初めて人を殺した感覚は未だに手に残っているようで、は小さくため息をついた。
罪悪感を忘れたくなくて、刀で刺したのがいけなかったのだろう。まだあの生々しい感覚と肉を刺した時の柔らかくも硬い、何とも言えない感触が手に残っていて、酷く不安だ。
「お嬢、サスケが呼んでるよ。」
水月がやってきて、に告げる。
サスケの目の手術は昨日終わったばかりで、まだ彼の目は見える状態ではない。しかし、ここはトビがいるような場所で、警戒する必要もないだろう。
五影会談から達も帰ったばかりで、まだ回復していない。水月、重吾共に酷い怪我で、それはサスケも一緒だった。は上層部を1人殺したが、幸い水月や重吾、そしてサスケが五影相手にと大立ち回りを演じてくれたおかげで、スムーズに事が運べたと言ったものだ。
精神的な気分もあるので出来れば部屋で休みたかったが、サスケに呼ばれたのであれば仕方がない。
「大変だね。君も。休憩も出来ない。」
水月は肩を竦めてに言う。
昨晩目の手術が終わってから、サスケはを片時も傍から離さなかった。先ほどサスケが眠ったので大丈夫だと思って出たのだが、すぐに目を覚ましてしまったらしい。
「お互い様じゃないかな。」
は小さく笑って水月に言うと、彼も「まったくだよ。」と疲れた顔で答えた。大怪我ながら呼びに来させられた水月もまた気の毒である。だるそうに水月は近くの壁にもたれて座り込んだ。
はそれを見て、いつも隣にいた香燐を思い出し、目尻を下げた。透先眼で香燐ごと、ダンゾウを殺そうとしたサスケの姿は見ている。
「いざとなったら、サスケを捨てるんだよ。」
は真剣な顔で、水月を見下ろして言う。すると水月は青い瞳を本当に丸くしてを映した。
「過激なこと言うね?」
「サスケは貴方の命をどうとも思わないと、思うよ。もう。」
それが香燐の一件でよく分かった。
彼にとって一番重要なのは復讐であり、仲間の命など二の次だと思っているのだろう。僅かなりともの言葉には耳を傾けるかも知れないが、水月達に可能性はないだろう。
「道連れになるのは、わたしひとりで十分だよ。」
は柔らかく笑って、窓から見える月を見上げる。
「ま、ボクもサスケと今のところは一緒にいるよ。」
水月は座り込んだまま力なく笑って、同じように窓の外を見上げた。
今日は毒々しいほどの大きな満月で、多少雲もかかっているが、美しい月夜だ。この辺りは電灯も全くないので、明かりは月しか差し込まない。とはいえ、サスケはこの光を今捕らえることは出来ないだろうが。
「、サスケが呼んでいる。」
数分もしないうちに、今度は重吾がの所にやってきて、先ほどの水月と同じことを言う。
「ほらね。」
水月は呆れた顔でを見る。
「サスケ、怒ってる?」
は思わず、重吾に尋ねた。
「かなり不機嫌だぞ。を呼べと叫んでいた。」
「そっか、お話してる場合じゃなかったね。」
水月と話していて、サスケが呼んでいることを忘れていたのだ。は仕方なく水月と重吾に手を振って、サスケの元へと向かう。
「ぐっどらーっく!」
水月がの背中に無責任な声をかけた。
がいた上の部屋とは違い、サスケが今いる部屋は地下にあり、それなりに警備もいる。もちろんに何か言うことはなく、そのまま通してくれた。
イタチの目を移植した後、しばらくは絶対安静が必要とされる。
昨日移植を済ませたばかりなので、まだ彼の目は見える状態ではなく、今襲われればひとたまりもないので警備が厳しいのも地下なのも仕方がないが、地下は湿っており、気が滅入る。だから息抜きにと上に上がったのだが、サスケに呼び出されたのなら、行くしかない。
大怪我で酷い状態の重吾と水月に相手を強いるのも可哀想だろう。
「どこにいた。」
