雷影であるエーとが改めて顔を合わせたのは、彼が五影会談の時にうちは邸を訪れたからだった。





「一度会いたいと思っとった。」





 どさっとがいる座布団の前に音を立てて座った彼は、ちらりと同じ部屋で庭を見るふりをしながら障子にもたれかかり、エーを監視しているうちはサスケを見やった。





「おまえも座れ。襲う気はない。」





 エーはぎりろとサスケを睨む。




「結構だ。」




 サスケは冷たく言い捨てて、また庭に目をやった。

 エーの腕を奪ったのはサスケの天照である。また五影と大立ち回りを演じた末にダンゾウを殺していることもあり、エーがに面会を求めたのはサスケにとっては青天の霹靂、良い迷惑だった。ましてや今はほとんどチャクラが使えない、希少な目を持つだけの少女で、サスケは雷影であるエー相手では彼女を守りきれない可能性を考えて全く歓迎していなかった。

 ただ一応ナルトも同席しているので、本気で攻撃するとは思っていない。現在里同士は協力関係にあるのだ。暁の残党は未だにはびこっており、それを一掃することが今の最大の共同目標である。しばらくはこの協力関係は続くと思われた。





「前会った時はすいませんでした。」





 はぺこっと頭を下げて、エーに言う。

 彼はサスケが恨んだ人間ではないが、それでも自分の復讐を邪魔するからとサスケは彼を攻撃したし、それはも同じだった。ずっと申し訳ないと思っていたのは本当だ。

 が言うと、エーは随分驚いた顔をしてをまじまじと見た。






「おまえ、普通に会うと何もないな。」






 エーはについて、戦いの中でしか見ていない。

 がトビからの攻撃のほとんどから、五影を庇った。恐ろしいほどのトビの力にも対抗しうる力と才能。戦闘経験が足りないことが垣間見えるというのに、彼女の才能とチャクラの量はトビの攻撃を耐え、彼に五影は死んだとだますに十分足りた。

 また、尾獣の攻撃から簡単にナルトやサスケを守った。

 だが今エーの目の前にいるのは、少し珍しい髪の色をした、ただの病弱そうな細い少女だ。彼女を恐れて木の葉は長らく彼女を幽閉していたという事実を、戦いの中ではエーも納得したが、目の前に彼女がいると信じられない。 

 本当にただの普通の少女だ。





「めんこいな。だが父親にそっくりだ。」






 エーが口にしたのは、そんな言葉だった。






「父上を、知ってるん、ですか?」

「あぁ、あやつは俺を唯一捕らえた男だ。だからおまえに会ってみたかった。あいつは恐ろしく強かった!」







 そういうエーの目は、子どものように輝いている。それを眺めながら、は小首を傾げた。

 父が亡くなったのはが三つになる頃で、ほとんど覚えていない。教え子だったイタチは良くに父の話しをしてくれたが、どちらかというと話しているイタチの方が楽しそうだったので、よく聞いていた。それはエーも同じで、楽しそうだ。





「またユーモアのセンスのある阿呆でな。天然で敵ながらあっぱれな奴だった。」

「あっぱれ?」

「すごいってことだ。」





 サスケが言葉の分からないに横から言う。






「すごいはあっぱれ。」






 は幽閉されていて教育を受けていないので、語彙量が少ない。それに気づいたのか、エーは目尻を下げて複雑そうな顔をした。の罪が情状酌量の余地ありとしてどうして許されたのか彼も承知しているのだろう。

 元々エーは人情に厚いタイプだ。自分が認めた相手の娘であるところから、思う所もある。



 今回の五影会談での恩赦と保護、彼女の自由が取り決められた。

 彼女が五影を庇ったこと、トビに戦いを宣言したことは誰もが知る事実だ。そしてそれ故に足を失い、片目も失った。しかし同時に彼女は五影会議に出てきていた木の葉の里の上層部を二人殺している。彼女は罪から目を背けることもなく、罰するなら罰してくれと言う姿勢を崩さなかった。

 サスケはを利用したと言ったが、彼女が透先眼を持っていること、またトビと互角に戦うほどの血継限界を持っていることから、ある程度選択の余地はあった可能性が高い。また彼女自身も上層部を殺したのは自分の意志だと言っていた。

 それでもの恩赦があっさりと取り決められたのは、全く教育も与えられず幽閉されていたからだ。

 力を使い、力を恐れ、それでもいつか必要になったときのカードとして閉じ込めた。結果一人の少女の人生を狂わせたと同時に、将来への可能性のすべてをも奪った。彼女にはイタチに攫われなければどんな未来もなかっただろう。

 反対に彼女を外に出し、普通にアカデミーに通わせれば、彼女は人柱力と同じように人から認められるチャンスを与えられたはずだ。それすらも奪った里には、大きな罪がある。






「おまえは、世界が憎いか。」







 エーはに面と向かって尋ねた。

 人柱力以上の酷い扱いを、彼女は受けてきた。サスケが木の葉に対して激しい憎しみを向ける以上の憎しみを彼女が里や五影に向けても仕方はないのだ。実際我愛羅自身も、世界を憎んだことがあると聞いていた。





「うぅん。」





 は柔らかに笑って、エーに言う。





「憎いはわからないし、いっぱい悲しいことはあるけど、同じくらい沢山嬉しいことや幸せなことがあるから。」





 柔らかな陽光のようにふわりと笑うに、エーはぐっと膝の上に置いた手を握りしめた。

郷愁に浸りたくなる時がある