五影が短冊街という温泉町に集まることになったのは、晴れ渡る9月の終わりだった。
各国の護衛の忍や関係者、家族なども一気に押し寄せるため、厳戒態勢ながらも商売シーズンと言うこともあり、町はすごい人で賑わっていた。
それにの随行が決まったのは、ほんの1週間前のことだった。
5代目火影とともに動き、次の火影候補者であるナルトもいるため、警備は厳重で、しかも基本的にはナルトと動くことになっていた。幸いサスケの随行も認められたため、護衛の牛車は随分と騒がしかった。
「また負けた―!!」
ジョーカーを引いてしまったナルトが、トランプを天井に放り投げる。
「おまえ、顔に出過ぎなんだよ。」
サスケは冷たくナルトに言い捨てた。先に上がっていたサクラと見ていたは苦笑する。
牛車の中にいるのはとサスケ、ナルト、そしてサクラだったので、酷く気楽な空間だった。当然外には暗部などがたくさんいるが、中には配備されていない。護衛を目的としたこの班の隊長はなんとナルトではなく、サクラである。
短冊街までの移動は結構な距離がある。
は今大きくチャクラを使えないし、希少な血継限界を持っているというのに自分の身を自分で守れない。暁の残党が未だにいるため、木の葉にいる方が安全だったが、綱手の申し出もあり、気晴らしのためにも皆が集まる短冊街について行くことになったのだ。
良い温泉があり、の体が僅かなりとも良くなるのではないかという期待もある。
ついでに大蛇丸も来るそうなので、の体を見てくれることになっていた。もちろん綱手やサスケが歓迎するはずもないが、の体調を考えて背に腹は替えられないといった所だろう。
「、体調は大丈夫?」
サクラは心配そうに牛車の中で背中にクッションを当てて座っているを見て問う。
「うん。」
はゲームもろくに知らないため、ルールを覚えるために先ほどのばば抜きは参加せずにただ見ていただけだ。ただ見ているだけでも楽しいらしく、始終ニコニコして楽しそうに笑っている。
相変わらず人前に出る時はフードを被ることが多いが、それでもサクラや我愛羅など何人かの前ではちゃんと外すようになってきていた。
また外出自体は好きなのか、楽しそうに御簾を上げて外の様子を覗いたりしていた。
「もやるってばよ!」
ナルトは先ほどからサスケとサクラに負けてばかりのため、になら勝てるかも知れないと期待の眼差しを向ける。
「うーん、わたしも顔に出そうだなぁ。」
はカードを受け取りながら、少し不安そうに言った。
「俺は飽きたからもう良い。」
サスケは負けてばかりのナルトにつきあうのがもう嫌らしく、手札を真剣な顔で眺めているの後ろから手を伸ばし、同じ数字のカードを前にある小さな備え付けの机に放り出した。まだは慣れていないので、サスケが一緒にやった方がルールもわかりやすいだろう。
「それにしても、国境付近が近いのかなぁ…。」
はあまりゲーム自体に興味はないのか、揃ったカードを出し終わると、御簾を上げて牛車の外を覗いた。先頭には火影たちが乗っている牛車があり、要人などが続いているため、列は長いし、随行の忍も多い。
火影の行列を見ようと出てきている近くの住民が遠くに見えて、は目をぱちくりさせたが、の襟首をサスケがぐいっと引っ張って牛車に戻した。
「そういう行動はするな。」
は戦う力がない上に、能力は非常に希少だ。すぐに殺されることはないだろうが、牛車から引っ張り出されて攫われる可能性はある。また乗っている場所がばれるのはよい事ではなかった。それをはいまいち理解していない節があり、それが失敗に繋がる可能性だってあるので、サスケたちは戦々恐々だった。
「来い、オレと席をかわる。」
サスケはを抱き上げて窓際だったを反対側に座らせる。
歩けなくなっているため自分では動けないは、もともと閉鎖的な場所が苦手であるため、牛車の中があまり好きではないし、外が見たいため窓際に座りたがっていた。だが、危険は窓際にいた方が多い。
「…え、でも、外が見たい。」
「オレ越しでも良いだろう?」
サスケは主張するに呆れたように言って、の頭を慰めるように撫でる。
