中で簡単な言葉を組み立てていく。があまり語彙量の多い方ではないのでこういうことは慣れた。
「なんでオレたちが協力をしてやる必要がある。」
「え?だって、残党が残ってるんだろ?」
「だとしてもなんの見返りもなくの能力を明るみにして、慈善事業でもするつもりか?」
「ど、どういうことだってばよ?」
ナルトは納得しきれないのか、はてなを頭の上にいくつも浮かべている。以上に理解力も悪い。サスケは深い深いため息をついて、書類をナルトに見せた。
「良いか?要するに砂隠れの情報機関では調べられないってことだ。頼みの綱は木の葉の情報部と、だけ。」
「そりゃってば、すごい能力だから。」
「確かにそうだ。で、それをなんの見返りもなく出す理由が、あるのか?」
もしもの透先眼でその犯罪者を捜すとするならば、の能力がどういったものなのかを砂隠れもある程度予測するだろう。他里にそう言った能力が広まり、の存在が明るみに出れば、ますますは危険にさらされる。そして、木の葉だって不利になる。秘密の能力は多ければ多い方が良いのだ。
ナルトは未だによく分からないという顔をしていたが、代わりにサスケは我愛羅に向き直る。
「もしも、その犯罪者を追いかけてほしいなら、それ相応のものを用意しろ。作戦の立案はすべてこっちがする。捕縛も含めてだ。」
「なんだと?」
テマリとカンクロウがあまりに礼を欠いたサスケの態度と言葉に苛立ちを示す。だがサスケとしては何も怖くない。
「こっちとしても、の能力がばれるのは困る。」
作戦の立案、捕縛まですべて木の葉がするのならば、の能力が漏れることはない。だが、居場所や情景だけを砂隠れに渡すならば、そこからの能力を予測することも可能だ。そう言った危険をサスケは出来るだけ避けたかった。
我愛羅は静かにサスケを見ていたが、ふとの方に目を向ける。
「と言ったな。おまえは、どう思う。」
唐突に話を振られたは書類から顔を上げる。
「う、うーん。わたし、は、難しいことは、よくわからないけど、サスケが言うんなら、わたしにとって、良くないのかも…。」
やはり話の内容はよく分からないらしい。ナルト以上に語彙量は低いだ。仕方ないのかも知れない。
「でも、それは貴方も、困るよね…。それに、他の国も困ってて、木の葉が協力しないといけないなら、わたしが、行かないのも、困るよね。」
はサスケの顔を見てから、今度は綱手の方を確認した。
「…木の葉で行われる予定の五影の会合。その時に議題にされるはずだ。」
暁の残党を疎ましく思っているのは、どこの国も一緒だ。和解した今、五影は犯罪者の取り締まりなどにお互い情報を分け合っていた。来月五影会議はそれの強化、共同作戦のための会合であった。
「その席でも提言するが、フカデは重要参考人であり、フカデだけは捕らえておきたい…。」
我愛羅は真剣な面持ちでに告げる。は我愛羅の顔をじっと見てから、綱手の方を見上げた。
「わからないから、どうしたら、良いですか?」
「…そうだな。」
意見を求められた綱手は顎に手を当てる。
サスケの言うことはもっともだ、の能力を根本的に隠すことは必要だ。
の能力の発動は瞳が水色に変わるだけで、外観的な影響はない。ただ作戦立案の上で能力がある程度ばれる可能性はある。だが、砂隠れは既にある程度の透先眼能力を知っている。と言うのも、もう数十年前になるが、の父親である斎を貸し出したことがあるからだ。
基本的な部分が既にばれているのならば、特殊能力だけがばれないように気を遣えばいい。
「遠くが見えるという点に関しては、すでに多くの里が知っていることだ。そこから逸脱しない限り、能力が判明することは問題ない。」
綱手はそう結論づけて、サスケを見る。
「見る、か?」
「あぁ、の能力に関しては、おまえの方が良く知っているだろう。」
おそらく、は能力の分析など当たり前のことを知らない。自分の能力が明確にどういった意味を持つのか、分かっていないだろう。
だが、サスケの口ぶりからして、サスケは分かっている。
そう判断した綱手はサスケに尋ねる。
「改めて聞こう。合同捜索は可能か。判断はおまえに委ねよう。もそれで良いな。」
綱手が確認すると、は綱手に大きく頷いて見せた。
サスケは渋い顔で目を伏せ、眉間に皺を寄せたが、不機嫌そうな顔で顎を引く。
「可能だ。その人物を捜し出すだけならば。ただし、顔写真と、ある程度どこにいるかの目星は必要だ。どこの国か、都市か、くらいはな。」
それが出来ていないなら不可能だ、とサスケは繰り返した。
ただ視るだけならにとって容易だが、それも効果範囲が定められている。視る以上の精度を求める時、の能力は代償が必要になる。例えば周囲の音を聞くためにはには目の前の状況がまったく見えなくなる。耳が聞こえなくなったり、より多くのチャクラ、集中が必要となってくる。そう言ったリスクは隠しておくに超えたことはない。
サスケが我愛羅を一瞥すると、我愛羅は書類を出してきた。
力を求め求められる