「蒼が人格的にも全く問題無いことは確認した。よっておまえに五影から恩赦を与える。」
雷影であるエーは五影会談の後ににもう一度会いに来て、そう言った。
木の葉においては既に恩赦をもらっているため、これで五大国のどの国にもが行けることになる。またそれは他の国がを狙わないという意思の確認でもあった。の力は簡単に争いの元になる程希少で、その身や細胞だけでも十分に価値がある。
だからこそ、綱手は木の葉だけでなく他の国にもの恩赦だけでなく安全と自由の補償を求めていたのだ。
それはが炎一族の最終血統であることにも由来する。あの一族の宗家の恐ろしさは五大国皆が知っていることだが、だからこそ綱手はその情報を五影にだけは提示し、本人を見てもらった上で安全と保護を求めたのだ。
「の一族はあたしの血縁だ。文句は言わさん。」
綱手もそう言って、の肩をとんと叩く。
の父方である蒼一族は二代目火影の一族であると同時に、綱手の母にも由来する一族だ。綱手は五影会談でもが自分の親族であることを強く押していた。綱手もには個人的に思う所があり、肩入れは当然のことでもあった。
「…大丈夫か?。」
サスケは心配そうにの顔をのぞき込む。
ここ数日五影が会いに来たり、に興味を持った他里のナルトの友人が遊びに来たりと、連日人に会っている。人見知りで対人恐怖症の気があるにとっては辛いかも知れないとサスケが思いやるが、は首を横に振った。
「雷影様は、平気かも。なんか、すっきりしてるし、わたしにあんまり怖いって思ったりしてないから。」
は基本的に自分を恐れたり、好奇の目を向ける人間に怯える。
そういう意味では雷影であるエーは確固とした強さがある人物で、当然だがを恐れるはずもない。が莫大なチャクラを持つ尾獣と近しい化け物だと知っているものはどうしてもを恐れる。またとサスケの関係を知っていても、それが過去の辛さと共にあるものであることも知っているため、好奇の目を向けることもない。
「だが、一つ条件がある。」
雷影はじっとの目を見ていたが、その目尻が僅かに下がり、困ったような表情を作る。は首を傾げたが、彼はゆっくりと口を開いた。
「おまえに異論がなければ綱手の養女としてそこのに正式に嫁いでもらう。」
ぴっと雷影は親指で後ろに控えているサスケを示した。
「なに?」
サスケの方が先に意味を把握し、目を丸くする。
「このままうちは一族を放って置くわけにはいかん。おまえは千手の一族として、サスケに嫁いでもらう。」
の存在は里の中でも極秘扱いで、上層部を殺したこともほとんど知られていない。多くの忍が知っているのはただ、が里の忍や五影を庇ったことだけだ。罪についても知っているのは上忍会の上だけだ。彼女の性格からして、誰も彼女が上層部を二人も殺したとは思わないだろうし、これからもだろう。
ならば彼女が蒼一族の血筋を明かし、大々的に綱手の血縁であることを宣言した上でサスケに嫁ぐことは大きな意味がある。
「その上で、子どもを作るならそれで良い。作らんなら、うちははおまえが持つ炎、蒼の血とともにこれで終わりだ。」
エーは結局とサスケが思いあっているという事実を利用することにした。
がいる限り、サスケは以外の女と子どもを作ろうとは思わないだろう。
が既に子どもを作れるような体力も残っておらず、身体機能も低下しているとエーも既に承知している。彼女が子どもを望めるとしても、おそらくそれは将来的な話で今ではないし、回復しない可能性も高い。
子どもが生まれなければうちは一族はここで終わりだ。子どもがいたとしてもそれは木の葉の子、強いては千手の一族の一部として育てられる。決して悪い話ではなかった。
「…また、引き取るも良い。」
エーが付け足した言葉に、は目を丸くして彼を見る。
