憎しみとはなんぞや、どういった感情なのか





「ぁ、ん、」





 熱に浮かされるがままに、自分の上にいる男を見上げる。

 よりも二つも年下の男が、自分の体を蹂躙しているのが酷く不思議で、熱に浮かされて重い瞼を上げて彼を見上げる。ぽたりと伝った汗がサスケの肌から落ちてきて、雫になって、の肌に着地し、とけていく。





「あ、ぁ、」





 奥をぐっと押されて、はびくりと体を痙攣させ、彼のものを思い切り締め付ける。生々しい感触がの体を煽り、無理矢理一番高いところまで押し上げた。いつまでたってもこの感覚が気持ちが良いのに怖くて、ぎゅっと彼の手を握ると彼も限界だったのだろう。小さなうめき声を上げて達した。




「…あつ、いな。」





 荒れた息を落ち着けるために大きく深呼吸をしてから、サスケは深呼吸と共に言葉を吐き出した。




「…う、うん、ちょ…っとね。」





 は熱に強い方だが、流石にこれだけ長い間行為をすれば、流石に熱が頭にまわってしまう。まともに走るよりもずっと短時間で体力を消耗する気がするのは、だけではないはずだ。

 それでも、気持ちが良いのとお互いに縋り、現実を忘れる方法の一つとして、とサスケはよくこの行為にふけっていた。サスケとサスケが木の葉への復讐を決めて、上層部を殺めてからなおさらお互いに不安定で、暇さえあれば現実を忘れるために体を重ねるようになった。


 現実逃避の手段としてこの行為にふけるなど、イタチが聞いたら怒るだろう。

 しかし既に亡き彼を思うことは、復讐という感情以外ではサスケにはないのかも知れない。

 サスケは手早く寝間着である浴衣を纏い、小さく息を吐く。

 行為の後は酷い倦怠感と、馬鹿みたいな後悔が襲う。何故、本来なら愛情を伝え合うこの行為で現実逃避をしているのだろうと思う反面、疲れから眠気が襲い、ぐっすりと眠れるのだ。


 しかし何故か今日は、目がさえているのか、サスケはまだ眠る気にはなれなかった。

 は少し疲れをやり過ごせたのか、緩慢な動きで身を起こし、寝間着の襦袢がどこにあるのかと探る。どうやら襦袢はすぐに見つかったようだが、腰紐が見つからないらしい。は探そうと襦袢を羽織ったまま立ち上がろうとしたが、裾を膝に巻き込み前向きにこけた。





「…」





 鈍くさすぎる。

 はもう起き上がる気力がないのか、疲れてぐったりしており、もう紐を探すのを諦めたらしい。





「悪い、無理をさせたな。」






 サスケも疲れていたが、の体を起こしてやり、上布団と敷き布団の間に挟まっていた紐を手に取り、の襟元を整えてから紐を緩く締めてやった。これで眠っても乱れることはないだろう。





「う、ん。」





 は小さく頷いて、体を横たえる。サスケもと向き合うようにして横になった。

 の瞳は疲れと倦怠感からぼんやりとしていたが、サスケの目はさえている。を抱き寄せると、も拒みはしなかった。 

 息をすれば分かるほど近くで向き合い、の伏せられている長い紺色の睫が瞬くのを眺めながら、上布団を引っ張って寒くないようににかけてやる。どうせ熱が冷めれば寒いと言い出すに違いない。





「眠たいか?」





 サスケは上布団の上からぽんとの体を叩く。





「少し。なんか今日は、目がさえてるの。」





 いつもは行為の後すぐに寝入ってしまうが、今日はサスケと同じで目がさえているらしい。サスケはの額に口づけてから「そうか、」と短く返した。

 時計がないからどれくらいの時間行為にふけっていたのかはわからないが、今日は短かったのかも知れない。

 辺りは既に暗い。電気もつけていないので、お互いの顔は闇の中でしか分からない。の紺色の髪も漆黒にしか見えない。それでも重なる体の温もりは全く変わらず、の存在を確かにサスケに伝える。







は、憎いって感情がわからないのか?」







 サスケはの紺色の髪に指を絡めながら、問いかける。

 カカシに、は憎しみがどんな感情なのか分からないと口にしていた。あの言葉の真意が問いたくて尋ねると、はサスケを見上げて睫を揺らした。





「ごめんね。わたし、幽閉されてる時、気持ちも分からなかったから、希薄なんだと思う。」






 は木の葉に幽閉されている時、全くと言って良いほど人と関わらなかった。

 関わったのはイタチと何人かの上忍くらいで、様々な感情を教えてくれたのは、イタチだった。嬉しいや、悲しい、彼が来なくて寂しいと言った感情は、彼から教えてもらったものだ。人として当然の感情すらも人と触れあわなかったには分からなかったのだ。





「イタチにも昔言われたけど、わたし激しい感情って、ないのかも知れない。」





 誰かを害するような、強い感情をは持ったことがない。

 イタチが与えてくれたのは、嬉しいや悲しい、寂しいと言った感情ばかりだった。イタチはが強烈な怒りを覚えるような行動をしたことはない。負の感情でが知るのは、悲しさと寂しさ、そして喪失感だけだ。

 怒りという感情が、には酷く希薄だった。





「怒るが、わからないの。教えられたこともないし。」

「仮にオレがおまえを無理矢理抱いたら、怒るか?」

「…それは、怖いでしょ?」






 が尋ねると、サスケは戸惑った表情をした。







「なら、オレがおまえに無理矢理おまえが嫌がることをさせたらどうだ?」

「それは悲しいじゃないの?」







 には、本当に“怒り”という感情がないのだ。だからこそイタチが死んでも、木の葉が自分の一族を滅ぼしても、復讐など考えずただ悲しみを示すのだ。怒りという感情がないから、彼女は人を憎めない。





「サスケは、沢山“憎い”よね。」





 は紺色の無垢な瞳でサスケを見上げる。サスケはそっとの目元をなぞり、頬を撫でる。




「オレは怒りと憎しみが大きい。里に対しても、全部に対してだ。」





 声が震えるほどの怒りと憎しみ、憤りを感じる。だから、今こうして復讐を願っている。




「きっと、サスケはわたしに足りないものを、持ってるんだね。」






 は自分の頬を撫でるサスケの手に自分の手を重ねた。





「そうかもしれないな。だから、オレとおまえは一緒にいるのか。」

「そうだね。だからサスケはわたしを満たせるんだよ。」





 正反対だというのは悪いことではない。

 それはには理解できない感情かも知れないけれど、は今こうしてサスケと一緒にいる。歩む道もきっと同じだ。木の葉隠れの里が滅びても、トビの月の目計画が成功したとしても、自分たちが道でのたれ死のうとも、どちらにしても二人の終わりなど、たかが知れている。

 ろくでもない終わりを迎えることになるのは、サスケでも分かった。も分かっているだろう。

 だとしても、二人なら恐怖や不安も分かち合える。





「寝よう。」






 はサスケの背中に手を回す。

 きっと明日はまた辛い日々だろう。現実から逃れたい時もある。それでもお互いに共に歩き続けられるなら、前だけを見て歩を進めることが出来るだろう。






憎しみのありか