「、もうすぐ国境も近い辺りになるから、危ないから、窓際に不用意によっちゃだめよ。」
サクラもを諫めてから、の手札からトランプのカードを取る。
「川を超えたら、休憩だってばよ。だから、嫌かも知れねぇけど、もうちょっとの辛抱だってばよ。」
ナルトはを慰めた。
があまり閉鎖的な室内が嫌いなことを知っている。牛車は閉鎖的で、は窓を開きたがったし、外に行きたがっていた。とはいえは今足も悪く、ずっとサスケにおんぶされたまま火の国の南西にある短冊街まで行くと言うのは警備上もあまりよろしくない。
そのために今回牛車での移動と言うことになったのだ。
「あと、どれくらい?」
は親にねだる子供のように今となっては歩くことは全く出来ない足をぶらぶらさせて、サスケを見上げる。
「そうだな…灯台はもう過ぎたんだったか・・」
「さっき透先眼で視た時は過ぎてたよ。」
は言いながら、ナルトの手札からカードを一枚取った。
「…おまえ、あまり用のない時にチャクラを使うなと言っているだろう?」
今は体調も安定し、透先眼を使うための小さなチャクラを動かすことは出来るようになっている。最近では上忍会からの透先眼を使った地図を書く任務もたまに請け負っている。だがやはりチャクラを動かせばたまに体調を崩す時があるし、サスケはそのことを酷く気に懸けていた。
はあまり自分の体調を加味していないし、危機感がない。それがを失うことに怯えるサスケの琴線に触れることがしょっちゅうだった。
「大丈夫だよ。実際大丈夫だったし、」
「それは結果論だろうが、」
サスケはため息をついて、が持っている手札から、同じ数字のカードを二枚取り、机の上に出来ている山へと放り投げる。
「おまえ、ナルトから札を引いて、同じだったらちゃんと出せ。」
「あれれ、同じだった?」
「ちゃんと見ろ。」
はまだいまいちルールが分かっていないらしい。
「良いか?ジョーカーを引くんじゃないぞ。」
「え?透先眼で視て良いの?」
「今使うなと言う話をしたところだろう。」
「駄目だってばよ!忍術瞳術禁止!せこいってばよ!」
サスケが止めるのとは全く違う理由で、ナルトはサクラのカードを取りながら、にはっきり言う。
「確かにね、写輪眼と透先眼を使われたらゲームにならないわ。」
サクラは笑って、の手札から一枚のカードを取った。は軽く小首を傾げてから、ナルトからまたカードを取った。
「やったぁああああああ!がとった!!」
「…とっちゃった。」
ナルトがどうやらジョーカーを持っていたらしい。は自分が引いたカードを睨んで、眉間に皺を寄せる。
「そうか。サクラにとっとととって貰え」
サスケは僅かに眉を寄せて、の背中を軽く叩いた。
もう引いてしまったのは仕方がない。後は上手にサクラがとってくれるような配置にするしかない。サスケはの手札を丁寧にくりなおしてからサクラに引かせる。
「ま、わたしはなかなか引かないけ…」
サクラはにっと笑ったが、ふと言葉を止める。それはサスケとナルトも同じだったのか、咄嗟に机に手札を置いた。
「なぁに?」
気配すら感じることを忘れているは目を丸くして、首を傾げる。
「なんだ?」
かさりと小さな音がする。サスケは眉を寄せて牛車の外の気配を探る。は気配については全く分からないらしいが、サスケに身を寄せてから、ふっと外を透先眼で見て目を丸くした。
「…あれ?暗部が、いない。」
「なに?」
火影の牛車から少し離れているが、がチャクラを使うことが出来ないため、暗部はかなり配備されていたはずである。サスケは僅かに声を荒げ、窓を開けて外の様子を窺うか、窓のミスに手をかけた。だが、その行動はの悲鳴のような叫びによってかき消される。 サスケはそれを聞いて慌てて写輪眼を開く。
「え、あ、えぇ!頭!下げて!!」
皆がの声に反応して頭を下げた瞬間、その頭上を何かが通り過ぎた。ナルトとサクラが呆然とする。牛車が上部だけぱっくりと切り裂かれ、青空が見える。見渡しが良くなってしまったため、外を見れば、そこにいたのは大きな鎌を持ったフードの忍が立っていた。
波乱の予感