サスケはが入ってくるとすぐに気配で分かったのか、鋭い声音で問う。
寝台の上にいるサスケの目には包帯が巻かれている。見える上半身も数日前の戦闘での傷が酷く、包帯まみれだ。
「うん。ちょっと上にいたの。ごめんね。」
はサスケの寝台の上に座って、そっとサスケの額の髪に手を入れる。すると、縋るようにサスケの腕がを抱きしめた。
強い力に彼の傷が痛むだろうと驚きながらも、薬品の匂いのする肩には頬を寄せる。
「人を、殺したのか?」
サスケは低い声で、悲しそうに尋ねた。
「うん。」
これでめでたく人殺しの仲間入りである。とはいえ、は一度、白炎の暴走で女性を一人殺しているため、自分の意志で殺したのは初めてだというのが妥当かも知れない。
後悔はしていないが、それでも不快感は消えない。
「おまえは、終わったのか。」
サスケが酷く戸惑ったような弱々しい声で、不安そうに言う。
上層部を殺すことが出来て、おそらく不知火への手は緩むだろう。の目的は果たしたことになる。サスケは、目的を果たしたが自分と一緒にいるかどうかが不安だったのだ。だから、水月や重吾に当たり散らしても側に置いておきたいと思った。
自分が今、目が見えないことも、彼の不安を煽る一因なのだろう。
「終わってないよ。サスケの終わりがわたしの終わりだよ。」
は傷だらけのサスケの背中を抱きかえし、優しく撫でる。
するとサスケの手がするりと器用にの着物の中に入ってきて、襟を緩め、の首筋に口づけて、軽く耳をはんだ。
「さ、さすけ、怪我…」
香燐のおかげで少し回復したとは言え、肋骨が折れていたり、胸に酷い怪我をしている。怪我を悪化させては困ると思ったが、サスケはの手を掴んで自分の膝を跨がせた。
は堪えきれず、震える手をサスケの背中に回す。
「わ、わたし、」
この手で、人を殺してしまったと、言おうとして、かみつくようにサスケに口づけられて言葉を阻まれた。
帯を解くことすらせず、彼はの裾と襟元をはだけさせ、裾から太ももを沿って性急にの肌を滑り、指がの中をほぐしていく。
「いっ、」
濡れていないため、引き連れた中が痛みを発するが、お互いに止まることは出来そうになかった。
互いに何に追われているのか分からないが、恐怖を感じてる。それを忘れたくてたまらない。多分自分たちは戻れないところまで来てしまった。それがお互いに理解できているからこそ、お互いに意外に頼る物も無く、互いに縋り付いているのだ。
「う、ひっ、」
サスケはぬれが悪いため自分の指をなめてから、の中へと入れてぐっと中を押す。痛みは強かったし、濡れていないため異物感も酷いが、それでもぐっと陰核を押されれば、なんとか入る程度には濡れてくる。中をあまりきちんとほぐさず、そんな時間すらも惜しくて、サスケがぐいっとの太ももを掴んで、自分の方へと体を引き寄せた。
サスケのものが自分の陰部にひたりと突きつけられる。
一瞬だけ理性が戻ってきて、今このまま入れれば痛いだろうと頭の片隅で思ったが、目の前のサスケを見ればそんな気も失せた。泣きたい、もう嫌だと、この血にまみれた手が切り落としたいほどに気持ち悪いと泣き叫びたい。
しかしそんな理性が疎ましくて、はサスケの首に手を回し、縋り付く。
「ひっ、ぅ、」
自分からゆっくりと腰を下ろせば、慣らされていない体が悲鳴を上げながらも、自分の重みで無理矢理サスケを飲み込んでいく。
痛い、痛くて苦しくて、何度も息を吐くが、何かを考えるくらいなら、痛い方が良い。行為に溺れてしまえば何も考えずに済む。サスケも苦しいのか、大きく一度熱い息を吐き、の腰に手をあてて自分を飲み込ませるべく、軽く揺さぶる。
今はお互いに、不安を消す方法をこれしか知らなかった。
悲しみを積み重ねる