「暁の残党から聞き出しとる。おまえ、少なくとも一人、子供がいるな。」
幽閉されていたがイタチに攫われたことを五影は既に知っている。また暁の残党の情報と言うことは、がイタチに恋人として囲われていたこと、またその時期に子どもを授かっていたことを彼は知っているのだ。
彼は子どもの父親がサスケではない−うちはイタチだったことを承知している。
「生きていない、わけではないんだろ?」
その言葉から、エーは子供がどこにいるかは知らないようだった。が子どもを思って俯くと、ぽんと彼はの頭にその大きな手を乗せた。
「おまえはもう自由だ。嫌ならそいつとの結婚も拒否って構わん。他の方法を考える。」
エーはサスケをぎろっと鋭く睨んで、を見下ろす。
「難しいかも知れんが、おまえが、選択していくことだ。」
は今までほとんど選択権を与えられなかった。
その選択のすべてを彼女の力が、里が、そして忍の世界自体が奪っていた。だからこそ、五影はに沢山の選択肢を与えることにした。今まで奪ってきた分も、すべて。
選択をしたことのないは戸惑うことも多いだろう。だが考える時間も、与えたいと思う。
「今度あたしらは温泉に行くことになってな。短冊街だ。」
「…おんせん?」
「自然にお湯が出るところだ。お湯に体を良くするものが入ってる。」
サスケがまたの語彙を補う。
「おまえも行かんか?もしかすると体も少し楽になるかも知れん。」
温泉の効能は綱手も十分に知るところだ。
今度の温泉旅行は五影とともに、その護衛−要するに大戦の間に仲良くなった優秀な忍もこぞってやってくる。
「安心しろ。もし来るならそこのもおまえの護衛として連れて行く。」
エーはあからさまに嫌そうに、サスケをちらりと一瞥した。がサスケから離れないのをよく分かっているらしい。
その上は歩けない。
暁の残党がを狙わないとも限らないので、少なくとも3人の護衛を置かねばならない。一人はの足として一緒に逃げ、残りの二人が本来の護衛と言うことだ。その役目は当然、サクラとサスケ、ナルトに委ねるつもりでいた。
とはいえ他里の忍も手助けしてくれるだろう。
「人が多いとは言え、もし来るならあたしと同室だから、二人部屋だぞ。」
の体調もある。綱手もが対人恐怖症であることも良く理解しているので、配慮はするつもりだった。
「…行こう、かな。」
は少し考えて、ちらりとサスケを窺う。
「前に言っただろう。おまえがしたくないことはしなくて良いし、したいことはしたら良い。俺が選択できるように、おまえも選択できるって。」
サスケは前から、の選択権を奪おうとは考えていなかった。
イタチにとってもサスケも庇護の対象だったが、サスケはに対して対等な関係を望んでいた。ただ与えられてきたにそれは難しいことであるし、知識の足りないが選択するには不利なこともある。そういった時はサスケがを助けるのが、本来の二人のルールだった。
が大怪我で命が危うくなってから、サスケはから選択権を奪った。それはあまりにを亡くすことに恐怖したためで、今思えば、イタチの気持ちはよく分かる。
ただ、に選択権を与えた五影を見てサスケも思い直す部分が多かった。
「行きたい。」
はサスケの答えに、嬉しそうに手をそろえて首を傾げる。
「よし!」
綱手は自分の膝を叩いて、にっと笑う。
「豪勢な食事が出るぞ。あそこは。」
「ごうせい?」
「すごいってことだよ。嫌いなものはあるか?」
「辛すぎるもの。」
「そんなの旅館で出てこん。安心しろ。」
と綱手は楽しそうに温泉の話を始める。
それを見ながら、サスケは小さくため息をついた。
こんな風に同じ席で火影や雷影と戦うことはあっても、歓談することになるとは、天地がひっくり返ってもないだろうと頑なに思っていたのに、人生とは分からないものだと心から思った。
望んで、